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>HOME >特集一覧 >VOL.235「北海道の和紙」(2024年3月19日)
特集「北海道の和紙」の表紙の写真です

特集Vol.235
『北海道の和紙』

公開:2024年3月19日 ※記事の内容は取材当時のものです。
蝦夷和紙工房の和紙。北海道の素材だけで作ると、野性味あふれる仕上がりとなる。筆記用の紙を作るときはコウゾ等を加えるなど、用途に応じて紙をすく。(写真左からササ・ハルニレ・オヒョウニレ・フキ・カラマツ)

北海道の素材が紙に生きる

 仕事柄、名刺はすぐにたまる。デジタル化してしまうのが常なのだが、今回の取材でいただいた名刺は、ちょっと長いあいだ手元に置いておきたくなった。和紙や特別な紙でできているからだ。手に触れたときの紙の感触は、やっぱりいいものだ。紙という「モノ」の力を感じる。ということで、今回は北海道で作られる和紙の話だ。

「和紙」って何

 和紙とは何か。日本工業規格の定義によれば、和紙とは「我が国で発展してきた特有の紙の総称」だそうだ。「本来は、じん皮繊維にねりを用い、手すき法によって製造された紙」だという。「じん皮繊維」とは要するに植物の繊維のことらしい。

 全国的に見れば、岐阜県の本美濃紙、埼玉県小川町などの細川紙、島根県の石州半紙が、ユネスコの無形文化遺産に登録されている。その他にも全国に和紙の産地は多い。さて、北海道に和紙文化はあるのだろうか。結論から言うと、古くから受け継がれた和紙の文化は北海道では見当たらなかった。その代わりというか、だからこそなのか、地域の素材を使って紙を作る人たちがいた。

東野早奈絵さん
「蝦夷和紙工房 紙びより」の東野早奈絵さん。
左がハルニレ、右はオヒョウニレ
素材の皮を剥き、煮て柔らかくして繊維を取る。 左がハルニレ、右はオヒョウニレ。

和紙職人を目指し、越前で修行

 東野早奈絵さんは、「蝦夷和紙工房 紙びより」を営む紙の作り手だ。小さい頃から手を動かしてモノを作るのが好きで、大学で美術と理科の教員免許を取得し、6年間教師として働いた。「やっぱりモノづくりがしたい」と、迷った末に転職した。東京の雑貨ショップの店長を経て、将来の独立に備えて社会人学校でデザイン、商品企画、店舗計画などを学びながら本当にやりたいことを探していた。モノづくりを模索しているときに出会ったのが、昔から好きだった紙。図書館で情報を探し、越前和紙の本場である福井県が行っている紙すき職人の養成講座に東京から約5週間通った。その後、伝統工芸の職人になることを決意し、骨をうずめるつもりで同県越前市の和紙工房に入った。結果として、家庭の事情があり北海道に戻らなくてはならなくなり、5年間働いた後、北海道に戻り工房を開くに到った。

 「静寂の中で行われる紙すきの作業。静かな動作をリズミカルに繰り返し、聞こえるのは水の音と道具が触れ合う音だけ。何か運命的なものを感じました」と語る。

 最初は札幌市厚別区に工房を作ったが、2022年11月からは江別市に工房とショップを移した。伝統的な和紙の材料だけにとどまらず、北海道の材料で紙をすく。

 紙の原料となるのは植物の繊維(パルプ)だ。皮をはぎ、煮て、洗い、何度も叩いて繊維を抽出する。細かくなった繊維を水の中に放ち、簀桁(すけた)という道具で紙の素材となる繊維をすくって、それが均等になるように動かし、シート状にし、水を切り、圧をかけて脱水し、最後に乾燥させて仕上げる。

北海道の材で紙を作る

 伝統的な和紙に使われるコウゾ、ミツマタ、ガンピは繊維の強さや太さが紙に適しているので、紙造りに向いた素材だ。これらの伝統的材料も使うが、北海道ならではのもの、例えばササ、オヒョウニレ、ハルニレ、フキ、イラクサ、ヤマグワ、麻、亜麻、シラカバなどでも紙をすいてきた。オヒョウニレやイラクサはアイヌの着物の材料としても知られている。

 「普通は紙造りに使われなかったような素材を使うと、糸状の繊維が踊っているような、独特のテクスチャーの紙もできます。伝統的な材料を使ったいわゆる『きれいな紙』とはだいぶ違うので、気持ちの切り換えが必要でした。かなりの冒険でしたね」という。

 工房にはショールームもあり、さまざまな和紙の商品が販売されているほか、紙すきのワークショップも行っている。

「富貴紙」工房
釧路市音別町の「富貴紙」工房。すいた紙は最後に乾燥機に貼り付けて乾燥させる。

音別はフキの紙

 自治体ぐるみで和紙の製造に取り組んでいるところもある。釧路市の音別地区だ。このあたりはフキが特産品。主に水煮にしたりして食品として加工されている。1989年(当時は音別町だった)、食品加工の段階で廃棄される大量の皮を、何かに利用できないかと考えたのが最初だった。調べていくうちにフキの皮には良質な繊維が多く含まれていることがわかり、これを使って紙を作ることを発案。1990年に商品開発が始まり、翌年に本格的に「富貴紙」の名前で製造販売を始めた。

