AFC アサヒファミリークラブ

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この豆、この味、八十四年目
夕張、北沢食品の豆甘煮缶

ベーコンに使うのはデンマーク産ランドレース種の豚バラ肉。
一番人気の「花豆甘煮」。豆は紫花豆。からまる煮汁がまたうまい。

 炭坑町として栄えた夕張市。急激な人口減や財政破綻と、ネガティブな話題ばかりで注目されることも多い。町は大きくその姿を変えたが、変わらないものもある。豊かな自然、冷水山、町を流れる夕張川、そして、北沢食品の豆の缶詰だ。

創業は大正10年

 北沢食品の創業は大正10(1921)年。夕張メロンの誕生が昭和36(1961)年だから、それよりずっと前から地元産の農産物加工を担ってきた会社だ。

 社名を株式会社北沢食品工場といい、工場は創業時から今と同じ、夕張の南清水沢地区にある。コンパクトシティーを目指す夕張で、将来中心となる地域として計画されている場所の一つだ。訪れたとき、木造の工場は冬の一休みの時期に入っており、きれいに掃除された内部はひっそりとしていた。

 案内してくれたのは社長の谷全(たにまた)悦夫さんだ。

 近代的なハイテク工場のイメージとは対極にあるような、歴史を感じる建物。白く塗られた木の柱、年期の入った缶詰の機械、豆を煮る大きな釜が並ぶ。ほとんどが手作業だが、1日約7000缶くらいは生産できるという。

 屋根から落ちる雪が工場の窓を覆い、薄暗くなった倉庫の中、蛍光灯をつけると出荷を待つ缶詰の段ボールや豆の大袋が積まれているのが見えた。

「白花豆甘煮」。大きな豆がごろごろと。
光輝く小豆。「白花豆甘煮」。大きな豆がごろごろと。

創業者は長野から

 北沢食品は、長野県出身の北沢晋さんによって創業された。イチゴジャムの缶詰からスタート。その後、ホワイトアスパラの缶詰にチャレンジ。大きな失敗もあったが、数年かかって軌道に乗せた。昭和になってからスイートコーン、グリーンピースの缶詰も手がけるようになった

 煮豆の缶詰を始めたのは昭和10年頃だ。出身地の長野県でよく食べられていた花豆の甘煮の味を思い出しながら、夕張産の豆を使って正月用商品として作り始めたのが最初だったという。

 今、北沢食品はJA夕張市の子会社であり、現社長の谷全さんも元々JAの職員だ。今は夕張で採れる農産物の加工全般を行っていて、夕張メロンの加工品生産が大きな割合を占めるが、煮豆の缶詰は今年84年目を迎えるロングセラーだ。

変わらないデザイン

 北沢食品は夕張の人にはなじみが深い。パン製造をしていた時代もあり、夕張の学校給食のパンを一手に作っていたこともある。夕張の人は贈り物にこの豆缶を使うことも多かったので、紺色の帯に赤字のローマ字のロゴがついたこの缶詰に、見覚えのある人も多いはずだ。基本的な缶のデザインは今も変わらない。

 「ロゴを変えようかという話もあったんですが、もうこのデザインはいじれないな、ということになりまして」と谷全社長。歴史なのである。

創業大正10年。歴史を感じさせる工場の中は、掃除が行き届き、きちんと整頓され、清潔感が漂う。
創業大正10年。歴史を感じさせる工場の中は、掃除が行き届き、きちんと整頓され、清潔感が漂う。

厳選された6種の豆

 作っている煮豆缶は6種類。「ゆであずき」「くろ豆甘煮」「とら豆甘煮」「大正金時甘煮」「花豆甘煮」「白花豆甘煮」だ。かつてはほとんどの豆を夕張産でまかなっていたが、シカの食害や担い手不足で豆の生産が減っていき、現在、夕張産のものが半分入る花豆を除いては、夕張以外の道産の豆を使う。6種の中でいちばんの人気はこの花豆だという。原料は紫花豆だ。

 豆は契約している農家から仕入れる。等級の上のもの、乾燥度は16%以下が基準だ。入荷した豆は、工場でさらに選別する。基本的には人の目で、手で、チェックする。つぶれていたり、小さかったり、煮たときに美しく仕上がらないものを除いていく。手間のかかる作業だ。工場と事務所にアルバイトを含め、約15名が働く。

煮豆。経験が物を言う

 豆は水洗い後、一晩水につけ、灰汁抜き工程を含めて何回か煮る。最後に砂糖と塩を加えて仕上げる。この行程は家庭での煮豆づくりとほぼ同じだ。豆を煮る大きな釜は蒸気の熱で温められている。6種類の豆、それぞれに工程は微妙に違い、そこには長年の経験と技がある。豆以外の材料は、道内産のビート糖と塩のみが基本だが、黒豆だけは色と艶を出すため醤油等の材料が入る。

 煮上がった豆は、豆と煮汁を分け、最初に豆を缶詰に入れてから、煮汁を加え、フタをする。でき上がった缶詰は蒸気で加熱殺菌、その後冷却され、日付スタンプを打って完成。賞味期限は3年間だ。

光輝く小豆。「赤いダイヤ」と呼ばれたのもうなずける。
光輝く小豆。「赤いダイヤ」と呼ばれたのもうなずける。

社長の谷全悦夫さんに工場内を案内してもらう。豆を煮る大きな釜が並ぶ。
社長の谷全悦夫さんに工場内を案内してもらう。豆を煮る大きな釜が並ぶ。

フタを開けると…

 缶詰の底にはプルタブがついていて、缶を逆さにして開ける。

 いちばん人気の花豆の缶を開けてみる。煮汁の中から、大きな黒っぽい豆が顔をのぞかせている。箸でつまんで持ち上げてみる。しっかりと形が残り、その楕円形が美しい。ぱくっと一口。ふっくらとしているが、柔らかすぎず、硬すぎず、やっぱり豆を煮るのはプロに任せようと思うのはこういうときだ。甘味も素直で、煮汁まですすりたくなる。豆にからまる煮汁の絶妙な粘度は、それぞれの豆の特性でさらさらだったり粘り気があったり、自然のままだ。

 これまでに、甘煮以外の水煮や塩煮の豆を試作してみたことがあるが、商品化には至らなかったという。やっぱり昔ながらの甘く煮た豆。お弁当に入っているとちょっとうれしくなる、そんな懐かしい豆なのである。(文・写真:吉村卓也)

株式会社 北沢食品工場
夕張市南清水沢2丁目21番地
0123-59-7001
https://kitazawashokuhinn.jimdo.com/

※カバー写真「この豆な〜んだ?」の答えは中心部から、小豆、とら豆、黒豆、白花豆、紫花豆、大正金時でした。全部わかったあなたは豆通!

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