高さはないものの体育館ほどの広さに木の香り。大きな窓の外には田園風景が広がり、陽が優しく差し込む明るい空間は工場というよりはアトリエのような雰囲気。ここで匠工芸の家具が作られます。行く先々で職人たちは作業の手を止め、「こんにちは」とあいさつで迎えてくれました。
デザイナーのスケッチをもとに設計された家具を作るのが家具職人の仕事。実際には細かい工程に分かれていて川上から川下まで職人の手が加わって製品になります。
匠工芸の製造現場を支えるのが約30名の職人たち。旭川で家具作りをしたいと職人を志し全国から希望者が集まってくるそう。若い社員が多いのですが、真剣な眼差しは職人の顔そのもの。世界に誇るブランドを支える自信がひしひしと伝わってきたのが印象的でした。
東神楽町の市街地を抜け、大雪山に向かってまっすぐな道を進み、十勝岳連峰までもが見渡せる小高い丘までやってきました。ここは匠工芸の本社工場。この6月にIFDA ASAHIKAWA2017 (国際家具デザインフェア旭川2017)で発表された同社の新作家具と家具作りに対する思いを、企画課長の業天昭人(ぎょうてん あきひと)さんに聞きました。
今回の新作「FAWN(ファウン)」はコンパクトさリッチさを両立させたリビング、ダイニングシリーズ。「子鹿」を意味する名の通り、従来の大柄な家具とは異なるスマートさや細部にこだわるデザインコンセプトを基に作られました。
デザイナーは数々の受賞歴を持つ松岡智之氏。デンマークでデザインを学んだ松岡氏によるシンプルで柔らかく丸みのあるデザインはどこか北欧を感じます。
松岡氏とは3年前に開催されたIFDA2014のデザインコンペで、入選となった彼の作品「TAPERED」(テーパード)の試作協力を当社が担当したことがきっかけです。このチェアは翌年11月に製品化を発表。IFDAでの受賞をきっかけに今回2回目のタイアップ製品となりました。
家具作りで必要とされるのは、家具としての安全強度とデザイナーが描く意匠との調和。デザインは非常にデリケートで、デザイナーの意思、思い、情熱が込められています。そこを簡単に崩したりせず、試作段階で安全性試験を重ねて製品として丁寧に磨き上げていきます。描き手のイメージを変えずに、永く使われる製品として設計し、職人が技術を存分に注げるよう工程を組んで、ようやくひとつの家具として生み出されるのです。
生み出された家具は、お客様の元で永く使えるということも大事な要素です。従い、リペアは非常に大切な取り組みです。壊れない家具を作ることが前提ですが、万が一破損したとしても部品を交換することで何代にもわたって永く使っていただけることでしょう。より味わいが出るほどお客様に永く使っていただける家具を作ることも私たちの喜びの一つです。
2017年7月23日 特集155号 ※記事の内容は取材当時のものです。