この前代未聞の食べ物が誕生したのは1963(昭和38)年。富良野の学田にあった納豆メーカー・富士食品が「栄養価の高い納豆を、ぜひ学校給食に使ってもらいたい」と開発したもので、生みの親は創業社長の柿本亮策さん(故人)だった。二代目社長を経て、現在『ナゥピー』の製造を続けている息子の柿本薫さんはこう語る。
「当時の学校給食は100%パン食でした。おやじは『納豆をアイスもなかのようにしたらパンにも合うのではないか』と考え、液体窒素で物を急速冷凍する機械を購入したんです。最初は『ナッピー』という名前だったんですよ。納豆のナと豆のイメージから、おやじが付けたんです」。
『ナッピー』は、まず富良野と近隣の給食に登場。さらに給食資材の問屋を通して十勝や空知など道内各地に広まり、冷凍食品を扱う会社を通して本州にも進出していった。
道内の子どもたちの反応はというと、「絶対食べない子もいれば、残した子の分まで食べる子もいて、両極端だったようですね」と柿本さんは苦笑いする。好き嫌いはあったにせよ、『ナッピー』のインパクトは子どもたちの心に刻まれ、やがて郷愁に結びつく思い出となっていったようだ。
一方、1985(昭和60)年に設立された富良野物産公社が扱うこととなり、箱入り商品の市販も始まった。しかし、『ナッピー』の行く手には波乱が待ち受けていた。商標上の問題から商品名が使えなくなり、製造中止に至ったのだ。そこで、やむなく1字違いの『ナゥピー』に変更。新しい名前も浸透していったが、その後2009(平成21)年に富士食品が廃業してしまった。
それでも『ナゥピー』が姿を消さなかったのは、周囲の後押しがあったから。「私としては、もう作らないつもりでしたが、有機大豆を仕入れていた縁で今農場さんが加工所を提供してくださって、物産公社さんの応援もあり、廃業の翌年からまた作り始めました」と柿本さん。
息子の宗吾さんと手づくりしているため量産できないが、逆に地元限定グルメとして希少価値が増している。また、現在は年1回の「富良野ふるさと給食」に登場。富良野市、中富良野町、占冠村の小中学校で出され、子どもたちに好評だという。
取材前は謎だらけだった『ナゥピー』は、数々のドラマを秘めた実に魅力的な食べ物だった。
富良野市西麓郷1
TEL 0167(29)2836
初期の『ナッピー』は、しょうゆ味だけのもの、それをベースにして青のり、長ネギ、タマネギ、粉末卵を加えたものと、全部で5種類の味があった。途中からしょうゆ味だけになったため、がっかりする子もいたとか。
半解凍の状態で食べるのが基本だが、食べ方はアイデア次第。マヨネーズ&七味を付けて酒の肴にしている人もいれば、一時は素揚げして出していた飲食店、天ぷらにして出していた学校や施設もあったそうだ。
「給食資材の問屋さんの話だと、納豆好きの栄養士さんがいた地域では、よく使ってくれたそうです」と柿本さん。給食で『ナッピー』を食べた記憶がある方、アナタの故郷には納豆好きの栄養士さんがいたのかも!?
『ナッピー』は40gと20gがあり、道内の学校給食で出されていたのは40gのもの。今の『ナゥピー』(20g)が2個くっついた形状で、中央で割れるようになっていた。
池田町出身のドリカムの吉田美和さんも、かつて給食で『ナッピー』を食べていた一人。池田町学校給食センターでは、昨年「ドリカム給食」を企画。吉田さん本人に思い出の給食を聞いたところ、『ナッピー』を含め3品が挙がり、そのメニューを池田小中学校などの配食先で10月2日に実現させた。
『ナゥピー』が手に入るのは、富良野物産公社が経営するフラノマルシェの富良野物産センター「アルジャン」と、フラノマルシェ2にある「彩り菜」の2店だけ。「彩り菜」は、昨年3月に誕生した農家のグループ「ふらの食と農の創造プロジェクト」と物産公社のコラボによる店。地産地消をテーマに、こだわりの野菜や加工品を販売している。
「『ナゥピー』はコンスタントに売れています。富良野を離れた出身者の方や、一度食べて好きになったという方、雑誌などで知ったという観光客の方のお買い上げが多く、懐かしい・おいしいと好評です」と店長の五十嵐潤子さん。五十嵐さん自身もファンで、「昔は娘と息子が給食で食べていましたし、主人は『ナゥピー』の天ぷらが大好きなんですよ」とのこと。五十嵐さんおすすめの天ぷら、読者の皆さんもぜひお試しを。
富良野物産センター「アルジャン」
富良野市幸町13番1号 フラノマルシェ内
TEL 0167(22)5443
こだわり富良野の店「彩り菜」
富良野市幸町8番5号 フラノマルシェ2内
TEL 0167(56)7413
[営]9:00~19:00(6/18~9/25)、10:00~19:00(左記以外)
[休]2016/11/28~12/2、12/31、2017/1/1
2016年5月22日 特集141号 ※記事の内容は取材当時のものです。