先日、妻と列車で函館に行った。夕方、札幌駅から特急「北斗」に乗り込んだ。函館まで4時間弱。本当は駅弁を買いたかったが、直前までバタバタしてその余裕がなかった。車内で何かしら調達できるだろう。そう思った。
だが、席についてスマホで調べると、車内販売も自動販売機もないことがわかった。「しまった」と思った。
妻は血糖値が下がると、体の力が抜けたり、動悸がしたりすることがある。その時点ですでに空腹で、あめ玉を2、3個口に入れたが、頻脈や脱力感が出始めた。まずいと思い、車掌に「お金を払うので何か食べ物をもらえないか」と頼んだ。だが、「何もないんです」と言われた。
途中駅の停車時間はわずかで、自販機で飲み物を買うことも難しい。ただ、東室蘭駅では乗務員交代があり、他の駅より長い1分ほどの停車時間があるという。車掌は「私が見ているので自販機で買ってきてください」と言ってくれた。妻は扉が開くと、ホームの自販機に走り、「一番カロリーの高そう」なコーンポタージュの缶を2本買った。
すると、そこに駅員が駆けつけた。「よろしかったらどうぞ」。3つの菓子を差し出した。沖縄の伝統菓子「ちんすこう」や沖縄限定味の「パックンチョ」などだった。
妻は席に戻ると、目に涙を浮かべながらコーンポタージュを一気に流し込み、菓子をガツガツ食べた。「これがなかったら倒れていたと思う」。車掌にお礼を言った。
調べたところ、JR北海道は2019年2月に特急北斗で車内販売を終了した。これで、全ての在来線特急で車内販売がなくなったという。
4月に転勤してきて以来、JR北の赤字路線問題を取材してきた。コスト削減はこんなところにも及んでいるのかと感じた。国は、公共インフラである鉄道網の存廃をJRや地方の協議にゆだねているが、本当にそれでいいのか。その思いを改めて強くした。
朝日新聞北海道報道センター記者 新田哲史
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