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>HOME >特集一覧 >VOL.239「空き家をどうする。」(2024年7月17日)
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特集Vol.239
『空き家をどうする。』

公開:2024年7月17日 ※記事の内容は取材当時のものです。
大三坂ビルヂングは大正時代の建築。 箱バル不動産の運営するホテルとテナントの入るビルとなり再生した。

 不動産屋のはずなのだが、写真付きの「3LDK、駐車場付き、○○万円」という貼り紙はそのガラス窓にはない。函館山の麓に広がる「旧市街」と呼ばれる函館の観光スポット、坂があり教会が立ち並ぶ地域に調和するようにこじんまりとしたオフィスがある。店にいたのは蒲生寛之さん。祖父の代から50年以上続く、宅建業・株式会社蒲生商事の常務取締役だ。「箱バル不動産」という看板を掲げているが、これは蒲生さんとその仲間が2015年に立ち上げた会社の名前で、本業の不動産業とはちょっと違う。「不動産」の看板を掲げてどんなことをやっているのだろうか。

なぜ古い家は残らないのか

 蒲生さんは函館生まれ。中学生のときに旧市街に家族で引っ越してきた。初めてこのエリアに暮らして、地域の見え方が変わった。山や海が近く、学校の部活帰りに海に寄れた。都市の機能もあり、家族での外食では非日常を味わえた。暮らしていてとても楽しい気持ちになったのを覚えている。

 高校を卒業してワーキングホリデー制度を利用してオーストラリアで暮らし、その後東京での仕事を経て30歳のときに函館にUターンした。戻ってきて、フレッシュな気持ちで町を眺め、思った以上のペースで古い建物が壊されているのを間近に見た。ドア1枚にしても、家の部材にしても、貴重なものがどんどんゴミにされていく。「どうして?」と思った。不動産業を継いで経験を積んだ今でこそ、そうなる理由は理解できる。

 「やはりコストがかかるのです。維持管理も大変。目先の経済合理性だけを考えれば古い建物は壊して更地にするか、そこにマンションを建てて売った方がいい」。

使いたい人と空き家をマッチング

 だがそれで地域の価値は上がるのか、という疑問を持った。「エリアリノベーション」という、小さな地域を設定して集中して再生する方法に興味を持った。中学生時代に感じた、何となく暮らしていて楽しいという気持ちを言語化して人に語れるようにもなっていた。

 古い建物が壊れるのは悲しい。歴史的な建造物となれば助成金が出ることもある。だが文化財的になりすぎると、どうしても敷居が高くなり、身近なものと感じにくい。公的なお金だけに頼っては市民の賛同も得られない。どうやったら暮らしの一部になるのだろう、と考えた。「その場所が経済的な力を持っていないと、残すこともできない」と痛感した。

 空き家となった物件を発掘して、価値を見いだしていく。壊して更地にして売るために探すのではない。ここを生かしてくれる人と空き家をマッチングしていく。だが、それには手間もかかる。

 「これが簡単にもうかる事業なら多くの不動産屋さんがやっているはずですからね」と蒲生さん。

箱バル不動産の蒲生さん。大三坂ビルヂングの空き室は一棟貸しのホテルになった。部屋にはいろいろな古い住宅からの再生部品が使われている。

同じ価値観を持つ仲間との出会い

 そんな考えを持った蒲生さんが、同じような価値観を持った人たちと巡りあったのは幸運だった。近くに住む建築士の富樫雅行さんはその1人。愛媛県出身で千葉県育ち。大学進学で北海道へ。旭川にあった東海大学芸術工学部で建築を学び、「人の顔が見える規模感がいい」と、函館に移住した。自身も和洋折衷の昭和9年築の古民家を手に入れて、自分の手で約2年半かけてリノベーションした。

 「それまではそれほど古いものに固執していなかったのですが、古い家とじっくり向き合ったのがよかった。見えない所の梁など古い部材をけっこうリサイクルして使っている痕跡が見て取れました。ふだんから自分で家に手をかけていれば、悪くなってきたところも気付きやすいですよ」と語る。

 富樫さんの知り合いに、やはり古い家をリノベーションして「天然酵母パン・トンボロ」を営む夫妻がいた。「古い物件を探してくれるような不動産屋さんてなかなかいないよね〜」と話していたときに、蒲生さんがUターンしてきたという訳だ。

