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>HOME >特集一覧 >VOL162「愛別、迫力のきのこ 矢部きのこ園」(2018年2月18日)
特集「愛別、迫力のきのこ 矢部きのこ園」の表紙の写真です

愛別、迫力のきのこ。

45年前、減反に悩んだ父はきのこを選んだ。
愛別のきのこ、ここに始まる。

舞茸、英語ではHen of the Woods(森のめん鶏)というらしい。確かにこのくらい大きいと鶏に見えるかもしれない。

45年前、減反に悩んだ父はきのこを選んだ。
愛別のきのこ、ここに始まる。


 旭川から北東へ約30キロ、網走へ通じる国道39号線、通称「大雪国道」を車で走ると、45分ほどで愛別町に着く。人口約3,000人。「きのこの里」として名高い。愛別町ときのこの歴史は四十数年前にさかのぼる。

 当時、愛別で米農家を営んでいた一戸の農家があった。昭和25年生まれの矢部信一さんだ。国の減反政策によって米づくりの縮小を余儀なくされる中、新たな活路として考えついたのがきのこだった。もちろん知識はない。きのこの本場、長野県に友人と二人で出向き、3ヶ月程みっちり滞在。その後も数えきれないほど足を運び、ノウハウを学んだのが最初だった。
 1973年、エノキの栽培をスタート。きのこの里愛別はここに始まる。現在、エノキは道内の9割、ナメコは8割を産する一大産地となった。


矢部きのこ園前。
雪が解けるとどんな風景が見えるのだろう。

まるで
工場のような

 事務所のストーブにあたりながら、話してくれたのは、矢部きのこ園の現在の社長、息子の矢部大輔さんだ。「工場」と呼ぶのがふさわしそうなきのこの育つ現場を案内してもらった。施設は約1,000平米の広さがある。1996年から舞茸に移行した。今はキクラゲも作る。

 まずはきのこが生える土台となる「菌床」が必要だ。カバの木のおがくず、大豆の搾りかすなどが元となる。床下に備えられた巨大な撹拌装置で材料を混ぜ合わせ、高圧殺菌釜へ。温度と圧力で減菌する。できた菌床の元は、牛乳パックを4本まとめたくらいの大きさのビニールに詰められたブロックに固められ、きのこの元となる種菌を植え付けられ、「培養室」に送られる。
 舞茸の培養室に入る。薄暗い倉庫のような空間。通路の両側に作られた棚に、ビニールに入った土色のブロックがずらりと並ぶ。まだきのこは影も形もない。全部で2万6千個ほどあるという。袋の上部には不織布で作ったフィルターがつけられ、ここを通して菌が呼吸する。
 室内の環境は1年中温度23〜24度、湿度は65%だ。冬は暖房、夏は冷房が必須。温度湿度の管理はいちばん重要な部分、と矢部さんはいう。湿気を保つために、定期的に天井部分に設置された超音波加湿器が霧を噴き出す。



培養室の菌床。まだきのこは影も形も無い。


だいぶ菌が育って白くなってきた。


 近づいて菌床をよく見ると、ところどころ白くなっている。きのこの発生源となる種菌の周りに菌糸が育ってきたところだ。矢部きのこ園の舞茸の種菌は「M52」と呼ばれる種類。扱いが難しいが、肉厚でよい舞茸ができるのでこれを選んだそうだ。菌床はここで44〜45日を過ごす。


発生室。湿度99%、気温20度。ひんやりとしたミストサウナのようで実に気持ちがよい。

きのこは
霧の中で

 培養室を抜けて廊下へ。次の部屋は「発生室」だ。文字通り、ここできのこが生えてくる。扉を開けると、一面霧がかかったようで遠くが見えない。湿度は99%、気温は20度に保たれている。霧深い森に迷い込んだような感覚だ。実際にきのこが育つ自然環境に似ている。約6,000個のブロックが並べられた棚のあちこちから、銀色の太いホースのようなダクトが出ている。室内の空気と湿気を含んだ空気を循環させているという。「真気栽培」と呼んでいる。
 きのこの発生をコントロールするため、特殊な波長を放つ蛍光灯が天井から青白い光を放つ。培養室では土色だったかたまりは、この部屋ではもう菌糸に覆われ真っ白だ。10〜14日で、きのこは大きく成長し、収穫される。種菌の植え付けを調整し、一日に舞茸約200〜300Kg、キクラゲ約8〜10Kgを収穫する。舞茸はその大きさに驚く。ブランド名の「幻味舞茸」は父が名付けた。



舞茸は菌床の上に生える。


きくらげは横から出てくる。なぜ「木耳」なのか納得。


出荷準備の整った舞茸を持つ矢部大輔さん。

 「いずれは加工品を作りたかった」と、自社ブランドとして立ち上げたのが「きのこライスの素」だ。矢部きのこ園で育てた舞茸、キクラゲを、バター、コンソメ風味でアレンジ、ピラフ風に仕上げた。製造は遠軽町の白楊舎。知る人ぞ知る、混ぜご飯の素で人気のブランドだが、初めての洋風。着想から2年、開発に1年かけて完成にたどり着いた。
 洗った米に混ぜ込んで一緒に炊いてもよし、炊き立てのご飯に混ぜてもよし。簡単、便利である。味付けされた舞茸、キクラゲ、鶏肉とみじん切りのニンジンがアクセント。ピラフと呼ぶのがぴったりだ。くどくなく、優しい味。好みの具材を足すのもいい。


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2018年2月18日 特集162号 ※記事の内容は取材当時のものです。
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