AFC アサヒファミリークラブ

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幻のぼたんそばを、栽培・加工 富良野市 有限会社井上農産

富良野がラベンダーでにぎわう7月下旬。富良野市東山地区の井上農産の農地では白いそばの花が満開でした。これは、今では幻の品種といわれる「牡丹ソバ」。かつて大正末期から昭和初期までは、北海道のそばといえばこの在来種でしたが、栽培が難しく収量も少ないことから、新品種の「キタワセ」が北海道の主流となり、次第に牡丹ソバは姿を消していきました。しかし牡丹ソバは独特の甘さがあり風味が豊か。そば通や昔のそばを懐かしむ人に今も求められています。その牡丹ソバを栽培し、加工までを手掛ける井上農産のチャレンジをご紹介します。

TEXT/浜岡あけみ PHOTO/吉村卓也、山本由紀夫

ぼたんそばを育て、収穫する。玄そばを石臼でひき、粉にする。富良野の小麦粉でつなぎ、麺にする。それぞれの過程で多くの思いがあった。ぼたんそばをめぐるストーリー。8分30秒のドキュメント動画でご覧ください。

井上農産では富良野ぼたんそばの種を5月下旬にまき、8月下旬ごろに収穫します。

井上さんはタマネギ農家の4代目。現在、井上農産の社員は家族・親族の6名で、主力のタマネギのほかソバやスイートコーン、スナップエンドウ等の野菜も栽培しています。

独自性を目指して、6次産業化認定法人へ
“富良野発の農産ブランドを創りたい”

タマネギ農家の井上農産が、ソバ栽培を始めたのは2011年のことでした。そして翌年12年5月には6次産業化認定※を受け、多角化経営に乗り出します。このように新たな領域に挑んでいく理由とは何か。同社代表取締役の井上聡さん(42歳)に聞きました。

ソバの花で白く染まる58ヘクタールの丘陵地。その風景の中、作況を確かめている有限会社井上農産の代表取締役、井上聡さん。富良野の風が開花したソバの花を受粉させます。

井上農産の自社乾燥調整施設。収穫したソバの実をこの施設で24時間乾燥させ、約23%あった水分を16%以下まで落として出荷します。

乾燥調整施設で処理をした富良野ぼたんそばの玄ソバ。


ならば自分が富良野ブランドを創る!

 盛夏の富良野にこれほど美しい白い丘が広がっていることを、いったいどれだけの人が知っていたでしょうか。そしてこの地が、数年前まで耕作放棄地となり荒れ果てていたということも…。

 現在富良野市でも農家の高齢化と後継者不足によって、作付け予定がなく放置された農地が増えてきています。そうした耕作放棄地を有効利用しようと考えたことが、ソバ栽培を始めるきっかけとなりました。荒れ果てた土地から石や木、雑草を取り除き、耕作可能な畑によみがえらせたのは、農業人としての使命感もあってのことでしょう。

 そこで育てる品目は、主力のタマネギと並行しながらでも可能なソバで決定。1、2年目は北海道の主流種キタワセを育てて出荷をしました。ところが、いくら土づくりから努力をして育てても、他産地のそば名が付いて市場に出回る現実を目の当たりにして消沈をします。

 「せっかく富良野で生産するのだから、富良野の名前で消費者に届けたい。そして富良野の新たな特産にまで育てたい」。井上さんのその思いをかなえるためには、加工事業まで担うことが条件となります。それは大きな設備投資をともなう挑戦でしたが、地域と次代のためにも決意。自社乾燥調整施設を建設し、農林水産省6次産業化の事業者となりました。

独自性を求め多彩なぼたんそば商品を

 井上農産が6次産業化事業者となる際、井上さんの頭には次の課題が浮かんでいました。それは独自性のある商品づくり。「その柱が、今では希少となった在来種、牡丹ソバの栽培と商品化です。昭和初期までは富良野でも牡丹ソバを育てていたと聞いたので、復活させたいという気持ちもありました」。

