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>HOME >特集一覧 >VOL.231「森林の町 下川町」(2023年11月20日)
特集「森林の町 下川町」の表紙の写真です

特集Vol.231
『森林の町 下川町』

公開:2023年11月20日 ※記事の内容は取材当時のものです。

森林の町、下川町に移住者が集まる訳

7年前から移住政策に本腰

 札幌から一路北へ。JRなら宗谷本線で名寄まで行き、バスに乗り換えて20分。高速なら道央道を終点の士別剣淵で降り、名寄を通って下川町に着く。約3時間。内陸の町、東京23区と同じくらいの面積があり、その約90%が森林だ。現在の人口は3000人弱。かつて1960年のピーク時には1万5000人強だった。北海道の地方にある町村と同じように人口減と高齢化が進んでいる。

毎月開かれる地域の交流会

 7年ほど前から町が本腰を入れはじめたのが移住政策とタウンプロモーションだ。「移住コーディネーター」という肩書きを持った、移住専門の町のスタッフも人いる。

 10月上旬の金曜日の夜、町のまちおこしセンター「コモレビ」に三々五々人が集まって来た。人口減と高齢化というイメージとは違い、若い人が多い。今日は月に一度の恒例行事「タノシモカフェ」という交流会が開かれる日だ。

 この日集まったのは約40人。「一品持ち寄り」がルールで、持って来た食べ物や飲み物は参加者みんなでシェアできるように窓際のテーブルに並べられる。参加費は無料だ。あちこちでにぎやかな談笑の輪が広がる。堅苦しいものは何もなく、好きな席に座り、しゃべって食べる。多くの人と話せるように、途中、席替えを何回か挟む他は、歓談の時間だ。集まっている人たちの中には、移住して来た人もいれば地元の人もいる。

 会場で進行を仕切っていたのは、同町移住コーディネーターの立花祐美子さん。下川町産業活性化支援機構タウンプロモーション推進部という組織に所属している。人口減少を食い止めるため、町と農林商工や観光の団体が協力して2016年に作った組織だ。自身も20年前に札幌から下川町に来た移住者だ。

 そもそも7年前にこの会合を発案したのが立花さんだ。

 町に残りたかった移住者が孤立して町を去っていくのを見て、「誰もが入れる場所があればいい」との思いから始めた。当初の名前は「移住者カフェ」だったが、「移住者に限定する必要はない」と思い直しすぐに名前を変えた。立ち上げ時こそ人集めに苦労したというが、それ以降は毎回30〜50人程度が参加するようになり、今は人集めに苦労することは無いという。

 20年前に移住した立花さんがいちばん苦労したのが家探しだった。当時同町には移住政策は存在しなかった。
 「結婚を機に移住したのですが、住むところを探すのに本当に苦労しました。今移住する人が羨ましいです」と語る。

交流会「タノシモカフェ」
下川町の交流施設「コモレビ」で毎月開かれている交流会「タノシモカフェ」。 地元の人も、移住者も、これから移住したい人も、だれでもが参加できる。いつも50人前後が集まる。立って手を上げているのがこの会の発案者で移住コーディネーターの立花さん。

 「空き家コーディネーター」もいます

 立花さんが羨む家探しのサポートは、同町に2人いる「空き家コーディネーター」が担う。小さな町や村で家探しが大変なのは、不動産屋がないからだ。自治体の窓口が情報を発信することも多いが、かゆいところに手が届くような情報はなかなか見つからない。2人のコーディネーターは常に町内の物件の情報を「足で稼いでいる」という。高齢になったので家を手放したい人がいる、引っ越しを考えている人がいるので空きそうな物件がある、という情報を事前につかんで、売りたい人、買いたい人、貸したい人、借りたい人のマッチングを行っている。小さい町ならではで、町内の空き家の動きはほぼ把握しているという。

試しに住んでみたら友達もできた

 タノシモカフェにも出席していた石田賢二さんも空き家コーディネーターのサポートを受けた。38年間公務員として東京都大田区で働いていたが、定年の少し前に退職し、移住した。実際に移住する前に約2カ月間住んだのが、同町がNPO法人に委託して運営する貸家、下川町地域間交流施設「森のなかヨックル」だ。1戸建ての住宅が10棟あり、誰でも1泊から数カ月に渡って利用することができる。体験住宅ではないので、旅行者でも使える宿だ。

 「毎年のように北海道に旅行していたが、いつかは暮らしたいと思っていました」と石田さん。札幌、旭川、帯広といった場所も考えたが、大きな都市は特に移住者に対して積極的アプローチがなかった。ネットで探しているときに、下川町の情報があった。「しばらくお試しで住めるところがありますよ」と紹介されたのが「ヨックル」だった。

 昨年の4月に来て、とりあえず暮らしてみた。1カ月いて違うところを見てみようと思ったが、「これからいい季節なのにもう帰るの?」と言われて延長。そうこうしているうちに地域で友達もでき、移住コーディネーターからも勧められ、一度東京に戻ったのちに移住を決意。マンションも処分し、昨年の9月に移住した。