富樫さんの引き継いだ旧田中商店の建物内。カフェなども入るが、ここは「十字街文庫」という共用スペース。 扉や本棚、机などもリサイクル品。長イスも医院の待合室で使われていたもの。

空き家で地域を再生したい

 そして4人は2015年、「箱バル不動産」という団体を立ち上げ、後に会社にする。空き家を使って何かをやりたい、という人を見つけて物件とマッチングし、それによって地域の価値を高めていく、そんな会社だ。

 暮らしの魅力をどう発信していくかを考えた。「価値を創造する人、場を作り出すような人が来てくれるといいと思った」と蒲生さん。

 そこで始めたのが「函館移住計画」というプロジェクトだった。用意した空き家で一定の期間暮らしてもらい、この街を知ってもらう。何ができるかをリサーチしてもらいたい、という気持ちだった。

 空き家として用意したのは、旧市街にある一般オーナー所有の3物件だった。。ネットで広報し、まず3世帯、7名が来た。このプロジェクトは2017年まで3年間行った。実際に移住した人もいるが、それよりもこのプロジェクトがメディアに取り上げられて、知ってもらえたことが大きかった。

 どういうことがあれば移住してくれるのかを考えた。「仕事」があるかどうかが大きな懸案事項になることもわかったが、蒲生さんが至った結論はこうだ。「雇ってくれませんか」と来る人ではなく、空き家を使って自ら仕事を創り出そうとする人に絞るべきである、と。

 この取り組みは2020年に全国の地方新聞社などが主催する第11回地域再生大賞を受賞した。

 函館移住計画がメディアに取り上げられたことがきっかけで縁がつながった「大三坂ビルヂング」は結局蒲生商事が買い取り、富樫さんの設計で2017年にリノベーションして、正式に「SMALL TOWN HOTEL Hakodate」という一棟貸しの宿泊施設としてオープンし現在に至る。

 この建物に案内してもらった。1階にはテナントしてカフェと水たばこ店。どちらも古い建物の雰囲気を壊していない。別の玄関を通って2階がホテルだ。地元の木材を使ったフローリングや、古い住宅のパーツや調度品が建物の歴史とマッチしているようだ。どこかから調達したという欄間がエアコンの目隠しに使われていた。

富樫さんが入手した自宅物件の改装前(左)と改装後。リノベーションの様子は、富樫さんのブログ「拝啓、常盤坂の家を買いました」に詳しい。(写真提供:富樫雅行さん)

開発との闘いの歴史があった

 このプロジェクトがきっかけで、同じような価値観を持つ人たちとのネットワークも広がり、古い物件を所有する人が「誰か使わないか」と問い合わせてくる「情報の逆流」が始まった。

 箱バル不動産の創設メンバーの4人は、空き家の有効活用という共通の思いを持ちながら、それぞれの仕事に戻り、箱バル不動産は蒲生さんが引き継ぐ形になった。建築士の富樫さんは、自身でも市街地の物件を入手し、再生プロジェクトに関わっている。

 元々、函館の旧市街地区は、マンション建設とそれに反対した地元の人たちの闘いの歴史がある。今でこそこの地域は1988年にできた景観条例によって街のたたずまいが守られているが、条例制定の直前には、古い建物の駆け込み解体と、高層マンションの駆け込み建築を許している。

 富樫さんは「昆布館」という建物を引き継いだ。元々は海産商だった旧田中商店の建物だったが、開発業者に買われて壊されそうになったとき、地元の池見石油の当時の社長、石塚與喜雄氏が取り壊しをストップさせるために買い戻したものだ。その後飲食店として使われていたが閉店し、建物も老朽化し存続が危うくなったとき、富樫さんに声がかかった。「守った人がいるから今がある。私も引き受けなくてはいけないと思った」と語る。

 最近、古い空き家を探している人が増えた、と蒲生さんは言う。昔に比べれば情報は集まるようになったとはいえ、まだ古い空き家をそのまま流通させるのは多数派ではないという。需要の高まりもあり、よい物件が出るとすぐ埋まる状態だという。