 栽培が難しいうえに収穫量が少ない農家泣かせの牡丹ソバ。その反面、香りと甘さはひときわで、栽培を求める飲食店やファンは根強くいます。そうした声に応えて井上さんは、耕地に有機肥料を入れ、空知地方から譲り受けた貴重な種をまいて、富良野にぼたんそばを復活させました。

 農作業から加工製造の品質管理、そして次の商品開発。多岐にわたる仕事を担いながら、井上さんは何を思っているのでしょう。たずねてみると…。「このきれいな富良野の風景や風土感を、消費者の皆さんにも伝えたい。富良野の良さを知ってもらいたいですね」。そう言って日に焼けた笑顔を見せてくれました。

※6次産業(ろくじさんぎょう)とは、農業や水産業などの第1次産業が食品加工・流通販売にも業務展開する経営形態


真っ白なソバの花が黒くなってきたらいよいよ収穫。

収穫したソバの実をこれから乾燥調整施設へ搬入。

麺だけじゃない! バラエティーにそろう「富良野ぼたんそば」シリーズ

 井上農産の「富良野ぼたんそば」シリーズは麺以外にも広がっています。「石臼挽きそば粉」や「ぼたんそば茶」、ぼたんそばの花から採集した「はちみつ」に、業務用の「ぼたんそば茶アイス」まで! 最近では「フラノマルシェ2」のカフェとコラボした「蕎麦のガレット」が試作デビューし、今後の本格販売が待ち望まれています。このように随時増えていきそうな新製品をお楽しみに。

パッケージに描かれている
井上さんの大好きな風景

 井上農産が商品作りと並んで大切にしているのが、パッケージ等のクリエイティブワークです。井上さんが専属デザイナーに依頼したのは「見た人の心にソバ畑の美しさや富良野の魅力が浮かぶデザイン」。そのリクエストを受けて出来上がった箱や包装は、いずれも白いソバの花や丘の風景がモチーフで、かわいらしい装丁は手に取った人を魅了します。

夏新そばを堪能!香り立つ富良野ぼたんそば。

北海道各地の提携製造工場で製品化

 富良野盆地ならではの寒暖差によって、糖度をしっかりと蓄えたぼたんそばの実が収穫されたのは夏の終わりごろ。その後は井上農産の乾燥調整施設で乾燥され、北海道各地の提携製造会社へと出荷されました。

 そば粉は石狩市の製粉会社で、乾麺は留萌市の製麺会社で、そして生麺は富良野市内の製麺会社で製造。いずれも牡丹ソバの特徴を生かすため、井上さんが監修と管理を徹底しています。また各製造会社も可能な限りの助言や技術を提供して「富良野ぼたんそば」の品質向上を支えています。例えば、そば製麺に必要なつなぎの小麦粉も富良野産を使い、オール富良野の麺にしたいという井上さんの強い希望に応えるため、製麺会社は根気よく試行錯誤を重ねたと言います。そのかいあって、風味やなめらかさ、歯ごたえもすべて申し分のない乾麺が出来上がりました。その品質は、ゆで始めた時からはっきりと分かります。乾麺とは思えないほど濃厚なソバの香りが漂うのですから…。

 また生麺も乾麺と同様につなぎの小麦粉も富良野産。現在、富良野市内の飲食店にのみ卸され、風味とコシ、のど越しの良さで来店客に喜ばれています。

 こうして富良野ブランドに「そば」が加わった陰には、一農家の先駆者精神と、連携する製造会社の尽力があったのです。

 整地と土づくりから丹精を込めて育てた「富良野ぼたんそば」シリーズには、懐かしい北海道のそばの味と、常に前進する農業人の情熱がこもっています。

玄ソバは繊細で熱に弱いため、熱を持ちやすい機械製粉ではなく石臼びきで製粉。だから牡丹ソバ特有の風味が生きています。

有限会社 井上農産
富良野市字下五区
TEL 0167(22)0325/090(2057)1060
■ウェブサイト


製粉したそば粉と小麦粉をミキシングして、この後かくはんの工程へ。

生地を均一な厚さで繊細に延ばす機械技術は、まるでそば職人のような領域。

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