 石田さんは視覚に障害があって車の免許が取得できないが、自転車や歩きでほぼ事は足りるという。現在は町営住宅に住んでいるが、移住者が苦労する住宅問題を解決するための事業を興すことを計画中だ。

森のなかヨックル
移住した石田さんが最初に2カ月暮らした町の交流施設「森のなかヨックル」。移住を前提としなくても、誰でも滞在することが可能だ。

牧場を探していたら下川町だった

 山梨県から移住した菊島永詞さんは、酪農家を志して下川町にたどり着いた。地元の山梨で場所を探していたがなかなかよい物件が見つからず、酪農の盛んな北海道に目を向けた。目ぼしい自治体に電話をかけて調べていたところ、下川町役場から町にある牧場が高齢のため経営を譲りたがっているとの情報を教えてもらった。

 ネットでさらに調べていくと、この牧場も元は移住者で新規就農だったことを町の移住者インタビューで知る。その他にも町の情報がたくさん発信されていて、「がんばっている町という印象がありました」という。

 11月から正式に経営を継承する。60ヘクタールの牧場に牛42頭がいるが、もう少し増やしたいと語る。

山梨県から移住した菊島さんの一家
山梨県から移住した菊島さんの一家。酪農をやりたくて、牧場を探していたら下川町によい場所が見つかった。放牧酪農を目指す。

起業支援で地ビール生産を

 新規に起業する人もいる。「合同会社しもかわ森のブルワリー」はクラフトビールの製造とパブの経営を行う。札幌で半導体エンジニアとして働いていた中村隆史さんは、「起業型地域おこし協力隊」の制度を利用して夫婦で2022年に移住した。 町内産のホップを使ったビールの製造も予定している。店はプレオープンし、すでに町の人たちが夜に集まれる格好の場所になりつつある。醸造免許の取得を待って、来年の1月頃には正式にオープンする予定だ。

世界を旅し、落ち着いたのが下川町

 下川町の移住者のパイオニア的な存在が、町でカフェレストランMORENA(モレーナ)を営む栗岩英彦さんだ。静岡県出身で、養蜂研究所に勤めた後、31歳から世界一周の旅を2回、日本一周の旅を1回経験した根っからの旅人だ。そろそろ日本に戻ろうと思い、たまたま名寄の友人に探してもらったのが下川町。1991年に下川町に落ち着いたので、もう住んで32年になる。

 「私が来たころは若い人が下川に入って来ることなんてまずなかった。町も特に何もやってなかったし。最近はよく若い人が来るようになりましたね。そういう人は必ずここに顔を出してくれてね。時代は変わりましたね」

 インドに滞在していたときに、ギターを教える代わりに村の人に習ったというカレーが自慢のメニューだ。仲間と手づくりしたという店はかつての農家だ。畑を作りながら、森の生活を送る。店にはファンが多く遠方から訪ねる人も多い。店が落ち着いていれば栗岩さんの世界の旅の話も聞けるし、ここで旅人同士が出会うこともあるらしい。

世界中を旅した栗岩英彦さん
世界中を旅した栗岩英彦さんが32年前に腰を落ち着けたのが下川町。経営するレストラン「MORENA」は町内外の人がここを目指して訪れる場所になっている。
しもかわ森のブルワリー
プレオープンした移住者の店「しもかわ森のブルワリー」。森の町らしく、店内には下川町産の木がふんだんに使われている。

移住者が移住者を呼ぶ

 下川町は1980年に人口減少率北海道1位となるほど、深刻な事態だった。その後、町の存続のためにさまざまな試みが行われ、今日の姿がある。タウンプロモーション推進部ができてから、移住者は約170人を数え、コロナ禍以降でも20組以上が起業している。地域おこし協力隊の約7割が定着し、現在も14人が町で暮らす。これからも、どこからどんな人たちが町にやってくるのだろう。
(文・写真:吉村卓也)

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ここからは特集に関連して会員の皆さんからよせられたコメントをご紹介します。

投稿テーマ
『森の生活』
森の生活にあこがれます。森の中に住むとまではいかないまでも、林とか、緑のそばとか、木のあるところは落ち着きます。
そういえば「森林浴」という言葉もありましたね。
北海道には森が多いので自然へのアクセスは恵まれていますが、クマが……
最近、森に行きましたか?