 さて、翻って自分の住む場所はどうなのだろう、と考えてみた。筆者は札幌市在住だが、空き家で困っている話はよく聞く。古い物件に手を入れて住むのも面白そうだと考えたこともあったが、はて、そんな物件がどこにあるのかがわからない。不動産情報に載っている物件から趣のある古い家を探すのは相当難しそうに感じた。空き家問題が言われる昨今、箱バル不動産の試みが、その解決のヒントになるかもしれないと感じた。

(文・写真:吉村卓也)

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ここからは特集に関連して会員の皆さんからよせられたコメントをご紹介します。

投稿テーマ
『空き家をどうする。』
「空き家問題」が全国的に言われています。住む人がいなくなり、そのままにされた家がどんどん増えているようです。
みなさまのご近所にもあるでしょうか?
あるいは、正に古くなった家をどうするかで困っているとか?
一方、古民家などは人気が高いようですね。かと思うと、札幌の都心にはタワーマンションがいくつも立っています。
人が住まなくなった家はどうなっていくのでしょう。何かうまい活用方法はないものでしょうか?
空き家に関すること、困っていること、よいアイデア、経験談、どうぞお聞かせください。

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まさしく実家がそうです。
今は母が一人で住んでいますが、いずれ空き家になることは目に見えています。
物が溢れているので、少しずつ片付けていきたいと思っています。(キャシーさん)

母親の実家の石狩の家は8年空き家状態ですが維持費も想像以上に掛っているのでいわゆる空き家再生をするのか売却か兄弟で話し合っている最中です。兄弟のいない妻の実家の鹿児島の超田舎の家も妻の両親が元気なうちに話をしないといけないと思いつつ何も話は進んでないですがぽつんと一軒家寸前の過疎地なので売ってもほぼ価値もないので空き家再生士さんにお願いするしかないですね。お墓の問題も含め悩みの種です。(KANTON$さん)

札幌で空き家は見かけなくなりましたが、土地を有効活用する意味でもそのままにしない方が良いと考えます。行政と市民が連携して、空き家らしき物件があった場合は、市民から行政に連絡するシステムを確立して、行政が調査し、一定期間の経過観察を行ったのちに、市町村の持ちものとして活用していく。そのようなシステムがあっても良いかと思います。(ひろとしさん)

父の実家は瀬戸内海の小さな島にあり、石垣の上に建っていました。二間しかない小さな家でしたが、窓から対岸の島が見え、気に入っていました。祖母、父もなくなったことで、私の母は「ほっとおいたら家が壊れ、石垣の下に住む人に迷惑がかかる」といって解体しました。近くには、父の叔父が所有していたお少し大きな家があり、空き家のまま、こどものころよく入った五右衛門ぶろも残っています。活用できるといいですね。(ヒロシさん)

古民家を探すNPO法人のようなものを立ち上げ、いずれ誰もすまなくなる予定の物件を登録しておく。もちろん、誰か住むことになったら、登録を外すことは構わない(ketyaさん)

私はマンションに住んでいますが子供も女の子で帰ってくることもないので実際困りますよね

まして土地付き戸建てならなおのこと
その家がまだまだきれいで使えそうならリフォームして使ってもらえたら家も喜んでくれるでしょうね(まっちゃんさん)

毎冬、雪のために倒壊するニュースを見てると住まなくなった古い家が多くなってるので不安になります。(れいさん)

向かいの病院が、20年以上空家で、窓が割れ、悲惨です。早く、何とかしてほしいです。(いちごさん)

空き家ありすぎですよね

親がする子の婚活があるんだから、大家と借りたい人のマッチングパーティーがあったら?
いろんな貸方、借りたい仕方があると思うんです。

(チエコさん)

安全を確保し景観を損ねないよう手入れし、入居者を募るよう、自治体の空き家対策部署とも連携してサポートを受けるのが良いと思います。(鳥銀さん)

義母が亡くなり、道東の実家を売却しました。なかなかの田舎の物件でしたが、別荘として買いたいと言ってくださる方がいて、すぐ処分することができました。
札幌からは距離があり通うのは難しい場所ですが、帯広や釧路からなら週末過ごす別宅として魅力があったようです。(ともぴーさん)

安く貸した出すって言うのが一番いいのうに聞こえますが、
実際、管理が難しいと思うので、

国などの自治体が
解体費の一部を負担してくれたら、
放置せず解体して
土地として売る人が増える気がします(ミサホさん)