 2005年に音別町は釧路市及び阿寒町と合併し、翌年に振興公社が解散したこともあり、富貴紙の製造販売は一時中断した。だが技術継承は続け、地元の小中学校の卒業証書台紙に使われ続けた。そんな中、2014年に日本の手すき和紙がユネスコ無形文化遺産に登録されたのをきっかけに、富貴紙の事業の再構築が決定され、再出発した。2022年4月、交流拠点施設「ルート38音別館 おんぽーと」に製造拠点を作り、本格的な製造体制に入り現在に到る。前述した蝦夷和紙工房の東野さんも、製造のアドバイスに加わっている。

紙づくり、何より面白い

 工場の中で、煮詰めたフキの皮から一心に、硬い「スジ」を取り除いていたのは、本間忍さんだ。とても細かく手間のかかる作業だ。地域おこし協力隊として釧路市にいたときに、富貴紙のことを知る。

 「地元の材料を使って紙を作るなんて、いいじゃないですか。何より、やっていて面白い」と言う。

 昔、野菜を使って自分で紙を作ってみたこともあった、というからその素地はあったと言うべきか。富貴紙の製造を手伝いながら、自身で「釧路和紙工房」も立ち上げ、これからは自分でも和紙を作っていく計画だ。

 「フキだけだとバリバリした紙になってしまうので、ある程度コウゾを混ぜています。フキ100%で柔らかい紙ができるかどうかは研究中です」と本間さん。

 富貴紙は名刺台紙、便せん、はがき、封筒、扇子、しおり、おりがみといった商品がある。

フキの硬いスジを取り除く本間さん。
フキの硬いスジを取り除く本間さん。
富貴紙
フキの入り具合によって、いろいろな富貴紙ができる。

トウモロコシからもできます

 食品の不要な部分の再利用から作られる紙をもう一つ。「とうきびペーパー」はトウモロコシから作った紙だ。札幌市にある工房アルティスタの商品だ。同社は20年以上前から、札幌の大通公園で行われているミュンヘン・クリスマス市で公募デザインによるクリスマスカードを販売している。夏の大通公園はトウキビワゴンが名物。大量の皮も出るだろう。

 「その皮がクリスマスカードになって生まれ変わったら面白いのではないか」と、代表の永谷久也さんが企画した。

 ワゴンで売られるトウモロコシの皮をもらい受け、まずはひたすらその「ヒゲ」を取り除く。その後、皮を箱詰めにして埼玉県のパルプ製造会社に送る。そこでトウモロコシの皮は特殊な機械ですりつぶされ、原料となる。それから福井県越前市の紙工場に送られ、機械で漉かれて「とうきびペーパー」ができあがる。工房アルティスタのショップで、ポストカードやA4版で販売されている。

最後に残るのは紙かも?

 和紙を前にすると、なんとなく創造意欲が湧いてくるのが不思議だ。これに字を書きたいという欲求、何かを作れないかな、何かに貼ってみようかな、などと思いが膨らむ。今から1300年以上前に和紙に記録された書類が、奈良の正倉院にはあるそうだ。デジタルは劣化しない、と言われるが、長く残るのは案外「紙」なのかもしれない。

(文・写真:吉村卓也)

トウモロコシの廃棄素材
大通公園のトウキビワゴンに使われるトウモロコシの廃棄素材(左)から、
紙
こんな風合いの(右)紙ができる。(写真提供:工房アルティスタ)

蝦夷和紙工房 紙びより

■ギャラリー&ショップ :10:00~17:00(木~日・祝)
■紙すき体験:10:00、13:00、15:00(2名様から要予約)
■工房営業:毎日(水曜定休)
江別市大麻園町7-9 tel.& fax. 011-803-0404
WEBサイト https://ezowashi.com/
Instagram https://www.instagram.com/ezowasikoubou_kamibiyori/

富貴紙工房

ルート38音別館おんぽーと
釧路市音別町本町1丁目51
https://www.city.kushiro.lg.jp/shisei/gaiyou/1006797/1006798/1006810.html

工房アルティスタ

札幌市中央区南2条東2丁目16 堀尾ビル 1階
https://kobo-artista.com/

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ここからは特集に関連して会員の皆さんからよせられたコメントをご紹介します。

投稿テーマ
『紙』
昨今、紙はデジタルに押され気味。朝日新聞の北海道の夕刊も無くなってしまう…
デジタルでも読めるけど、手に触れられる紙はやっぱりいい。
きれいな装丁の本とか、手で感じる紙の感触がほっとします。手元に置いて置きたくなります。跡形も無く消えてしまうデジタルではなくて、何百年も残る紙。
便箋に書かれた万年筆の文字からは、書き手の温もりまで伝わります。
ご祝儀は紙で包み、水引も紙でできています。
障子越しの柔らかい光も紙ならでは。
思えば、良質な和紙の作られる日本は、紙が生活の中に根づいているのですね。
ああ、紙に字を書きたくなってきました。
どうですか?最近、紙に触れていますか?

