「朝に田んぼを見回るのが日課。稲穂の風景は飽きることがない」。そう日本語で話すのは、ベネディクト・アルバティーニさん。時折交ざるフランス語は、妻の惠子さんが通訳してくれる。毎日、水田に入るのは、小さな変化も見逃さないため。虫が付いていないか、葉が枯れていないか、早く気づくほど、対応もすぐにとれる。
スイス人のベネディクトさんが、惠子さんと共に富良野へ移住したのは2010年。その前は、スイスやアイルランドで会社勤めをしながら、フランスで習得したハーブの専門知識を生かしハーブの販売もしていた。オーガニックの世界を知るほど、自然と生きる農業への憧れが強くなり、農家になることを決意。夢をかなえる地は、大好きな日本、そして、故郷に似ている北海道を選んだ。
「あの美しい山並みはスイスから見るジュラ山脈と同じ。ひと目で気に入った」と芦別岳を指さす。農園名のジュラファームには、遠く離れた故郷への思いも込められている。
数ある農作物の中から、“お米”を選んだベネディクトさん。それは、農業の師匠であり、農園を譲ってくれた田部俊一さんの影響が大きい。
「もともと穀物に興味があった。田部さんは60年以上もお米を作っていて、しかも昔のスタイルを貫いている。その伝統農法に強く魅かれた」。
そして、北海道米の「ななつぼし」と出合う。誕生までの品種交配と改良の苦労を聞き、そのヒストリーに感動。北海道の寒さでもしっかり育ち、食味のバランスが良い「ななつぼし」をジュラファームのメイン商品に決めた。
「ななつぼしには悪天候でも生き延びようとする強さがある。その特性を生かし、おいしさを最大限に引き出すのが僕の仕事」。
稲の根は深く伸ばした方が収量は上がるが、ベネディクトさんは田んぼを深く耕さない。根が横に這うようにすることで、稲がさらに強くなり、自然の力でおいしさを高めていく。
ジュラファームの水田は、2ヘクタールを5つに分けている。1つは、田部さんの教えを守った減農薬栽培。ほかの4つは、西洋のオーガニック栽培を取り入れ、さらに農薬を減らす工夫をしている。
「まず除草剤は使わない。余計な成分を吸ってくれる草もあるから。良い草とは共存する方法を探している」と、稲の間に残した草を見せてくれた。「あいつはちゃんと草取りをしていないと思われている」と笑うが、近所には、ジュラファームのお米を毎年買う農家もいるそうだ。
よりおいしいお米を作るため、国内有数の米どころが集まる「米・食味分析鑑定コンクール国際大会」に毎年出品。その鑑定結果を基にさらなる品質向上に努めている。
自然と生きる日本の伝統農法と、自然を生かすハーバリストの知識。その融合から作られる、秋の新米を心待ちにしたい。
師匠の田部さんがずっと使っていた「籾すり機」を譲り受けたベネディクトさん。「メーカーの井関農機から、博物館にあってもおかしくないと言われた(笑)」。手動のため、コツをつかむまでてこずったが、慣れると「機械の匂いが付かない。お米がおいしい」と実感。時間はかかるが、収穫したお米は全てこの機械で籾をする。今では、ベネディクトさんにとっても大切なパートナーだ。
ベネディクトさんは、お米以外にも、富良野メロンとヨーロッパメロン、西洋野菜などを栽培している。既に栽培が終わったハウスを見ると、雑草が生え始めているような…?
「ハーバリストに雑草という概念はないのです」。収穫後のハウスは、どんな草が生えてくるかを見るため、しばらく自然のままにしておくという。その草を見ると、土に足りない成分、過剰な成分が分かるのだそうだ。
モットーは、「口に入るものは健康に良くなくてはならない」。ハーバリストが育てるお米、メロン、健康野菜にも、ぜひ注目していきたい。
「ジュラファーム富良野」の商品はインターネットでも販売していますが、フラノマルシェに「ジュラファームコーナー」があります。ぜひ立ち寄ってみてください。
●フラノマルシェファーマーズマーケット オガール
富良野市幸町13-1
●フラノマルシェ2 彩り菜(いろどりーな)
富良野市幸町8-5
[営] 10:00~19:00
[休] 2016/11/28~12/2、12/31、2017/1/1
TEL 0167(22)1001
http://www.furano.ne.jp/marche/
2016年9月25日 特集145号 ※記事の内容は取材当時のものです。