月2回開かれる「にじ色こども食堂」は誰でも参加できる。子どもも大人もボランテイアも、いろいろな世代が交じって一緒に食事を楽しむ。定休日のレストランがにども食堂」の会場だ。
白石区栄通にあるイタリア料理店「グロリア」。定休日だというのに、店の前は子どもの自転車であふれている。今日は月二回、ここが「にじ色こども食堂」になる日なのだ。夕方5時半、ボランティアがから揚げやサラダを盛り付けてテーブルへ運ぶと、店内はおいしい匂いとおしゃべりで、にぎやかになった。
子ども食堂という言葉を、地域のニュースなどで聞いたことがあるだろうか。特定の飲食店のことではなく、食事の提供を通じて地域の子どもを見守る活動のことだ。ボランティアグループやNPOが運営するケースが多く、札幌は全ての区に子ども食堂がある。そのひとつ「にじ色こども食堂」(略称:にじ食)を運営しているのが、豊平区のNPO「こどもの未来・にじ色プレイス」(にじプレ)だ。
代表の安田香織さんを訪ね、自宅の一階を利用した事務所へ行ってみた。仏間と二間続きのお茶の間が、安田さんとスタッフの打ち合わせ場所だ。地域の子どもたちに関わり始めたのは2015年8月。当時、東京の子ども食堂「気まぐれ八百屋 だんだん」の存在を知った安田さんは同年12月、にじ食をスタートさせた。今はイタリア料理店に場所提供を受け、月二回の運営を続けている。他にも、寄付を受けたお米や食品を子どものいる家庭へ届ける活動や、事務所を月に3~4回開放して放課後の居場所にする「学び舎」の活動も行なっている。
「当初は全然ダメでした。札幌では(子ども食堂は)なじみがなかった。だから実績をつくり、広めることに集中してきました」。2016年にNPO化したのも、行政との連携を進めるためだ。「取材もできるだけ受けています。目立つと時にはSNS上で叩かれることもありますが、それは私たち大人に対してであって、子どもたち自身が攻撃されるわけじゃない。とにかく知っていただくことなんです」。
HTBはにじ色こども食堂を1年間に渡って取材し、HTBノンフィクション「ごはんだよ!」というタイトルで、2018年に番組として放送した。現在この番組は、インターネット上の「HTBオンデマンド」で無料で見ることができる。※HTBオンデマンドを見るにはユーザー登録無料が必要です。
安田さんの本職はヨガのインストラクターだ。にじプレの活動を始めたころは自分も子育て中だったという。それだけで充実した日々にも思える安田さんを突き動かす思いとは何なのだろう。「きっかけは、ある子どもとの交流でした」。二十代の頃から差別や偏見に関心があった安田さんは子育て中にヨガを学び、ヨガを通じて福祉施設でボランティアをしたり、児童擁護施設の子どもに文通で実の支援をする「心の里親会」の活動にも参加していた。「私が文通した子は、当時小学4年生でした。交流を続けるうちに、地域にはまだ、声を上げられずに虐待や貧困で苦しむ子どもがいると気づきました。だったら、その子たちの声を聴けるコミュニティをつくりたいと思ったんです」。文通していた子は今、高校生。安田さんが活動のことを相談したり愚痴を言える、大事な存在になっている。
安田さんを見ていて、もうひとつ勇気のもとがあることに気づいた。それは「子どもの問題は、その地域の問題」という考え方だ。そこに周囲の大人たちも巻き込まれていく。今年4月から「にじ食」に場所を提供するグロリアの店主、西田宣(ひろむ)さんもその1人だ。「飲食業を営んでいて、地域に何かお返しがしたいと思っていました。でも調理ボランティアさんの仕事に手は出さないようにしています」と言う、にじプレの協力者だ。その西田さんが今日は特別に料理を担当し、窯焼きのピッツァやパスタに腕をふるっている。「どんどんテーブルに並べてあげて。いくらでも焼けるから」。ぶっきらぼうにそう言った背中が、どこか嬉しそうだ。
にじ色こども食堂に1年間に渡り密着した取材をしたのは、HTBの森さやかアナウンサーと、三戸史雄力メラマン。今もこの食堂に関する取材があれば出向<。この日のイベントにも取材に訪れていた。
にじ色こども食堂代表の安田香織さん。「ボランティアはできる人がすればいい。個人レベルで考え方の合う方が続けてくださるのだと思います。道庁の職員で仕事帰りに子ども食堂を手伝ってくれる人、他の区からきてくれる人、いろいろな人が関わってくれています」
ヨガの世界では、何を食べるかよりどんな思いで食べるかという考え方があるそうだ。たとえ簡素な食事でも、誰かと食べれば心が満ちる。にじプレの企画広報担当の太田かよさんは、「何かしてあげるのでなく、ただ一緒に居ること。それをここで学んだ」と話してくれた。食事のひととき寄り添うことは、その声を聞く第一歩になる。「ここに来ることができる子は、まだ大丈夫」と安田さんは言う。「でも、虐待が起きるような場合、子どものケアだけでは足りない。どうやって、煮詰まった親たちがふと相談できる場にしていくか。今はそれをすごく考えています」。
にじ食の日、お店は子どもたちの言葉にならない満足や安心で充たされていた。食卓を囲む子どもたちがいて、支える大人たちがいる。そのことが、互いを元気づけている。新しくもあり懐かしくもあるこの関係こそ、地域を守る力だ。そう強く感じた。(文・深江園子/写真・吉村卓也)
NPO法人 子どもの未来・にじ色プレイス
札幌市豊平区月寒東3条7丁目4-8
TEL 090-9439-3748
http://kodomoshokudou.net/
朝日新聞の過去の記事によれば、子ども食堂とは、地域の大人が子どもに 無料や安価で食事を提供する民間の取り組み。このような活動は古くからあるが、「子ども食堂」という名前が使われるようになったのは2012年頃からだという。最近は子どもたちだけではなく、地域のすべての人たちのために行っているものが多く、今回紹介する「にじ色こども食堂」もそのーつ。北海道のみならず、全国にも多くの「子ども食堂」や「地域食堂」がある。
朝日新聞の過去記事検索機能を利用して「子ども食堂」に関する情報を広く深く知ることができる。※一部の記事は有料読者限定のものがあります。
今月の投稿塾のテーマ「ごはんは誰と?」には多くのコメントをいただきました。家族と、夫婦で、ひとりで、孫と、ペットと…。かつてはにぎやかだった食卓が、歳を重ねると共にこじんまりとしたものに、あるいはひとりの食卓に変わったという方も多くいらっしゃいました。取材で訪れた「にじ色こども食堂」、小学生がいる食卓ってこんなににぎやかだったけ、と昔のことを思い出しました。ボランティアも若かったり高齢だったりさまざま。子どもたちが地域の大人たちと自然と言葉を交わしているのを見ると、こちらも幸せな気持ちになりました。多くの子ども食堂や地域食堂は誰にでも開かれています。利用や参加についての詳細は主催者にお問い合わせください。
ここからは特集に関連して会員の皆さんからよせられたコメントをご紹介します。
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