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>HOME >特集一覧 >VOL.229「摩周湖・川湯 国立公園の新しい形」(2023年9月19日)
特集「摩周湖・川湯 国立公園の新しい形」の表紙の写真です

特集Vol.229
『摩周湖・川湯 国立公園の新しい形』

公開:2023年9月19日 ※記事の内容は取材当時のものです。

国立公園バージョンアップ
摩周湖、川湯で起こっていること

「摩周湖の展望台が変わったって」

摩周湖の第一展望台がたいそうきれいになった、と聞いて出かけてみた。最後に訪れたのはもう10年近く前だろうか。駐車場に隣接するおみやげ屋の建物の屋上。コンクリートの床に鉄の柵。おみやげ屋もよくある観光地の雑然としたイメージだったと記憶している。

 さて、久しぶりの摩周湖である。弟子屈町の阿寒摩周国立公園内にある。駐車場は昔のままだ。だが建物の玄関の横はすっきりして、そこに「摩周湖カムイテラス」の文字があった。そう、これが新しい展望台の愛称らしい。

 階段を数段上れば展望台だ。観光客の姿も多い。上の方から、先に到着した人たちの歓声が上がっているのがわかる。「うわ〜」「へぇ〜」「すご〜い」。驚嘆の声やため息が聞こえてくる。何が見えるんだろう。だんだんと展望台の全貌が見えてくる。到着。思わず声が出た。「うわ〜、かっこいい!」。

主役は摩周湖、そして自然環境

 床は木だ。無粋な鉄柵は無くなり、ガラス張りになっている。これなら小さな子どもの目線も遮ぎらない。そして、中央には木製のテラスが段差をつけられてしつらえられている。椅子があり、テーブルがあり、浅い角度のクッションつきのベンチがある。摩周湖という舞台をじっくり楽しめる屋外シアターのようだ。ソファのようなベンチに座ると、頭が上を向く。目線に入るのは空だ。

 「ぜひ夜の星空を眺めていただきたいんです」と言うのは、弟子屈町振興公社の代表を務める嶋戸健祐さんだ。摩周湖カムイテラス、硫黄山MOKMOKベースを運営する会社だ。

 「この場所の良さをもっとよく伝えられることができないかと考えました。建物の魅力ではなく、摩周湖の魅力。そのための装置を作りたかった」と話す。

 訪れた日、展望台の天気は曇り。摩周湖は霧の晴れ間にちょっとだけ姿を見せてくれた。「霧の摩周湖」というイメージは昔の歌謡曲が火付け役だが、やはり夏は霧に覆われることが多いらしい。

 そうこうしているうちにあっという間に霧がかかり、湖は姿を消した。湖畔までの道も無く、特別な許可を得ない限り立ち入ることもできない湖だ。展望台からの眺望が一般人にとっては唯一の摩周湖との接点になる。

摩周湖カムイテラス
霧にけむる摩周湖第一展望台「摩周湖カムイテラス」。晴れた日には上のような風景をゆったりと眺められる。

国立公園をバージョンアップ

 摩周湖は国立公園の中にある特別保護地区だ。環境省の「国立公園満喫プロジェクト」という事業に採択されたことが、この大規模改修につながった。環境省によれば、「日本の国立公園のブランド力を高める」「滞在時間を延ばし自然を満喫できる上質なツーリズムを実現する」、とある。先行して全国から8つの国立公園が選ばれ、北海道は阿寒摩周国立公園がその1つとなった。

 「引き算の開発」でマイナスをゼロに

 プロジェクトの趣旨の中に「引き算の開発」というのがある。廃業してしまったホテルがそのまま残っていたり、景観にそぐわないものがあれば無くしていく。何かを新たに作るのではなく、邪魔になるものは引いていくという考えだ。

 摩周湖から車で約20分で川湯温泉に着く。温泉街には硫黄の香りが立ちこめる。かつてはここに20軒近い旅館やホテルがあったが、現在残っているのは小規模な宿泊施設を除けば4軒だ。温泉街のあちこちに使われていない建物が残っているので、寂れた感じがするのは否めない。

