「かわにしの丘 しずお農場」がある道北・士別市のキャッチフレーズは、「サフォークランド士別」。ちなみにサフォークとは英国サフォーク地方原産の羊の品種名で、大型で肉づきが良く肉の生産に適している。
同農場産の羊肉は、適度なサシが入り、歯応えがありながらしっかりとかみ切れるほどやわらかい。また、羊肉特有の臭みがほとんど感じられないのが特徴だ。「牧草だけを食べさせると脂に臭みが残るので、小麦や大豆などの穀類と野菜くずを独自に配合した飼料を与えています」と代表の今井裕さんは説明する。
農場がスタートしたのは2003年で、牧畜は06年から。現在は267haの敷地で528頭のサフォーク羊を飼育。このほかビートやフルーツトマト、食用ほおずきを羊の堆肥で栽培し、循環型農業を実践している。
今井さんにとって、農場経営は人生の再起を賭けた挑戦だった。28歳でコンピューターソフト開発会社を起業。一時は自社ビルを所有するまでに発展させたが、バブル崩壊の影響で1994年に倒産してしまった。
北海道を離れ、新聞配達員やトラックの運転手で生計を立てた後、奥さんの実家のある士別市に移住。ゼロから農場経営をスタートした。
「コネも当てもなく、東京のホテルやレストランに飛び込みで自分たちのラム肉を売り歩きました。生まれ変わった身だと思えば何でもできるもの。ある時、一流ホテルの総料理長が褒めてくれて、そこから注目されるようになりました」。
日系航空会社の国際線ファーストクラスのメインディッシュに採用されたほか、メディアでも注目の人気料理人「リストランテ・アクアパッツァ」の日高良実シェフ、イタリア料理の先駆者「ラ・ベットラ」の落合務シェフら、名だたる食のプロにその品質が認められ、出荷先の約8割を道外が占める。近年は生産が追いつかない状況で、増産も計画中だ。
同農場では、飼育から、加工、冷凍処理、袋詰めまで、全工程を自社で賄う。08年にはレストランと宿泊施設も開業。「多角経営を行う一番の目的は雇用の維持です。冬期休業する農業だと季節雇用扱いになり、従業員はローンが組めない。通年働ける態勢を整え、農業の企業化を進めるのが狙いです」。
レストランではオーストラリア産の羊肉も扱うが、独学の英語を駆使して直接現地から仕入れる。「6次産業化というより小さな商社です」と今井さんは笑う。
「付加価値のある農産物を自ら販売し、消費者に農業の素晴らしさを知ってもらえれば。人をつくり、仕事をつくり、地域づくりに貢献する。これが今の私の仕事です」。
士別市東4条21丁目473-103
TEL 0165(22)2151〈農場直通〉
http://www.shizuo-farm.com/
羊肉を部位ごとに加工する際は、肉の繊維を傷つけないように、機械任せにせず、人の手で丁寧に処理する。また、最新の瞬間冷凍技術「CAS冷凍」を導入。マイナス50度の瞬間冷凍でパッケージし、解凍時に肉からうまみ成分を含むドリップ(水分)が出ることのない、加工したての味わいを届ける。
※「CAS」とは、Cells Alive System (細胞が生きている)という意味。解凍後に鮮度が生き生きとよみがえることから名づけられた。
農場内にある直営ファームレストランμ(ミュー)では、農場で育てた羊肉や農産物を使った料理を提供。昼食時は地元客でにぎわう。
人気メニューの「らむちゃんラーメン」は、ラム骨をじっくり煮込んだ白濁スープで、コクがあるのにクセのない味わい(提供はランチタイムのみ)。もちろん、ランチ・ディナーではラム肉の焼肉が味わえる(ディナーは前日までの予約制)。また、糖質制限メニューも用意している。
士別市東4条21丁目473-103 TEL 0165-22-4545 レストラン直通 営業時間 11:30〜14:30(LO14:00) ※ディナータイム 18:00〜20:00(LO19:30)は前日までの予約制 休み 水曜
2016年6月26日 特集142号 ※記事の内容は取材当時のものです。