大森ガーデン
広尾町字紋別 14線73-2 TEL 01558-5-2525または2421
月曜定休(祝祭日と重なる場合は翌日休み)
営業時間(冬季は休業):ショップ 9:30〜17:00 カフェ・ギャラリー 10:30〜L.O16:00 ガーデンはショップまたはカフェの営業時間内
帯広から南へ、えりも岬方面へ車を走らせ約1時間、広尾町に入るとまもなく、大森ガーデンの看板が国道の右側に見えてくる。
入口のカフェ建物横にあるゲートからガーデンへ。芝生の小道沿いに植えられた草花はどれも落ち着いた色合いだ。歩く道沿いには背の低いもの、そこから離れるに従ってだんだんと背の高いものへと、しっかり計算されて植えられている。ほとんどが冬を越す宿根草だ。
大森ガーデンは大森康雄さんと敬子さん夫妻が営む。
「他では見たことのないものがいっぱい」と、植物に造詣の深そうなお客さんがいろいろ質問している。日本の庭とはちょっと違う雰囲気があるのは、大森さんがカナダで牧畜や農業を学び、ヨーロッパや北米から積極的に新しい品種を輸入しているからだろうか。
2人とも東京出身。なぜ広尾でガーデンを営むにいたったのかは、康雄さんの父の相当変わった経歴に負うところも大きい。元々勤め人だった父は、東京・府中で養鶏を手始めに、綿羊の飼育に手を染める。宅地化が進み、新たな場所を求めて千葉へ。さらに北海道での牧場経営を夢み、広尾町に土地を見つけ、人を雇って牧場を営むことを実現させた。そのころ康雄さんは都内の大学の英文科の学生だった。父親から牧場経営の話があり、やってみようかな、と大学を休学しカナダの短大と大学で計3年8カ月、牧畜と農業の勉強をして帰国する。
康雄さんと敬子さんは高校の同級生同士。敬子さん曰く、「本ばかり読んでいた」という康雄さんが牧畜と農業を学びにカナダに留学したのにも驚いたが、北海道で羊を飼うという話にさらに驚く。敬子さんは大学を卒業し東京の百貨店で働いていたが、結婚を機に2人で広尾の住人となった。敬子さんは結婚して初めて北海道に来た。周りに家は全く無く、夜は真っ暗。あまりのカルチャーショックで、泣いた。「たいへんな生活が始まると思った」と、今では笑いながら話す。
綿羊の飼育からスタート。冬は「とても寒い」家の中に石油ストーブ。具合の悪くなった子羊がいると、少しでも暖かい家の中に入れていっしょに寝た。翌朝、元気になった子羊が家の中を走り回って部屋はめちゃくちゃ。「『北の国から』みたいな世界でしたね」と敬子さんは振り返る。
その後、畑作、牛の育成を経験するが、思ったような結果が出ず結局やめる。転機となったのは兄が東京と千葉でやっていたグラウンドカバー植物(地被植物)の栽培だった。「北海道でもやってみないか」という兄からの勧めで1985年に始めてみたところ、道外からの注文が途切れることなく、よく売れた。だが、「北海道で使われないのは面白くない」という気持ちが芽生える。この地に根付くものとして目をつけたのが宿根草だった。
留学していたカナダの寒い気候でも、春から秋にはきれいな花が絶えないガーデン。北海道でもできるはず、とリサーチが始まった。
寒さに強いものをといろいろな植物を探し求めたが、30年以上前、アドバイスをくれる人は誰もいなかった。園芸店で売っているものは1シーズン限りの一年草がほとんど。当時、多年草と呼ばれることが多かった宿根草は、本州からそのまま持って来たようなものがちょっとあるだけ。北海道で育つかどうか聞いても、「まあ、やってみてください」と言われる程度だった。
寒冷地で育つ宿根草に関して、日本語の資料は無かった。海外の文献から、北海道に合ったハーディネスゾーン(植物の耐寒性)を持つものを探し出し、手に入れて自分で植えて試してみた。海外のガーデンショーにも積極的に出かけ、その道のプロの話をよく聞いた。輸入してみても検疫で はねられる経験も数知れずだった。
1997年から宿根草の生産を本格化させ、直営店をオープンした。
春先、鮮やかな色で人の目を引きつける1年草の苗に比べ、宿根草の苗は地味だ。秋も終わると枯れたように見えるが、雪をかぶり、春を待つ。寒さに負けないことは、時に零下20度に達する十勝・広尾で実証済みだ。雪が解ければ、ゆっくりと芽を出し、きちんと順番に花を咲かせてくれる。植えてしまえば、長年に渡って楽しめるのが宿根草のいいところだ。
現在、千品種を超える宿根草を扱い、一般への販売の他にもいろいろなガーデンに植物を卸している。
清水町にある「十勝千年の森」のメドウガーデンは、世界的に有名なガーデナーであるダン・ピアソンがデザインし、2012年にイギリスの造園団体の大賞を受賞した。大森ガーデンのカフェには、ピアソン氏と大森さんが並んだ写真がある。千年の森のガーデンを造るときに、ピアソン氏の数々の要求に応えて、的確な植物を提供したのが大森さんだった。「ミスター大森、あなたがいなくてはできなかった」というピアソン氏のメッセージと、サインが添えられている。
植物を育てるのは康雄さん。自身は、植物を栽培する専門家「プランツマン」だという。敬子さんは、草花をガーデンの中でどう見せるかを担当するデザイナーだ。どの植物が、どんな大きさで、どんな色の花がいつ咲くか、知りつくしていないとガーデンデザインはできない。今は息子さんもガーデンの経営に加わった。
39年前、羊が走り回った家に今も住む。真っ暗な十勝の夜の心細さに泣いた敬子さんは、今は満月の夜には家の外に出て、その雰囲気を堪能するという。
「夏が終わるとガーデンは終わりという雰囲気がありますが、秋もまだまだガーデンが楽しめます」と康雄さん。来年の花を楽しむには、雪の降る前に植え、ゆっくりと一冬寝かせておく。あせらず、じっくり、が宿根草を楽しむコツのようだ。(文・写真:吉村卓也)
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