オリンピックでの北海道勢の活躍もあって、すっかり人気のスポーツとなったカーリング。北海道は日本でも競技人口がいちばん多く、日本カーリング協会に所属するチームも、カーリング場の数も日本一だ。日本でカーリングが最初に行われたのは、1977年の池田町が最初だったと言われる。1981年には北海道カーリング協会ができ、1998年に長野五輪でオリンピック種目となった。そして、2022年北京五輪での「ロコ・ソラーレ」の銀メダルは記憶に新しい。とはいえ、スキーやスケートに比べれば実際にやったことがある人はまだまだ少ない。どんな人たちがカーリングを楽しんでいるのだろう。カーリング場を訪ねてみた。
最初に行ったのは、帯広市にある「カールプレックスおびひろ」。この施設は、寒冷地の農産物貯蔵などを専門とする農機具会社が作った民間の施設で、通年営業している。北海道の中でも、十勝はカーリングが盛んな地域だ。
中に入ると、暖かいロビーの中からガラス越しにカーリング場が見える。扉を開けて氷のあるエリアに入るとさすがに寒いが、カーリングをしている人たちはけっこう薄着だ。やはり体を動かしているからだろうか。
約20キロの「ストーン(石)」が氷の上を滑っていく。ゴロゴロという音がする。カーリング場の氷は、スケートリンクと違って、表面に「ペブル(小粒)」と言われる微妙な凹凸がついている。これは氷の摩擦を少なくして石が滑りやすくなるように、氷の表面に霧を吹きかけ人工的にデコボコを作っているためだ。ゴロゴロいうのは、このデコボコの上を石が滑って行くときの音だ。ブラシで氷を磨いている姿もおなじみだが、あれはストーンが進むコースの氷を磨いて溶かし、ストーンが進む距離を延ばしたり曲りを調整する「スイープ(掃く)」というテクニックだ。ストーンを狙ったコースで投げる、思った位置に置く、スイープでそれを微調整する、というのがプレーヤーのやることだ。カーリングという名前は「カール(曲る)」という言葉に由来するので、ストーンが真っすぐ進まないのは当然のことなのだ。
簡単にルールを説明すると、「シート」と言われる競技エリアに描かれた「ハウス」と呼ばれる丸い輪の中心のできるだけ近くにストーンを投げ入れた方が勝ち。1チーム4人で行い、1人が2投ずつ交代で投げ、中心に近いストーンのあるチームが勝ちとなり、そのストーンの数が得点となる。負けたチームの得点は必ずゼロだ。この勝負を「1エンド」といい、これを正式な試合では10回繰り返して合計点を競う。
訪れた日は帯広の高校生の女子チーム「ジュエリーアイス」の練習日だった。高校1年生が3人、2年生が1人。チーム名は、厳冬期に十勝・豊頃町の海岸に打ち上げられる十勝川から流れ出した宝石のような氷の愛称にちなむ。ジュエリーアイスは23年1月に行われた北海道高校選手権で見事優勝し、2月9日から青森で開かれる全国大会に出場する。本誌が発行されるころには結果が出ているはずだ。(※追記:ジュエリーアイスは全国大会準優勝)
どんなきっかけで高校生たちはカーリングを始めたのだろう。4人とも、いわゆるスポーツが得意なタイプではなかったそうだ。市山ひおりさんと、ひまりさんは双子の姉妹、そして佐藤七希(なつき)さんが高校1年生、中村碧音(あおね)さんは2年生だ。共通しているのはみんな小学校のときにカーリングの体験会に参加したこと。学校の部活には入っていないのでいわゆる「帰宅部」なのだが、カーリングの練習は週に2、3回行う。練習メニューも自分たちで決める。通っている高校もまちまちなので、ときにはオンラインでつないで筋トレなどを行うこともある。
チームのキャプテンは市川ひおりさん。「投げて、スイープして、みんなで考えながら一投一投決めて勝利できるのが楽しい」と語る。「スキップ」と呼ばれる作戦の司令塔の役割は佐藤さんだ。「いろいろな年代の人とゲームができて、年上の人たちのチームに勝ったり、もっと小さい子のチームに負けたりということも面白いところ」という。
チーム結成のきっかけになったのは、現在チームのコーチを務めるカールプレックスのスタッフでホールマネージャーの川平操子(みさこ)さんだ。その時の一言が「カーリングで世界を目指すチームを作らない?」だった。川平さんは15年前にこのカーリング場ができたときに、事務職として入った。カーリングはやったこともなく、お客さんに勧められ、せっかくカーリング場で働いているのだからとやってみたのが最初。スポーツを本格的にやった経験も無かった。ママ友を誘って、毎週1回カーリングをやってランチを食べるという軽いノリでやっていたが、だんだんと大会に出たりしているうちに、自分でも知らなかった負けず嫌いの気持ちが呼び覚まされたという。勝ったり負けたりを繰り返し、だんだんと勝てるようになっていくうちに面白くなってきた。強豪のチームと戦って、カーリングのことがより深くわかるようになってきた、という。
オリンピック出場チームの「ロコ・ソラーレ」と対戦したときもあった。負けたが「けっこういい試合」をして、満員の会場で、観衆に見守られながらプレーするのが楽しくてしょうがなかった。川平さんはシニアチームのメンバーでもあり、4月に韓国で開かれる世界大会に参加する。
