AFC アサヒファミリークラブ

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 「テキヤ殺すにゃ刃物は要らぬ。雨の3日も降りゃあいい」。映画「男はつらいよ」の主人公・車寅次郎(渥美清)は、ご存じ啖呵売の露天商。冒頭の粋な言葉通り、雨は“天敵”。ましてや、雪はもってのほか。そもそも“冬は南へ”がフーテンの鉄則(?)だから、厳冬期の今、寅さんが向かうとすれば、九州か沖縄だろうか。

 雪とは無縁の寅さんだが、北海道には何度も訪れている。札幌、共和(小沢)、函館、小樽、支笏湖、奥尻、羊蹄山、釧路、知床…。とりわけ、網走を舞台にした第11作「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」は、歴代マドンナのなかで私が最も好きなリリー(浅丘ルリ子)が初登場する作品だ。

 リリーはドサ回りのキャバレー歌手。網走行きの夜汽車で一人涙する姿を寅さんが見かけ、翌日、網走橋でレコードを売る寅さんに彼女から声を掛けてきたのが出会いの始まりである。聞けば彼女も流れ流れの渡り鳥。境遇の似た2人は、船着き場で家族に見送られる漁船を眺めながら、ほんの一時、心を交わす。

 「私達みたいな生活ってさ、普通の人達とは違うのよね。(中略)つまりさ、あぶくみたいなもんだね」

 胸中を吐露したリリーに、寅さんがどう答えたかは観てのお楽しみ。ともあれ、根無し草の2人が旅先で目を向けたものは、美しい風景でも、美味しい食事でもなく、その土地に根差して生きる人の営みというのがやるせない。

 2人のドラマは、函館で再会を果たす第15作「寅次郎相合い傘」へと続く。船越英二を加えた3人組が小樽を目指す珍道中は、何度観ても楽しい。憎まれ口を叩き合う寅さんとリリーは誰が見てもお似合いなのに、なかなか結ばれないのがもどかしいところ。その先は、第25作「寅次郎ハイビスカスの花」&第48作「寅次郎 紅の花」をご覧あれ。こちらは沖縄が舞台だが、「紅の花」では年を重ねた2人が北海道の思い出を語る。私は偶然、このシーンを道内の長距離バスのモニターで見て、思わず泣いた。自分が暮らすこの土地が、寅さんとリリーの大切な場所だということに胸が一杯になったのだ。

 そういえば、「男はつらいよ」シリーズを「48回も男が振られるなんて残酷だ!」と怒っていた映画好きの先達がいたけれど、「忘れな草」のリリーの言葉を借りると、「本気で惚れた経験」が48回もあるなんて、寅さんは誰より幸せ者ともいえるのではないだろうか。惚れた相手にはいつもジェントルマンな寅さんが、北海道でリリーに見せる優しさは、広い大地の片隅で肩を寄せるような、温かさと寂しさを含んでいる。

 さて、今年は「男はつらいよ」誕生からちょうど50年。なんと、22年ぶりの新作が12月27日に公開されるという。DVDで全作を一気観した“遅れたファン”だけに、劇場のスクリーンで寅さんに会える日が、今から待ち遠しい。

イラスト&文 新目七恵(あらため・ななえ)
“三度の飯より映画好き”の札幌在住フリーライター。NPO法人「北の映像ミュージアム」所属。子どものころチャップリンに爆笑し、大学生のときロック・ミュージカルの金字塔「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」に衝撃を受ける。函館の地方紙記者時代に佐藤泰志小説の映画化第1弾「海炭市叙景」に携わり、“北海道と映画をつなぐ”ことがライフワークに。2016年からZINE「映画と握手」を個人発行し、北海道マガジン「カイ」サイトでもミニコラム「映画と握手」を連載中。最近のお気に入りは清水宏監督とインド映画!

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