札幌の隣町、当別町の道の駅には「北欧の風」というサブタイトルがついている。町内には丘ひとつがまるごと北欧デザインの住宅地「スウェーデンヒルズ」があるし、姉妹都市はスウェーデンのレクサンド市という林業の町。とはいえ、なぜ道の駅まで北欧?とちょっぴり疑問を抱きつつ、まず当別町役場に行ってみた。
当別町の人口は1.6万人。その歴史は1872年、旧仙台藩の岩出山伊達家の入植に始まる。一見遠い北欧とのなれそめを、宮司正毅町長に伺った。
「1978年に、当時スウェーデン大使だった都倉栄二さん(作曲家 都倉俊一さんの父)が町へ来られた際、丘と森の風景を『スウェーデンにそっくりだ』と言ったそうです」
都倉大使は国際交流拠点を提案。道内発祥の企業、トーモクが、スウェーデンの住宅建築技術を参考にスウェーデンヒルズの開発を行い、1985年から入居が始まった。同社で採用した木製サッシは、その後1987年に当別町と姉妹都市となったレクサンド産だ。相互訪問交流などが続いている。
宮司さん自身も、実は移住者だ。欧州三菱商事社長として世界を飛び回っていた宮司さんは、一時帰国の途中、空港ラウンジで当別町に出会った。
「雑誌で偶然スウェーデンヒルズの広告を見て、そのまま予定を変更して北海道へ来てみた。そうしたらあんまり素晴らしいから、その日のうちに家を決めちゃった(笑)」
夫人の健康のために冷涼で環境の良い土地を探していたことに加え、電柱が埋設された美しい街並みは住み慣れたヨーロッパを思わせた。
静かな引退生活を望んだ移住のはずが、宮司さんはその後、様々なタイミングが重なって町議への出馬要請を受けることに。そして2013年に町長に当選し、今は町の底力を表出させることに力を注ぐ日々だ。
「基幹産業の農業は200品目を生産しており、その加工販売を町内産業にしていきたい。町の62%が森ですから熱源は木質バイオマスがあり、小水力や太陽熱による発電が増えています。道の駅の暖房も地熱利用で、化石燃料を使っていないんですよ」
宮司正毅・当別町長。「町内産業の6次化のため、農産物や加工品の販路としても、道の駅は非常に有効です。出店した町内事業者の方々にも、売上アップの効果が出始めています」
今年2019年9月で2周年を迎えた「北欧の風 道の駅とうべつ」は国道337号沿い、当別町で最も札幌寄りの地域にある。昨年度の来館者数75万人、道内に125ある道の駅の平均が約40万人というから、かなりの人気だ。
一歩入ってハッとしたのは、空気の爽やかさ。尖った大きな三角屋根は吹き抜け天井で窓が多く、地元近郊産のカラマツ材の壁が何とも気持ちがいい。公共施設にありがちなポスターや張り紙などは極力減らし、内装デザインを生かしている。 運営会社tobe(トゥビィー)広報の中田ひかりさんと、当別町道の駅係の鰐渕真太郎さんが、中を案内してくれた。
「札幌中心部から一番近い道の駅ですので、お客様像は、札幌の北区や東区を含む20km圏内の40代女性です」と中田さん。地域と姉妹都市の特産物が並ぶTOBEST(トーベスト)ショップ、地元米のだんごやテイクアウトフードのコーナー、奥にはレストランもある。別棟の農産物直売所では、生産者を明示した野菜やお米が買える。一言で言うなら、近郊からのドライブ客が欲しいものが揃っているのだ。狙いが定まっているから館内全体の統一感があり、心地よいのだろう。
この一貫性は、どのように実現したのだろう。設立前から関わってきた鰐渕さんに経緯を聞くと、農商工事業者を含む検討委員会が2014年に定めた基本計画で、既にグランドコンセプトが制定されていたという。
「大きな目的は、まず当別を訪れてもらうこと。来て頂くことで当別町を知って頂き、経済活動、農業振興が活性化し、都市農村交流にもつながる。その入口として、当別の食をPRすることになったのです」と、鰐渕さん。運営するtobeは第三セクター方式で農協、商工会、銀行などから出資を受け、その結果、多くの人が当事者として関わっている。
tobe直営スイーツコーナー。棚を飾る民芸の馬、ダーラヘストはスウェーデンの象徴だ。
道の駅のプランが進む中、飲食ゾーンの企画運営を打診されたのが、札幌でイタリア料理店「トラットリア・ピッツェリア/テルツィーナ」を営む堀川秀樹さんだ。「料理人にとって都市部に近い農村はとても魅力的。また、運営にとって肝心な設備やレイアウトにも意見を取り入れてくれた」といい、当別町特産の米、小麦、野菜などで、焼きリゾットとパスタのメニューを提案した。
堀川さんは地域ごとの料理を尊ぶイタリア料理の視点で、「北海道イタリアン」を提唱したシェフだ。イタリアでは地産地消は当たり前で、土地固有の味覚が旅の目的になる。それだけに「地方を発信するちょっとしたアクセントになれたらうれしい」と言う。
「もう一つの動機は、人材不足の時代に合った飲食業モデルの実証です。実際、料理人以外の仕事は町内のパートさんや学生さんが頑張ってくれています」と語ってくれた。
別れ際、tobeの中田ひかりさんはこう話してくれた。
「私は札幌在住なんです。この仕事に就いた時、お隣の町のことを何も知らなかったと気づきました。当別が札幌の台所と言われていること、食卓に欠かせない米、麦、豆の産地であること。今は農家さんの声を聞いて当別の食材に愛着を感じるようになりました。だからこそ、ここを起点にして、皆さんにも当別を少しでも知って頂きたいんです」
道の駅は、町のショーケースだ。関わる人々は、まちの財産を生かし育てている。北欧というイメージがその思いに統一感を持たせる。人々が動いて起こす北欧の風は、爽やかで希望に満ちていた。
(文・深江園子/写真・吉村卓也/表紙写真・山本由紀夫)
道の駅内のカフェレストラン「カフェ テルツィーナ」で、アルバイトの地元高校生を指導する堀川シェフ。
「未来の人材にとっても、このお店が社会経験の場になれば嬉しい」と堀川シェフは目を細める。
メインの焼きリゾットはイタリア料理の技法で当別名産のお米が主役。地元の野菜や肉を取り入れて地元米の新たな魅力を引き出した、いわば「当別イタリアン」だ。
「北欧の風 道の駅とうべつ」
当別町当別太774番地11
TEL:0133-27-5260
◆道の駅とうべつ
9:30〜18:00(4月下旬〜11月下旬)
10:00〜18:00(11月下旬〜4月下旬)
◆カフェ テルツィーナ
11:00〜18:00 (LO 17:00)
◆農産物直売所
9:00〜17:00(4月下旬〜11月下旬)
※11月下旬〜4月下旬は冬期休業
道の駅の周りは広大な農地。建物の後ろに夕日が沈む。空も広い。
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