 川湯で2軒の宿を経営する榎本竜太郎さんに話を聞いた。1941年開業の「お宿欣喜湯」で知られる株式会社川湯ホテルプラザの4代目。川湯温泉旅館組合の会長も務める。

 「私が小学生のころまではとても賑わっていました。中学校から道外に出たのですが、帰って来るたびに知った旅館が廃業していく実感がありました」と語る。「団体から個人への流れに乗り遅れたのが衰退の一因」と分析する。2011年に川湯に戻り家業を手伝ったが、ちょうど東日本大震災の直後。震災をきっかけに閉めるホテルもあった。「2008年のリーマンショックに続き、震災での落ち込みでとどめをさされた感があった」と振り返る。さらにコロナ禍である。同じ国立公園内にある阿寒湖温泉との差は開く一方だった。

展望台室内
展望台室内も窓を大きく取り、徹底的に摩周湖を見せることにこだわっている。展望台は通年営業しているので、冬も暖かい室内から湖を眺めることができる。

川湯の良さを打ち出したい

 だが、座して待っていたわけではない。榎本さんは、宿泊単価のアップにつなげるための食事の質の向上やインバウンド客のセールスに取り組む。2021年には、廃業したホテルを買い取り高グレードの宿として「お宿欣喜湯別邸忍冬(すいかずら)」をオープンし、もう1軒の「お宿欣喜湯」では夕食の提供をやめた。

 リニューアルされた「別邸忍冬」には窓の大きなラウンジができ、町中を流れる「温泉川」がよく見える。川岸に見える硫黄の湯の花が温泉情緒を高める。ビュッフェ形式のレストランも川湯温泉の源である近くの「硫黄山」から上がる噴煙をイメージしたものにした。

 「川湯ならではのものとは何なのか。それを前面に出しながらこの地域全体を盛り上げていきたい」と語る。

まずは廃業ホテルの取り壊しから

 温泉街にあるいくつかの無人の建物はすでに解体されて更地になっている。 摩周湖観光協会の専務理事、守屋憲一さんはかつて弟子屈町の職員として「国立公園満喫プロジェクト」にずっと関わってきた。廃業したホテルの土地建物の取得に町が動き、そこからは国の補助を得て建物を解体し、更地にする。マイナスの景観をゼロまで戻す地道な作業だ。

 「土地建物の取得には時間がかかります。町の力だけでは解体まではできなかった。来年度には使われなくなった建物がさらに解体され、ようやくゼロの状態に戻ります」と話す。

 その更地の1つには、2026年に星野リゾートが宿泊施設を開業することになった。「川湯の知名度が上がる」と地元では歓迎する声が多いという。

リニューアルオープンしたホテル
リニューアルオープンしたホテルは窓にもこだわった。川湯のシンボル、「温泉川」を眺められる造りにした。「この川は温泉街のシンボルです」と榎本竜太郎さん。

全国の温泉を取材し、最後は川湯に

 川湯温泉街の一角に変わった名前の建物があった。「ARtINn極寒藝術伝染装置(通称「アートイン」)」という名前の宿泊施設だ。ここを営むのは、滋賀県出身の今井善昭さんだ。かつてはテレビ番組の制作会社を経営、全国の温泉を紹介する番組を500本以上作っていた。取材が高じて温泉に興味を持ち、 2000年には屈斜路湖畔に土地を買って家を建てた。弟子屈の町にだんだん興味を持ち、川湯にあった元拓銀の保養所だった建物を手に入れたのは8年前だ。

 「屈斜路湖、釧路川源流、硫黄山、摩周湖。これが全部町内にある。財産がここにあるんです」と強く語る。全国の温泉を知る今井さんだが、「ここの泉質はすごい。強酸性の温泉としては群馬県の草津温泉、秋田の玉川温泉と肩を並べます」という。川湯の湯はなめるとしょっぱく、そして酸っぱい。肌がひりひりする感覚があるが、皮膚病にもいいらしい。