空き家や古民家は、一見して人の住んでいない家なのは分かるけど、その家の存在がどんなものなのか、貸そうとしても借りてがいないのか、ただ放置されているものかなど分からないことが多いと思います。まだ使えそうなものは不動産屋と行政などが連携して、色々な場面で紹介したり、また放置されている物件は、なぜそうなっているのか行政がしっかり把握して、改善策を考えていただくしかないと思います。(まささん)

うちの近所にもたくさん空き家があります。「ここにカフェがあったらな。」と思ったりします。若い人たちが、安く事業を行えるような仕組みがあればいいなと思います。(カオルさん)

都心からオフィスを移して田舎の一軒家を買い取って事業を行うITベンチャーも増えていますね(H)

難しい問題だよね。公的機関を作って単身高齢者への信託サービスを作り、亡き後の住宅の対処を策定しておくのも一策では。(あおいうみさん)

根こそぎ駐車場、ATM。コンビニにしましょう(たかしさん)

わたしも65才、 単身者です。マンションに住んでいますが、死んだあとが、心配です。(マイル0327さん)

長年 貸家にしていた友人宅は一昨年住んでいた人が転居されて空き家になってしまい、築何十年かはわかりませんが不動産業者に依頼し土地 住宅を数百円万で売却予定だそうです。さらに一人暮らしをしていた90代の母親が病気で倒れ病院に入院 残され実家を将来、建築業をしている息子さんの事務所にしようと日々家の中や物置を片付け庭の手入れを頑張っています。(ひろきんさん)

九州の実家を処分する際、たまたま近くに幹線道路が通ることになったのですぐに売却できましたが、不便な土地のままなら売れなかったと思う。古い家にはそれなりの良さがあるので、民泊利用、古い家を利用した学び、DIY教室、庭を貸し出すなどの利用方法はいかがでしょうか?(かあさんさん)

リフォームして別荘として使いたいです(str777さん)

亡くなった父親名義の家(築50年)も家を相続し、3回忌が済んだ昨年、自宅(建物は取り壊す)を売却した。譲渡所得について、税制上の特例措置で所得税が免除(3000万円まで)となった。(石さんさん)

査定をどこに頼んだら良いか分からないです。(ももぱんさん)

不動産の持ち主が居ない場合、その不動産をどうするか確認するのに、多くの親類の許可を得ないと行けないと言うのをテレビを見て知り、またその後、少しずつ簡素化されたと聞きつつも、空き家一軒でも管理するのは大変な事なんだなと思いました。利用したい人は多いとは思いますが、またそういったのを悪用した詐欺事件もあると聞くので、市や道が仲介してきちんとした方が良いのではないかと思います。(cinemakoさん)

古い空き家がそのままは治安も悪くなり気味も悪いですね。
やっぱり更地にしてもらうのが安心だし活用法も出てくるかと思います。
ボロボロの今にも朽ち果てそうな空き家でも更地より税金が安いというのが問題だと思います。(ちえみさん)

 無印良品プロデュースのリノベーションで賃貸マンションがあるようですが、一括で請負比較的やすくリノベして提供されたらいいな。(ほわさん)

「空き家問題」は活用可能と判断された以外は、税制の優遇を廃止し、適性価格での国の買い上げを実施する。(ビデオさん)

防犯対策だ(とらのすけさん)

田舎の両親が亡くなり空き家になっています。近所に弟がいるので任せっきりにしていましたが、この度やっと手放しました。お金も労力もかかるけど一つ悩み事がなくなりホッとしています。(さちりんこんさん)

義理の実家が誰も住まなくなり、最低限維持のため水道、電気は止めないでいました。冬積雪の多かった年に屋根の軒が折れてしまい、雨漏りがひどく解体しました。家財道具の整理、処分に手間もお金もかかり大変でした。土地の価値は家屋解体費用程もありません。(tonmaさん)

家ではないのですが、父から相続した小作地のことで困っています。先方の相続登記がなされておらずは話し合いにも応じてくれないため耕作放棄地となってご近所に迷惑をかけていますがどうすることもできません。行政が間に入ってくれるとありがたいのですが…。 (よっこさん)

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