北見市民にとってツムラの麺は身近なソウルフード。株式会社ツムラではここ10年来、特色ある製品が続々と開発され、地元はもとより幅広いファンに親しまれています。それぞれの麺にはどのような思いが託され、製造されているのか…。津村健太社長に聞きました。
ツムラが動き始めるのは早朝3時。4代目の津村健太社長が工場を開け、従業員が出勤してくるまで、麺の練りや熟成等の工程を担います。
製造する製品は多岐にわたっていますが、代表製品は地元オホーツク産小麦を使った生麺シリーズです。その一つである「生ひやむぎ」の製造ラインには、薄く圧延された麺生地が流れていました。意外にも、麺生地はつややかな薄黄色をしています。「小麦粉と食塩と水しか使っていないのですが、このようにきれいな薄黄色になるんです」と話す津村社長。製法は創業当時と一切変わらず、季節によって水加減を検討しながら、同じ味を継承しています。
一方では出来上がった「生ひやむぎ」を、従業員が手作業で袋詰めしています。生麺ならではの繊細なおいしさを、そのままお客様のもとへ届けられるよう、ふんわり丁寧に詰める大事な工程です。そしてその味わいは乾麺とまったく異なり、コシが強くつるつるとしたのど越しは驚くほどだと評判です。
同様に、生うどんや生ラーメンもキメが細やかでモチモチとした食感。かむほどに小麦の甘さや風味が広がります。
いずれも使用しているのはオホーツク産の「きたほなみ」や、パン用で知られる「春よ恋」など品質確かな小麦粉です。ぜいたくなだけに原材料費が掛かるものの、それでもあえて地元産小麦粉を使う理由は何でしょうか。
「小さな会社だからこそ、地域色の強い特徴ある製品を造ろうと考えてのことです。それでお客様に喜んでいただけて、地域に貢献もできたなら何よりもうれしいです」。
現在人気の「生ひやむぎ」類は、10年ほど前によみがえった復刻版です。創業間もないころには製造されていたものの、いつしか消えていったひやむぎ。しかし津村社長が偶然、古い津村製麺所の写真(表紙に掲載)を見つけて、子どものころに食べた自社製造のひやむぎの味と、幸せな食卓を思い出し…。地元産の良質な小麦で生ひやむぎを再現したいと思い立って実現させました。数種類ある生ひやむぎシリーズはいずれも、「こんな食感初めて」と評価され、一年を通してさまざまなレシピで親しまれています。
製品の研究開発を担当している千恵部長が手掛けた中で、特に思い入れが深い銘柄は、2013年に製品化された「無敵の切麦」だそう。清里町産「きたほなみ」と「麺職人の塩46億年」だけで造った無添加の特別生ひやむぎ・生うどん。そしてその麺にぴったり合う味を造ろうと、発酵学者の小泉武夫博士の指導を受けて完成させた日本初のアゴ本枯節のめんつゆ。「この2つの組み合わせは無敵!」と小泉博士が命名した製品です。
現在ツムラのラインナップは幅広く、北見市特産のタマネギペーストを使ったスープや、ホタテ白湯スープなど、オリジナルスープを合わせたラーメンセットなども人気急上昇中です。
そしてこれらのほとんどは、津村社長夫人の津村千恵部長がアイデアを出し、それを津村社長が試行錯誤を重ねて実現させる連携プレーで生まれてきました。
「こんな製品があるといいな、と消費者目線で要望を言うと、社長にはだいたい『製造ラインの工程上、無理だろう』と返されます。それでも毎回、工夫や検討を重ねて、従業員とともに不可能を可能にしてくれました」と笑顔を見せる千恵部長。こうした、ものづくりへの情熱や結束力もまた、中小企業ならではの特徴と言えます。
これからツムラは小売り製造だけではなく、お祭り・イベントへの製品提供や、飲食店の要望に合わせて造るフルオーダー麺などにも積極的に対応していく構えです。
さらにもう一つ。来年度中には北見市内に、待望のアンテナショップを開店する予定で準備を進めています。そこには自社製品の販売コーナーをはじめ、オリジナルの麺メニューを楽しめる飲食スペースも設けられるもようで、新たなショッピング&グルメスポットのお目見えが待たれます。
このように、消費者や地域の特産物と密接に関わり合い、盛り上げていこうと前を向くツムラ。この姿を、創業者やいにしえの写真に居並ぶ人々は、きっと頼もしく思いながら見守っていることでしょう。
2017年6月25日 特集154号 ※記事の内容は取材当時のものです。