 自身が始めたアートフェスティバル「極寒芸術祭」は次回で14回目となる。世界各地のアーティストがここに滞在しながら、現代アートの作品を残していく。

 「これをやりたくてこの場所を作ったんです」と今井さん。建物の中に足を踏み入れると、さまざまなアート作品で溢れている。アーティストが滞在していないときは、一般の人も泊まれる。海外からの客が8割以上だという。口コミで川湯の名は世界中のアーティストに広がっている。来年も2月2日からの1カ月間、極寒芸術祭が開かれる予定だ。

 日本国内には34の国立公園があり、そのうち6つが北海道にある。北海道の主要産業である観光に貢献しているのは、間違いなくその自然環境だろう。この貴重な財産の価値をさらに高めるための工夫が少しずつ始まっている。
(文・写真:吉村卓也)

レインボーハット Rainbow Hut
世界のアーティストが集まる川湯の「ARtINn極寒藝術伝染装置」オーナーの今井善昭さん。この部屋もアーティストが残した作品、「レインボーハット Rainbow Hut」(関口恒男作)だ。晴れた日は窓からの光を鏡が反射して室内が虹色に輝く。

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投稿テーマ
『温泉と湖』
温泉天国北海道。湖と温泉がセットになっていることも多いですね。
温泉のそばに湖。なんと贅沢な環境でしょう。
火山の噴火によってできた湖が多いから、温泉が出るのも当然といえば当然なのでしょうが。
思い浮かべてみても、いくつか候補が出てきます。最近温泉行きましたか?湖はありましたか?
みなさんの「温泉+湖」のおすすめ、想い出、どうぞお聞かせください!

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昨年4月に関西に転勤で越してきましたが和歌山や奈良で温泉は行きましたが湖はありません。函館に生まれ育ち温泉+湖は当たり前だと思ってきましたが関西人にはそのような認識もありません。もっと故郷の文化を関西人に広めたい!(KANTON$さん)

温泉と湖でグランピングして泊まりたいですね(machandctさん)

小さい頃、毎年家族で川湯温泉へ行くことが恒例となっていました。今でも訪れるたびに懐かしさとともに、改めてここの温泉が好きだなと思います。道中立ち寄った「砂湯」も思い出深く、大人になった今でも砂を掘ってあったかいお湯がでてくることに楽しさを感じたりします。(skkmさん)

洞爺湖です。
学生の頃、洞爺のホテルでアルバイトをしており、バイト終わりに友達とはいった温泉の思い出を、36歳になったいまもよく思い出します。
温泉に入りながら、打ち上げ花火、本当に最高です。
久しぶりに行きたいな・・なんて思ったりもしますが、なかなか仕事で休みが取れなかったり、当時の友人との都合も合わず。
いつかあの頃のみんなとまた行きたい。(せいいちさん)

20年以上前、同僚男女4人で支笏湖の温泉に行きました。男女別の露天風呂まで長い廊下を歩くのですが、脱衣所で全て脱いで素っ裸で歩きました。途中、まさかの男女すれ違いシーンがあり、恥ずかしい思いをしたのを今も懐かしく思い出します。(かよこさん)

昨年の秋に箱根温泉に行きました。芦ノ湖のすぐそばの旅館でしたので、客室の露天風呂から見える芦ノ湖は絶景でした。穏やかな水面に反射するキラキラとした光を見ながら入る温泉は格別です。芦ノ湖周辺には神社やお料理屋さん等があり、温泉を入った後も観光を楽しめたので、とてもいい思い出です。北海道には行ったことがないので、いつか北海道でも湖が見える温泉に行ってみたいです。(しんじさん)

洞爺湖温泉が良かったです。(とらぴいさん)

浜名湖+舘山寺温泉
ホテル九重が最高です。(鉄人シルバーさん)

最近温泉に行ってないので久しぶりに行きたいなと思いました(ぴろりん☆さん)

コロナ前は親を連れて阿寒湖に秋に旅行していました。温泉につかって美味しい御飯を食べてリラックス。最高な一時でした。今年は久々に出掛けようと思います。(kawaさん)

昔社内旅行で支笏湖に行った時、
前夜の賑やかな宴の後、早朝の支笏湖湖畔の散歩は爽やかなものでした。今では社内旅行という行事も少なくなったようですね。(みちこさん)