カーリングの体験会も続けている。「子どもたちには、こういう楽しい冬の遊びもあるよ、と伝えたい。ジュニアの活躍なくして競技の繁栄はない。いつか一緒に世界大会に出るのが夢です」と語る。
このカーリング場を中心に同じくシニアで活躍するのが、帯広カーリング協会会長で北海道カーリング協会理事の佐藤真康さんだ。70歳の今も現役で、「カーリングエバンジェリスト(伝道師)」と名刺に書いている。カーリング歴は42年だ。
カーリングとの出会いは、カーリングを日本に紹介するため北海道を回っていたカナダ人のウォーリー・ウォースリアックさんの通訳を友人がやっていたのが縁で、「見に来てくれ」と誘われ、屋外の即席リンクで体験したのがきっかけ。当時、カーリングを知っている人はほぼ皆無の時代で、もちろん佐藤さんも初めて聞く競技名だった。元々野球少年でスキー、スノーボード、空手といろいろなスポーツをやっていた佐藤さん。最初にやってみた感想は、「これ、スポーツなの?」だった。それが「ちょっと面白いかも」となり、結局いちばんはまったのがカーリングだった。
「一発逆転のギャンブル性というか、いいショットを決めたときのアドレナリンの出方がすごい。『氷上のチェス』と言われることもあるがちょっと違うと思う。なんせ思ったところに石を置けないのだから。氷を読むことがとても大事なんです」という。
佐藤さんはシニアの世界選手権に6回出場している。本場カナダに行ったときに、小さな村にもカーリング場があってそれが地域に根ざし、時にはお酒を飲みながらカーリングをやり、社交場のようになっている文化に感激した。100万人とも200万人とも言われる本場の国での競技人口。対する日本は全国で約2500人くらいだという。
世界選手権では5位が最高。そのとき、最後にカナダのチームに当たってボロボロに負けた。「でもシニア大会では勝ったチームがビールをおごってくれるんです。それも楽しい」と語る。「100歳になっても公式戦に出たい。それが今本気で考えていること」と語る。
札幌市もカーリング場を持っている。2012年に完成した「札幌市カーリング場」がそれで、ネーミングライツ(命名権)で「どうぎんカーリングスタジアム」の名で知られる。人口集中地であることと、カーリングの知名度が上がったことにより利用者が増え、予約でいっぱいの日が多い。札幌のリーグに所属しているのは約90チームあり、カーリングをやりたいけれど場所がない、という状況になりつつあるのが現状だ。
大会に出るのに年齢制限は無いが、50歳を超えると「シニア」というくくりになり、シニアの日本選手権もある。札幌Sr(シニア)というシニアチームもこのカーリング場を練習場所としている。2022年11月、青森のシニア日本選手権では3位になった。このカーリング場ができて間もなく、近くに職場があった関係で、初心者の体験から始まったチームだ。スキップを務めるのは会社員の伊藤哲也さん(57歳)。10年ほど前、初めて体験したときのことを思い出す。
「誰でもできるかなと思ったけど、思ったよりできない。最初はみんなで滑ったり転んだりしながらも楽しくやりました。試合に出るようになっても下手は下手なりに楽しい。思ったところにストーンが行かないので、もうちょっと練習しようかとなりますね」と語る。
「シニアは体力では負けますが、粘り強さやメンタルの強さが特徴かも」と言う。
伊藤さんの妻の朋子さんは埼玉県出身。「北海道らしいスポーツをやりたい」と自身もカーリングを始め、シニアでは無いが「札幌Sr」のコーチでもある。
「初めてやったとき、ハウスの中にストーンが入ったのがすごく嬉しくて。もっとうまくなりたいと思いました」と振り返る。
リーグ戦の試合を見学させてもらった。この日の伊藤さんのチームはシニアメンバーが3人と若手1人。対戦相手は全員20代の女子チーム。札幌のリーグに男女の区別はない。なかなか手強いチームで、ストーンをいいところに置いてくる。見ているとだんだんと分かってくるのだが、よい位置でストーンが止まったりすると「うまい」と思う。結果は残念ながら大敗。年齢を重ねたメンタルの強さを発揮するチャンスは無かった。
スコットランドか北欧で発祥したといわれるカーリング。冬が長く、寒さの厳しい地域で始まった冬の娯楽だ。ヨーロッパや北米が強豪だが、日本や韓国でも広まりつつある。冬のスポーツとしてはまだ新しい競技。北海道カーリング協会によれば、地域のカーリング協会があるところは、苫小牧、伊達、平取、室蘭、札幌、妹背牛、南富良野、士別、名寄、稚内、北見、網走、帯広、池田、釧路、別海だ。一度経験してみたいという人には体験会に参加するのが手っ取り早いだろう。10年後、20年後、北海道のカーリングはどんな様相を呈していることだろう。
(文・写真:吉村卓也)
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