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わー森の生活、あこがれです。鳥のさえずりに木々の揺らぎ。ゆったりとした時間。想像しただけでヤバイです。が、ここ最近、森に行った記憶なし。悲しい、、、それにしても、クマですか!?お気をつけください~(cervejaさん)

行ってませんねえ近くの公園へ散歩です
でも早朝で暗いのと公園内の河川の上流は山なので熊の心配があり
最近は散歩コースから外してます(TAKさん)

冬になったらスキーに行きます(マルキーニョスさん)

何年も行ってないですね(シュンさん)

行っていないので行きたいです。(このあーさん)

昨年3月から転勤で奈良在住ですが県の70%森林で故郷よりも森林率高いです。函館育ちなので「函館市 市民の森」が庭でしたが奈良県でもクマ出没していますが故郷北海道も山だけではなくクマは市街地に降りてきてるので皆さんお気を付けください!(KANTON$さん)

大阪でも熊が出たときいたので行ってないです。(ユウさん)

行ってません。猪にも熊にも合いたくないです。虫もイヤー。
近所の野良猫・飼い猫と触れ合うくらいで充分です。
あ、海が近いんで、カニやフナムシくらいならそのへん歩いてますよ。(クロネンコさん)

全然行ってないので近々時間を見つけて行きたいと思います。(マスタクさん)

最近森に行っていないです。
森で癒されたいです。(きゃまさん)

残念!! ここ何年も行ってません。(鉄人シルバーさん)

子供のころ、冬が近づくと薪を取りに海の近くの砂防林に行ったのを思い出しました。砂丘の中にも飛砂を防ぐために植林されたのでした。その時の副産物のキノコが夕食になっていました。適度な疲れとキノコの夕食で夜はぐっすり眠れました。今では松くい虫などのため緑も半減し、キノコも見あたりません。残念です。代わりに、なぜか砂丘にも時々クマの目撃情報があったりします。自然のバランスを崩さないように考えたいものです。(ぼくりょうさん)

出身大学が森を切り開いたような場所にあるところでした。夜、ケータイを付けながら歩いていたら、カラスからフンを落とされた思い出が…。標的にされました…。(dohmotorikakoさん)

近くに森がありません。しかし先日家の前をキツネが歩いているのを見ました。どこから来たのか。(ひまわりさん)

最近は、遠のいてます。昔は、家族で良く山間部でキャンプを楽しんでいたのですが。(だてっこパパさん)

森に近いところに住んでいます(タネさんさん)

蛇や熊など怖い動物や昆虫がいっぱいなので苦手です

田舎に住んでいるので緑がいっぱいで満足しています(みちさん)

春から秋にかけて、高原に咲く山野草に会いに、山歩きをしています。出会えた時はほっとし、とてもうれしくなります。自然を大事に守りたいと思います。(raramyuさん)

たまに管理しに森に入ります(Kさん)

山は樹木の種類によって風景は一変します。北海道は針葉樹、広葉樹、混合林、場所によって様々な風景が楽しめる特別な地域です。(ヨウスケさん)

子供が小さい頃はキャンプも兼ねて森へはよく行きましたが、今は中々行く機会がありません。またにはのんびり森林浴もいいですね。(マッチおじさんさん)

森でなく林でもなく、わが家の草木たちの世話をしてます。今年は「山茶花」の木が高くなったので短くし、枝も間引きました。日と風をいっぱい浴びて
山茶花さんは気持ち良さそうです。蕾が元気で大きく膨らんできました。
(エイジさん)

森林浴が大好きでほっとするというかふるさとを思い出します。山のふもとで生活していたので木々の香りや枝の間から見える日差し枯葉を踏む音など森は楽しみが一杯でした。私のふるさと特にくまの被害が多くてとても悲しいです。共存できるのが理想ですが今の状態では難しいですね。何とかよいアイディアを出し合って人間もクマもよりよい環境で過ごせることを願います。(ミックさん)

近くに小さな木々のある公園はあるのですが、寒さが堪える椎間板ヘルニアなので最近散歩はしていません。(アキヒロさん)

小学生の頃は当たり前のように森に入って遊んでいました。近くに森に友達と基地のようなものを作り、おやつや漫画を持ち込んで遊んでいました。伴戸ちとの罪のない付き合い・自然とのふれあい・自由な空間を満喫していたように思います。(アッシさん)

緑が少なく森もない場所なので自然と触れ合う機会がないです。(nagisaさん)

行っていません。
ゆっくり森林浴でもしたいです。(め組さん)

自宅は割と都会にあるのですが、最寄り駅に行く時に坂があり、坂を登り切った先だけ都会から離れた場所のような所があります。
森林浴とは程遠い単なる土手なんですが、草木が生い茂っているので匂いが違うんです。
虫もたくさん鳴いてますし、そこを通る時だけ自然を感じる事ができます。
夜にはびっくりするくらい空が綺麗に見えて、満月の時はわざわざ見に行くこともあり、お気に入りの場所です。(石山ラムさん)

夫とのキャンプにハマっています。森の中でのんびりと過ごす大切な時間。不便があり、暑さや寒さを感じる時もありますが緑に囲まれて過ごしているとなんだかゆったりとした気持ちで癒されます。勿論熊鈴やクマスプレーを持参してのキャンプですが、クマに怯えることなく楽しめるキャンプが戻ってくることを願っています。(ユリカさん)

何年も森には行っていません。でも野鳥観察に興味があるので春になったら行きたいと思ってます。(かちんさん)

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