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2歳の子どもに絵がついている辞典を購入しました。
今はスマホで調べられる時代ですが、紙をめくって調べたらやはり頭に残りますよね。たくさんページをめくって楽しんでいます!

我が家は絵本がたくさんあります。親も本をたくさん読みます。
子どもも本が大好き!嬉しいです。(みんみんさん)

 デジタルはやはり味気ないと言うか、馴染めない。トイレでも電車でもスマホで記事を読んでも頭に入って来ない。
 色々不満もあるんだ。でも、手放せない質感がある。新年度の道内面の充実にも期待している。(ノリさん)

本や新聞記事などデジタルに確かに押され気味ですが、やはり、本や新聞などは紙で読みたいです。デジタルの小さな画面で読むよりも実際に紙に触れながら読む方がよいです。(ちるちるみちるさん)

ここ最近は大人も子供も字を書くこと自体なくなり電車の乗ってもにみんな下を向いてスマホ三昧で本を読んでいる方々も皆無ですね。我が家は商売やっていたので母も暑中見舞いやお礼状を書いたり年賀状も500枚ぐらいは書いていました。私も学生時は常に和英辞書とか辞書も持ち歩いていたけど今の子供は辞書を引く事もなくなって寂しいものですね。まさか夕刊が廃止になるとは青天の霹靂です。
恋文の文化ぐらい復活して欲しい!(KANTON$さん)

スマホやパソコンばかりで紙に触れる機会が少なくなっていますね…
その反動なのか本は必ず紙にしています。
雑音をシャットダウンして一つのことに集中できるのでいいです。(けんけんさん)

ついつい神に印刷してしまう日々(kamiさん)

折り紙は日本の誇る文化(takuさん)

字を書くのが好きなのと忘れっぽい性格から、すぐメモをします。やりたいことを箇条書きにして消していく達成感も好き。最近、人を励ますためハガキを書きました。より想いが届くと良いなと。この春、三重県津市に紙幣の原料にもなっているミツマタ群生地に行きます。 (まるさん)

触れていませんが、私は習字をしますが正月の書初めここ数年してませんね~(藍さん)

付箋に色々メモを書いています(オリジナルリリーさん)

メモ帳には触れている(チバタロウさん)

毎日 机の上にメモ用紙を置いて いろいろ書いてますよ(masaさん)

忘れる事が多くなってきたので、メモ用紙、に触れる事が多くなりました(みきじーちゃんさん)

仕事の上でも保管しておきたいものは紙がいいですね。(タツアキさん)

大切な人に贈り物をするときは綺麗な紙で包んで贈るようにしています(みちさん)

本や新聞に触れています。(とらさん)

私は新聞も本も手紙も、温かみのある紙が好きです。
デジタル化は時代の流れで仕方がないのかもしれませんが、やはり寂しいですね。
いずれは朝刊もデジタルになってしまうのでしょうか…。(Lさん)

子供が産まれてから毎日日記をつけるようにしています。
スマホで打ち込むよりもお気に入りの日記にお気に入りのペンで書きこむことで気持ちがスッとする気がします(まもるさん)

子どもが文字を覚えてきて
文字で言葉を伝える大切さを学んでほしくて

言葉でも愛情を伝えていますが
だいすき、など
娘と手紙交換もしています(あいさん)

新聞は毎日見てます。仕事ではメモ取ります。スマホにメモするかたが多いですが紙に書くのは大切だと思います。スマホばかりに頼ると字を忘れてしまうので(こうさん)

紙といえば、日銀でもらった一万円札の裁断片です。もろてもな。(おりんさん)

手書きする機会が皆無になり、図書館の本くらいです。紙に触る機会があるのは。(Chansonさん)

そう言われると触ってないかも?本も読むことも少なくなったし、筆記道具を使う機会が少なくなったかも(ミキさん)

本はやっぱりデジタルより紙ですね。一枚一枚ページをめくるたびに左から右へと厚みが増えていき読み進んでるなと実感できます。(サヤカさん)

新聞のクイズや料理コーナーをよく読んで楽しんでます(まるさん)

毎日触れています。(はなちゃん3さん)

毎日日記を書く習慣があります。デジタルもいいですが、1日を振り返る時、やはり紙に書くと気持ちが落ち着きます。悩んでいる時も、それを紙に書き出すと整理されスッキリします。不思議だなあと思います。また新しいノートを買いに行かなくては!(りょうさん)

仕事では、まだまだ紙媒体が多いです。手書きは、汚すぎて読めなかったりすると、ミスを起こす原因になるので、なるべく機械を通して欲しいと思います。(kawaさん)

マンガや小説は紙媒体で読みたい派です。
最近小説はあまり読んでいませんが、コミック誌は毎週買って読んでいます。
手にインクが付くのが難点ですが。(クロネンコさん)

小説を読むのが好きですがデジタルではなく紙の本で読んでいます。
手に触れることの落ち着きと安心感があります。(りょうさん)

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