AFC アサヒファミリークラブ

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寒暖差60度から生まれる卵。
はじめあっさり、うま味の余韻
あべ養鶏場 下川町

あべ養鶏場。
白身の癖の無さがわかるのが卵かけご飯。あつあつのご飯をちょっとくぼませて、「ロクマル」をぽとり。ほんのり甘い黄身を楽しむには、醤油は少なめがいい。

 パッと目立ってわかりやすいのが人気者。これは卵の世界も同じらしい。店の卵売場で聞くと、赤玉で味の濃い卵がよく売れるそうだ。そんな中に「あっさりうまい」卵があると聞いて、道北の下川町へ会いに行った。

外食バイヤーが見込んだ卵

 札幌から約220km、車で3時間と少し。山を遠く見渡す平原に田んぼや小麦畑が広がり、空気が冷たく澄んできた頃、下川町に入った。資源循環を厳しく評価する「森林認証」を取得した、森の町。人口約3300人のこの町にあべ養鶏場が創業したのは1962年だ。半世紀以上前、夏と冬の寒暖差60度にもなる気候に合う鶏種探しから始めたという。天然原料を発酵させる餌で飼うことから、卵は酵素卵と呼ばれていた。2016年にこの養鶏場を事業継承し、「下川六○(ロクマル)酵素卵」として販売しているのが現営業部長の村上範英さん。前職は飲食会社のバイヤーで、この卵に惚れ込んだ張本人だ。

 農場の眺めは広い。環境と景観を大切にする町らしく、視界を遮る電柱一本ない。卵の選別場と隣り合わせの事務所で、村上さんが迎えてくれた。「うちの卵は、強烈なおいしさではないんです。飲み込んでからもじんわりうまさが続くいい味だと思うんですが、なかなか伝わらなくて…」と言う。だが事実、ここの卵は地元近郊で半世紀以上選ばれ続けている。

あべ養鶏場。
あべ養鶏場で、卵と向き合う3人の男達に会った。左から、プリンコンサルタントの濱口竜平さん、あべ養鶏場営業部長・村上範英さん、生産部部長の能藤一夫さん。養鶏場のある下川町内に加工場を作ったのはこの冬。朝採れ卵をすぐに加工できるようになった。

寒さを生き抜く、健康な鶏づくり

 農場を歩きながら、話を聞いた。「うちの鶏種は寒さに強いソニア種。卵の色はご覧のとおり淡いピンクです。鶏の飼い方は、創業者から受け継いだ方法に改良を加えています。気温差60度の厳しい気候を生き抜いてくれるようにと、鶏の健康を第一に作り上げた方法です」という。「例えば、餌の色によって卵黄の色は変わりますが、うちでは卵そのものを変えるために何かをすることはありません」。納屋で混ぜ合わせて作っている餌を鼻に近づけると、新しい米ぬかの匂いがして、ちょっと香ばしい。原料は米ぬか、トウモロコシ、牡蠣殻、カニ殼、下川町の炭などだ。「卵は雛の誕生のための栄養バランスが整っています。それを変えるのは無理だし、何かしようとすれば鶏に無理をかけかねません」と村上さん。衛生上と安全のため鶏舎に窓はないが、鶏は常に人の目で管理され、ゆったりと清潔な環境で外の風を呼吸しながら卵を産み、一般的な養鶏場の鶏より長生きする。

 実際に卵かけご飯にしてみた。まず卵を割った時に感じる白身の臭みがない。ないものを気づくと言うのも変だけれど、普段ちょっとだけ気になっていた卵臭さがないのだ。黄身のほうは明るいレモンイエロー色で、うまみを感じる。後味に、ほんのり甘みも感じる。ねばつきがなく、食後に口をすすぎたくならない。火を入れてみると、余計に雑味のなさが際立つ。これなら、合わせる食材のおいしさを増幅させるに違いない。「トリュフの芳香を加えた塩で食べるTKG(卵かけご飯)が流行っていますが、うちの卵だと香りが最高に広がりますよ!」。元外食バイヤーの村上さんが言うと、いかにもおいしそうだ。

おいしい匂いのする自家配合餌は、下川町産の木炭入り。卵殻のもとになる(そして鶏の消化器にも欠かせない)カルシウム分はカニや牡蠣の殻を与える。
おいしい匂いのする自家配合餌は、下川町産の木炭入り。卵殻のもとになる(そして鶏の消化器にも欠かせない)カルシウム分はカニや牡蠣の殻を与える。

「究極の」より「食べて心地よい」

 その村上さんをしても、この卵の優しいけれど確かなおいしさを伝えるのは難しい。そこで、味覚センサーによる分析評価を得意とする「味香り戦略研究所」に依頼して他社のブランド卵8種との比較を行ったところ、面白いデータが取れた。「9種のうち、うまみの持続時間が最も長かったんです」。データを比較検討した結果、卵の味わいには色々なタイプがあることがはっきりした。人間の感じるうまみのインパクトをグラフにすると、六○酵素卵は中ぐらいのうまみが長く続く線形を描く。この試験によって、村上さんたちには、加工品にも味の特徴を生かすというテーマが見えてきた。

 説明を受けながら農場から戻ると、2人の男性が待っていた。1人は生産部部長の能藤一夫さん。農場とは別の場所に加工場があり、ピンクの卵を茹でて燻製にしている。「電位を利用した浸透法で、黄身の中までほんのり塩味を浸透させます。燻製も温燻でなく、冷たい煙を使う冷燻で、焦げ臭のない香ばしさに仕上げます。」

プリンの達人に聞く、六○酵素卵の魅力

 もう1人は、株式会社無垢(東京)の代表、濱口竜平さんだ。濱口さんは世田谷区奥沢でプリン専門店を営むかたわら、ご当地プリンのコンサルタントとして飛び回る、人呼んで“プリンマン”。村上さんの依頼で、4月に落成したプリン加工場のために新しいレシピを提案中なのだ。「仕事で20ヶ所以上の養鶏場に伺って卵を食べてきましたが、この卵はちょっと特別」という。前出の分析の補助データにより、卵黄の甘みが他のブランドより強いこともわかった。「食べた時の印象と数値が一致したことで、ロクマルの良さに納得しました。まず、濃厚な生クリームタイプでは乳製品の良さが前面に出る。一方で卵黄たっぷりの、卵の素直さを主役にした配合も提案しました」。選ばれたプリンは、今月新発売となったばかりだ。

燻製器に入れるため、卵をラックに並べる。約30分、下川町の森の木のチップを使って燻す。
燻製器に入れるため、卵をラックに並べる。約30分、下川町の森の木のチップを使って燻す。

 毎日のように食べる卵は、おいしいほうがいい。けれど、食べ疲れない味はもっといい。その上、家で作る卵料理が簡単においしくなれば、最高だ。何事も過剰なこの時代、そんな「ほどよくおいしい卵」は案外貴重なのかもしれない。

あべ養鶏所
北海道上川郡下川町班渓1386番地
TEL 01655-6-7766
http://www.abe-youkei.com/

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