札幌市清田区にある平岡公園は梅の名所として知られる。園内には約1200本の梅が植えられ、北海道でも有数の規模の梅林だ。閑静な住宅街の中にある広大な公園で、面積は66.4ヘクタール。東京ディズニーランドの約1.3個分の広さがある。公園の真ん中を道央自動車が貫通しているのもユニークだ。梅林があるのは西地区と言われる高速道路の南西側だ。春の訪れとともに、梅の咲き誇る季節がやってくる。
清田区のシンボルともいえるこの公園の造成が開始されたのは1982年。当時この地域は豊平区だった。豊平区から分区して清田区が誕生したのは1997年。札幌市の10区の中で最も新しい区だ。公園は造成が終わったところから順次開放され、梅林のエリアは早いうちに利用が開始された。公園全体が完成したのは2004年だ。
この地域は元々は里山の広がる原野だった。清田区の資料によれば平岡の地名は「平らな岡」から名付けられた、とある。札幌市の人口が増え続けていた時代、現在の厚別区と清田区にまたがる公園周辺の地域は、「東部地域」と位置づけられ、1974年に札幌市は「東部地域開発基本計画」を策定し、開発が始まった。この前年に札幌市は「住区(じゅうく)計画」と呼ばれる「住区整備基本計画」を策定し、東部地域はこのコンセプトを元に作られた新しい街だ。住区計画とは、面積約1キロ四方、人口約1万人を目安に「1住区」とし、そこに道路、公園などを整備し、学校や商業施設をバランスよく配置する都市計画だ。このあたりの土地を買収していたのは丸紅グループ。無秩序な開発に陥らないよう、市が定めた「住区計画」に従って丁寧に開発されたのがこの地域の特徴だ。
それが功を奏し、一帯は乱開発とは無縁の整然とした住宅街となり、美しい街並みに、雰囲気のよいカフェや飲食店が点在する市内でも有数の「おしゃれ」なエリアとなっている。この東部地域の大規模公園として、住宅街に残したオアシスが平岡公園なのだ。
札幌市は1982年に定めた札幌市緑の基本計画の中で「環状グリーンベルト構想」という、札幌の街をぐるりと囲むように公園をいくつか配置する計画を発表した。モエレ沼公園、前田森林公園などが整備され、平岡公園もこの構想の一角に位置している。
札幌市のみならず、北海道には公園が多い。国や自治体が設置した公園はすべて「都市公園」と呼ばれ、いろいろな種類がある。都市にあるとは限らないが自然環境を保護するための国立公園などの自然公園とは区別され、あくまで人が使うことを第一に整備された場所だ。2020年度の国土交通省のデータによれば、1人当たりの都市公園面積は全国平均の12.3平方メートルに対して北海道は40.7平方メートルで、ダントツの1位だ。
「公園大国」ともいえる北海道だが、時代を遡れば、開拓使が1871(明治4)年に今の札幌の中心部に偕楽園という公園を作ったのが最初とされる。現在その跡には明治天皇の行幸の休憩所として使われた「清華亭」と小さな公園が残るのみだ。1956年、現在につながる都市公園法が制定され、街の中に一定面積の公園を作ることが義務化され、作られた公園は代々受け継がれることが担保された。都会の一等地とはいえ、みだりに公園を削って商業施設を作ったりはできない仕組みだ。
札幌市緑化推進部公園計画課(当時)が作った1982年の基本設計には、まだ梅林の構想はない。設計報告書には、現在梅林となったあたりはミズナラやイタヤカエデ、ヤナギ、シラカバの林と記載されているのみで、梅のことは出てこない。
同報告書によれば、この一帯は月寒台地を三里川が流れて形成された扇状地。三里川は高速道路の西端に沿うように、今も公園内を流れる。約4万年前の支笏火山の爆発による火山灰の堆積している地域で、月寒火山灰層と呼ばれる。
札幌市建設局みどりの推進部みどりの計画課計画係長の黒澤佑介さんに話を聞いた。(※肩書きは取材時)
「計画では、既存樹林を残すということでしかなかったようです。当時の計画に関わった人もずいぶん前に退職しているので詳しいことはわかりませんが」と前置きした上で、かつての担当者に聞いた話を教えてくれた。
「グリーンベルト構想の中にある公園にそれぞれ特徴を持たせたい、という考えがあったようです。例えば百合が原公園はユリ、モエレ沼公園は桜です。公園といえば花見がしたいだろう、平岡は梅がいいのではないか、というような話になったと聞いています。梅の名所、茨城・水戸の偕楽園にも視察に行ったようです。でも大きくなるまでに10年以上かかる。最初から見栄えのする梅はないかと道内を探していたところ、小樽市銭函に梅を育てているところがあるということがわかり、多くをそこから入手したようです。まとまった数が手に入ること、試験的に植えたものがうまくいったことで、梅で行こうと決まったと聞きました」。
梅林の計画が表明されると、市民からの寄贈も来るようになった。記録によれば1人で200本寄付した人もあった。当時の新聞報道によれば、水戸の偕楽園を上回る5000本の全国一の梅林を作る計画を板垣武四市長が表明している。その本数には到らなかったが、1200本の梅林でも十分見事で、毎年4月下旬から5月の開花時期には多くの人が訪れる名所となった。
毎年きちんと花を咲かせるには丁寧な剪定が重要になる。その作業は冬に行われる。そろそろ剪定作業も終わろうかという3月中旬、まだ雪の残る平岡公園を訪ねてみた。案内してくれたのは、同公園を管理する札幌市公園緑化協会、平岡公園管理事務所長の澤田拓矢さんだ。
「白梅と紅梅が混ぜて植えられています。花を見せるのが目的なので、実を採ることはしていません。実をならせると栄養分が取られてしまうので、実は小さいうちに落としてしまいます」という。剪定を担当しているのは毎年6人ほど。ベテランが多い。
「どこで枝を切るかで、花の付きが変わっています。陽当たりや、病気を止めることも重要。職人さんの腕の見せどころですね」
硬くなった雪の上に脚立を立てて、梅の木に取りついている人が何人かいる。休む間もなくハサミが動く。その中のひとり、平松徳雄さんは造園業に関わり50年のベテラン。梅の剪定はけっこう難しい部類に入るそうだ。
「花を咲かせるのか、実を採るのかで剪定の仕方が違うんです。梅は切れば切るほど新しい枝が出てきてそこに花が咲きます。剪定は1本の木でだいたい2〜3時間、大きな木だと半日かかる。1年で全部の樹はできないので年ごとに場所を決めて剪定します」という。
澤田さんによれば、近年で一番早く開花したのは2002年の4月23日、一番遅かったのは2013年の5月19日だ。さて、梅は咲いたか?今年はいつごろだろう。
(文・吉村卓也)
※梅の開花時期が近づくと、平岡公園では毎日開花情報を発信している。
▼平岡公園 今年の開花状況
※梅のピーク時は駐車場が満車になることが多。カーナビで「平岡公園」を探すと管理事務所のある東地区を指定されるので注意。梅林は西地区にある。公園は高速道路で二つに分かれていて、公園内からは両エリアは行き来できない。
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