片付けのプロ、整理収納アドバイザーに、女性の持ち物を想定して収納してもらったクローゼット。 細かいところに、ちょっとした工夫が隠れている。このページの下にその答えが。
感染症予防で外出自粛を余儀なくされ、思いがけず自宅で過ごす時間が増えた。せっかくそんな時間ができたのだから、それを有効に使ってふだんなかなか手がつけられない片付けでもしてみよう、と思った。お世辞にも片付け上手とは言えないが、時間はたっぷりあるからできるだろう、と。
で、やってみました!が、片付かない……。
ああでもない、こうでもないと、いろいろな方法を考えて整理してみたつもりでも、物があふれて収まらない。箱を使って区分けをしようとしてみたら余計モノが増えたような気がして、しまいにはさっき片付けたものをどこにしまったか忘れる始末……。
そんな訳で、これは片付けのプロにそのノウハウを聞いてみようと、今回の特集となりました。
白羽の矢を立てたのは、札幌で「整理収納アドバイザー」(NPO法人ハウスキーピング協会の資格)として活躍する寺嶋恭子さん。
まず寺嶋さんからの質問。
「ちょっと想像してみてください。家に帰ったら台所の床が水浸し。蛇口がうまく閉まってなかったようでシンクからは水が溢れています。さあ、どうします?」
うむ。まず床の水をふきます。
「はい、それで?」
次に、蛇口を閉めます。
「なるほど。でも、蛇口を先に閉めて水の流れを調節した方がより効率的だと思いませんか?実は、片付けも同じで、物が多すぎると思ったら先に家の中に入れる量、つまり買う量を減らす方が楽に片付けることができます。床の水をふくというのは、棚を買えば物が片付く、収納場所を作ればきれいになる、という思い込みと同じです。それでは残念ながら改善されずにすぐ元に戻ってしてしまいます。」
ぎくっ!最近小さな収納棚を買いました。でも片付いてません……。寺嶋さん、千里眼?さぞ昔から片付け上手だったのでしょうね。
「とんでもない!今でこそ『整理収納アドバイザー』を名乗っていますが、どちらかというと『ずぼら』です。父が亡くなったあと、家業を引き継いだ母を手伝うため事務仕事をすべて引き受けました。膨大な書類や資料を全部私の家に持ってきたのです。あの書類が要ると思って探すけど、さあ自分がしまったものが見つからない!結局、毎日何かを1時間以上探しているという状態が何年も続き、『これはきっと病気に違いない』と、ネットで認知症の初期症状について調べていました」
と、何とも意外なエピソード。そのとき、ネット検索でたまたま見つけたのが「片付けの講座」だったという。 「まず片付けの勉強をしてみよう、それでだめだったら病院に行こう」と学び始めたのが50代後半。「整理収納アドバイザー」2級、1級と取り進み、今は整理収納アドバイザー2級認定講師も務める。2014年から本格的に仕事として請け負うようになり、実際に家に出向いてアドバイスしたり、整理収納の講座を行っている。
個人宅に出向き、片付けや収納のアドバイスをする寺嶋さん(左)。まずは、片付けてどういうイメージにしたいのかをお客さんとじっくり話し合ってから実際の作業に取り掛るという。
整理収納アドバイザー。札幌在住。公務員を経て50代後半から整理収納を学ぶ。整理収納コンペティション2014で最優秀新人賞受賞。主に60代からの片づけアドバイスを得意とする。
表紙のクローゼットは今回、寺嶋さんの考えに基づいて女性の持ち物をイメージして整理収納してもらった一例だ。自分のクローゼットと見比べてみると、ずいぶんスカスカに見える。ウチは洋服がもっとびっちりあります。
「はい、そういう方が多いですね。ところで、その中でこの1年間で着たお洋服はどのくらいありますか?」と寺嶋さん。またまた耳の痛いご指摘。そう言われると、吊るしたままの服が半数以上あるような……。
