昭和5年の創業当時は、まきストーブで板かまぼこを蒸し、残り火でちくわを焼いていたという出塚水産。現在は最新の衛生管理下で1日数万個のかまぼこを製造していますが、工程のそこかしこに、今も昔ながらの手作業や秘伝の技が息づいています。
製造施設内に入ると、かまぼこの良いにおいがあふれています。それは懐かしく優しい薫り。案内をしてくれたのは、出塚水産で特命営業主任を務める坂本俊悟さんです。
かまぼこ製造は、冷凍すり身を大きなフードカッターに投入し、すりつぶす作業から始まります。この冷凍すり身は、主に紋別港で水揚げされた新鮮なスケトウダラ。「この作業は温度や水分の加減がとても重要で、入社50年の職人が毎日、季節や天候を考慮しながら調整しています。そして塩とみりんだけを加えて、魚本来のおいしさを引き立てるのですが、その配分は創業以来代々、工場長から工場長へと引き継がれる門外不出の奥義です」と坂本さん。
その後は、石臼にすり身を移し、食材を加えて練り上げる作業に入ります。つなぎは十勝産でんぷんを最小限だけ。「野菜天」の野菜など混ぜ込む副材料も、近隣産や北海道産です。ここでも熟練の職人がつやを見ながら、最適な食感と弾力が出るよう「練り」を極めているのです。
こうして仕上げられたすり身はそれぞれの製造ラインで成型され、揚げたり蒸した揚げたり蒸したり、焼いたりされて出来上がります。
出塚水産のかまぼこは、どんな味わいが特徴なのでしょう。坂本さんに聞くと…。「魚の甘いおいしさが口に広がる、昔懐かしい味だと言われます。良質たんぱくならではの弾力があり、特に魚好きな高齢の方々に喜ばれています」。このようにファンを魅了する商品は、伝統の技術と丁寧な仕事がなせる業でしょうが、魚の良さも味の命です。流氷はここオホーツク海に、シベリアの大河から豊富なミネラルとプランクトンを運んできます。その栄養分を食べて育った魚介が原料ですから、かまぼこの味も格別なのです。
その価値は全国の魚のプロたちが認めています。例えば、「もんべつさつま」10枚入り350円(同店での価格)は紋別港産スケトウダラ100%の小判型さつま揚げで、低価格の良品として、北海道をはじめ築地市場など全国の水産市場で販売されています。
その一方、出塚水産の「珍味シリーズ」や「板付かまぼこ」は、純粋な白さが際立つ高級品で、これらの原料はアラスカ産の最高級洋上すり身のみを使用。贈り物としても重宝されています。
取材の終わり、坂本さんが意外なことを打ち明けてくれました。「実は私、入社5年目にして初めて製造現場に入りました。製造施設は衛生管理が厳しいため、通常、取材等は見学通路からしかご案内ができません。今回は朝日新聞購読者様のため、特別に社内のHACCP(ハサップ)担当から許可が下りました」。出塚水産は2012(平成24)年に、食品の安全性を確保するための基準「HACCP」を導入しており、厳格な衛生管理のもと安全な食品を製造しています。
表紙ページでもご紹介していますが、出塚水産の売店は観光バスも止まるほどの人気スポット。かまぼこ製品や特産品がにぎやかに並んでいます。お土産選びはもとより、ちょっとおなかが空いた時の軽食感覚で立ち寄ってみてください。すぐに揚げてもらえる、名物の「揚げ立てかまぼこ」は1個54円から全8種。大人気の「珍味ほたて」486円も1個から購入できます。2階の休憩スペースでは接客ロボットペッパーくんが歓迎。見学通路から製造の様子を見ることもできます。
出塚水産のかまぼこは、さまざまな食材の味がそろっています。揚げかまぼこの定番「揚げ立てセット」は個性的な7種のセットで、どれも不動の人気オールスターズ。いくつかご紹介しましょう。
「かにマヨボール」は、ズワイガニのフレークをマヨネーズであえ、それをすり身で包んで揚げたもの。ぎっしりと潜む濃厚味付けのカニと、すり身の調和がお見事です。そして北海道産のタコと紅ショウガが入った「たこボール」は、一風変わったたこ焼き風。ホタテ貝をかたどった「ほたて天」も思わず感激する一品で、かむたびにホタテ風味がじんわり。それもそのはず、干し貝柱を水で戻し、ほぐした物が混ざっているのですから。そして王道の「野菜天」もさすがの味。ニンジン、タマネギ、ヒジキがコロコロ入り、甘く軟らかく揚がっています。
同じく7種ある「珍味シリーズ」からもイチ押しをご紹介します。「珍味ほたて」は最高級すり身に、水で戻したホタテ貝柱のフレークを練り込んだかまぼこです。それだけでも絶妙なおいしさなのに、なんとオホーツク産のホタテ貝柱を丸ごとゴロンと包み込んで蒸しています。いずれもおいしさを極めたオホーツクの幸。出塚水産の心意気があふれています。
2018年1月21日 特集161号 ※記事の内容は取材当時のものです。