1973年伝説の月刊新聞「アヌタリアイヌ われら人間」を創刊し、2017年にはアイヌ民族の遺骨返還を訴えた長編詩『痛みのペンリウク―囚われのアイヌ人骨』(草風館)を上梓した作者が、和人との恋や結婚、別れ、それらを乗り越え、或いは超然と立ち、すっくと前を向いて歩むアイヌ女性の姿を描く4編の小説。読了後たまらない切なさを抱かせつつ、清々しさをも感じさせる。「沈黙を強いられた人々が、言葉を表出しようとして」生み出された、現代アイヌ文学の精髄を実感させる作品集である。
著者 土橋芳美 出版 藤田印刷エクセレントブックス 発行 2022年8月7日 価格 1980円(税込)
和人である著者はアイヌ民族研究者から新聞記者に転じ、現在もその研究を深めている。調べ、現場に立ち、思いを巡らせ、伝えることを一体のライフワークとして、アイヌの歴史に向きあう姿勢が凝縮された1冊だ。旅は「クナシリ・メナシの戦い」の現場からスタート。アイヌの人々が歩き、或いは櫂で漕ぎ進んだルートを可能な限り再現しながら各地を巡り、そこで起きたことを資料と合わせながら検証していった貴重な旅の記録だ。そこから著者はアイヌの視点に立った歴史観の構築を訴えている。
著者 小坂洋右 出版 藤原書店 発行 2023年3月 価格 2970円(税込)