「片付けの最初は『整理』から入ります。『使えるもの』ではなくて『使うもの』を選ぶのが『整理』です。スカスカに見えるクローゼットですが1着で何パターンかのコーディネートを考えたうえでそろえておくと、この枚数でも着る洋服には困りません」
なるほど!では要らないものは「断捨離」すればいいですね。
「『断捨離』=『捨てる!』というイメージをされる方がいらっしゃるので、違う言葉でご説明しますね。最初から『捨てる』ではなく、1年使っていないと思ったら『まず使ってみましょう』、それから、使いごこちが悪かったら『手放す』、まだ迷ったら『検討中』にしてもいいんですよ」
寺嶋さんには持ち物の処分で苦い思い出がある。長年持っていて使わなかった物を処分しようとリサイクルショップに持っていったとき、「無価値」と査定された。「もったいない」と思って家の中にしまっていたことによって、誰もが欲しがらないモノを増やし、かえってモノに対して失礼なことになったのではないか、使うことこそがモノを大切にすることだと考えを改めた。
でも片付けは時間もかかるし、ついつい後回しに。片付けに使う時間がもったいない。いるときに探せばいいや、となってしまいがち。 「でもね、物を探すのに使う時間は無駄な時間です。さらに、物が探せないと精神的なストレスも高まります。その上、見つからないと新たに買ってしまうこともあります。片付けを工夫することで、時間もお金も節約できると考えましょう」。
確かに。見つからなくて買ってしまうは「あるある」だ。「使わないもの」をしっかりと見極めて「整理」しなくては。
「でも例外もありますよ」
ん?それはなんですか?
「思い出の品です。思い出が強い物は使っていないからといって無理に手放さなくてもいいです。私はおじいちゃんおばあちゃん子だったので、祖父母からもらったものはけっこう持ってました。気持ちの整理とともに手放しましたが、思い出の強い、祖父母が使っていた火鉢は残してあります。収納場所も必要なので、今は植物を入れて、室内のオブジェとして毎日眺めていますよ」
寺嶋さんの考える片付けの基本は「使いやすく、戻しやすい収納」だ。そのためにはどうしたらいいか?
「ズボン」を例にするなら……
①「使うもの<1軍>を選ぶ(整理)」この1年間にはいたかどうかを基準にする。サイズが合うかもチェック。数が多過ぎると探しにくいし、しわになる。使わない物は手放す決断も必要。
②使用頻度で「優先順位をつける」。 <1軍>は最優先して使いやすい場所へ、逆にめったに着ない礼服は端へ。
③「見える収納」で何があるのか見てすぐ分かるよう、重ならないように。
④「ラベル表示」で一目瞭然に。
⑤「使うところに収納」で用意するところにまとまっていると使いやすい。
⑥<1軍>は手の届く高さに。
シニア世代に寺嶋さんが特に勧めるのが④のラベル表示だ。 「歳をとるにつれ、記憶力だけで物を取り出すことがだんだんできなくなります。それをぜひ自覚してください。さらに高齢になると、家族に物を探してもらう必要が出てきます。そのときのためにわかりやすくしておくのが大事です」
いろいろとためになるヒントをいただいた。きっとできそうな気がしてきた。大片付けプロジェクト、やってみます!
「あ、それからね、」
はい?
「一気にやろうとしないでね。出し過ぎるとぐちゃぐちゃになって収拾がつかなくなる恐れがあります。例えばまずは「靴下だけ」のように小さい範囲を決めて、やってみる!それができたら自分を褒めてあげてくださいね」。
なんと、またまたお見通しのアドバイス!では、まずは「靴下」からやってみます。これならできそう。ありがとうございました!
(まとめ/写真・吉村卓也)
●撮影協力:DAIKEN札幌ショールーム クローク収納内部ユニットrelaclo(リラクロ)
2020年7月20日 特集191号 ※記事の内容は取材当時のものです。
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