琵琶湖にはよく行ってました。
泳いだ後に温泉入って帰るのが好きでした。(ユウさん)

コロナ禍で旅行は言っていません。(トシアキさん)

支笏湖に行きました!温泉と絶景が味わえ最高でした (まもるさん)

支笏湖丸駒温泉(なぁ〜おさん)

温泉+湖で思い出すのは、妻の母親の87歳の誕生日。私と妻と妻の姉で誕生日祝いと、母を連れて湖と繋がっている温泉のある支笏湖の丸駒温泉へ。旅館をついて車から降りたらすごい揺れが、テレビで報じていたのが大震災の悲惨な状況。なんとも悲しい思いの誕生日祝いでしたが、その母も来年は100歳、深い悲しみから長寿をいただいた思いです。2011年3月11日の出来事です。(さぼちゃんさん)

洞爺湖の
温泉につかりながらの花火、
また行きたいです。(あんこさん)

コロナの前ですが、阿寒湖の温泉に行きました。湖のすぐそばで観光船も出ていますが、湖岸で湖を眺めるだけでも素晴らしい景色です。
宿泊したホテルの露天風呂からは湖た一望でき、何とも贅沢な時間でした。ようやく旅ができるようになりましたので、また訪れたいと思います。(じーじょさん)

琵琶湖の湖畔に「おごと温泉 びわこ緑水亭」という温泉宿泊施設があり、宿泊したことがあるのですが、温泉に浸かりながら琵琶湖が一望できて、とても癒されました。料理もおいしかったです。(うさぴょんさん)

山登りのあとの温泉は最高です!トムラウシ温泉や知内のユートピア、自然のめぐみに感謝です。(ほわさん)

湖ちかくの温泉だと十和田プリンスホテルがよかったです。湖以外の観光スポットへのアクセスはあまりよくないのですが、水辺でゆったりとした時間を過ごすことができ、ホテル内のフレンチレストランも美味しかったです。夜は星空がとても綺麗でした。大切な人と2人でゆっくり再訪したい宿です。(龍一さん)

最高の観光地になる(yaggyoさん)

湖のそばの温泉といえば
由布院温泉の銀鱗湖
上諏訪温泉の諏訪湖
松江温泉の宍道湖
河口湖温泉の河口湖など
に行ったことがあります。
歩くことが好きなので、
夕日や朝の風景を見ながら散策できるのが好きなので意外とこのような宿を
選んでいます。
エピソードといえば、早朝の湖の近くを歩いていると
霧や靄などにも遭遇し、
サスペンスの主人公になったような雰囲気を味わった
気がしたのを思いだしました。
(シンボリエンブレムさん)

洞爺湖の乃の風に泊まった時、夜の花火を見たのですが、翌日の朝、静かな湖面にとても安心して、心が落ち着いて、優雅になりました。(みかもなさん)

若い頃よく登山をしていました。登山ツアーの参加して
ニセコの山にいって下山したあとには近くの温泉や洞爺湖をめぐりました。(とっこさん)

下呂温泉に行きました
湖はありません(みちさん)

コロナ前に阿寒湖温泉にツアーで行き、立派な鶴雅に泊まった。
売店に[お買い上げ◯◯円以上で宅配料金無料。他での買い上げ品も入れる事可]。
夕方で女子店員一人。精算梱包を10人が並んで、結果的に1時間以上かかった。店員は一緒懸命なので文句も言えず。観光や温泉時間をやむを得ず短縮した。(ツバメひださん)

芦ノ湖の前にあるベーカリー&テーブルがおすすめです。
テラスのカウンター席が足湯になっていて、心地好く過ごせます。(miさん)

修学旅行で九州の地獄温泉に行ったことがあります。温泉のことを地獄と呼ぶのが面白いと思いました。いろんな色や種類の温泉があって楽しかったです。でも見る温泉もいいけど、やっぱり入浴できる温泉がいいですよね!(アズサさん)

山形の銀山温泉と銀山湖・・行きたいですね。(将史パパさん)

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