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>HOME >特集一覧 >VOL184「職人が受け継ぐ、小樽。」
特集「職人が受け継ぐ、小樽。」の表紙の写真です

「職人の町」小樽、伝え続ける。

松田有未さんの作品


第22回全国印章技術大競技会、彫刻ゴム印密刻の部で銅賞を受賞した松田有未さんの作品。彫りの繊細さがわかるようにつまようじを置いてみた。
「集中力が欠かせないので、喋ったり聞いたりしながらは彫れません。一度座って集中できるのは日に4~5時間。この鳳凰は会社を辞めた時期に4日間で彫ったもので、気づいたら日が暮れていた日もありました」

「やっぱり彫るのが好きなんだね」

  JR小樽駅を背に、運河方向へ歩いて3分ほどの梁川商店街。昔はさぞ賑やかだったに違いない一角にある「松田印判店」には、手彫り印章の職人が二人いる。2代目店主の松田和久さんと有未(ゆみ)さんの父娘だ。実は数年前まで、和久さんには後継者がいなかった、というより求めていなかった。「そもそも昭和45年頃、私が継ぐと言った時だって、父は反対しました。時代に合わなくなると考えたんでしょう」と和久さん。しかし有未さんは、いくつもの偶然を引き寄せるようにして職人の道に進んだ。

 小樽より首都圏がいいと進学した防衛大学校から自衛官になった有未さんは、退官後に東京で会社員をしていた。ある時、会社の昼休みにテレビを見ていると、小樽ロケの中で印鑑を彫る父の姿が放送された。「一緒に見ていた同僚に、すごい仕事だねと言われて嬉しかった。私自身も家業を見直す機会になりました」。会社員の夫が家業というものを大切に捉えてくれたことも、有未さんの背中を押した。そして2015年、全国唯一の印章高等職業訓練校へ入学。幸運にも同校が横浜にあったため、働きながら毎週土日2年間の専科を修了。月一回の研究科には今も在籍中だ。書の知識から木口(こぐち、木彫の印鑑)、ゴム印といった実技まで、印鑑彫刻の基礎を学んだ。昨年秋、夫婦で小樽へ移住を決め、夫も札幌に職を得た。有未さんは今、和久さんの下で修業中だ。印章彫刻技能士1級を目指して研鑽も続けている。

彫刻刀


彫刻刀もさまざまな種類がある。ゴム印用は刃が大きく薄くて鋭利。木口(実印等)の仕上げには先が鋭くとがったものを使う。もちろん彫刻刀は自分で研ぐ。

彫刻刀


木口用の彫刻刀は3方に刃がついている。細い線を残していく作業は見ている方がはらはらする。

この先も続けるつもりで

 「娘が帰ってきて、この先も店を続けるつもりで物事を考え始めました」と和久さんは言う。その表情から自然に嬉しさが溢れてくる。「心配は、あらゆる会合に顔を出すので疲れ過ぎないかという事かな」。

 バイタリティ溢れる有未さんは「小樽職人の会」事務局の父を手伝い、体験プログラムの講師役も始めたという。今年10月に「小樽まちゼミ」という催しで篆刻(てんこく)体験教室を開くと、満席どころか40人以上が入れないほどの人気。「斜陽業界と言われる印章業界だけど、興味のある人はまだたくさんいるだなとヒントを得た」という。嬉しいことに、まちゼミ受講生からは「イベントをきっかけに初めて小樽のまちを歩いた」と言う声も上がった。告知を見て市内の商店から注文が来るなど、仕事への手応えも有難い。「これからも工夫して、本業を生かせるイベントをしたい」と有未さんは考えている。

上手なハンコの押し方

松田有未さん、松田和久さん


「確か7~8年前に家業を継ぎたいと言った時は、全力で否定されたような(笑)」(左:松田有未さん)。「実際に継いでもらえるのがわかると、すっかり安心してしまいましたね。うれしいもんです」(松田和久さん)

きれいにはんこを押すコツ。松田印判店の松田和久さんに聞きました。

●押す紙の下には、捺印マットのようなものを敷く。

●はんこに朱肉やインクをつけるときは、ポンポンと軽く何回か叩くようにする。くれぐれも強く押さないように。強く押すとはんの溝に朱肉やインクがたまって汚れやにじみの原因になるとともにはんこの劣化にもつながる。

●はんこを紙に垂直に押しつけ、手でぐっと圧力をかける。その後、「の」の字を書くイメージでまんべんなく押さえる。はんこが動いているのがわからないくらいの加減で。

●使い終ったはんこの余分な朱肉やインクはすぐにふき取る。朱肉やインクが残っていると、ほこりがつきやすくなる。ティッシュは繊維が残るので、和手ぬぐいのようなものがベスト。

松田印判店

小樽市稲穂3丁目16-16 TEL0134-22-8767
営業時間 9:00〜18:00 休業日:毎週日曜日

できあがったねりきり


できあがったねりきりは熱いうちにすばやく濾(こ)す。力のいる作業だ。

「上生菓子にはニーズが」

 小樽には「朝生」と呼ばれる餅菓子の専門店が多い。コンビニなどない時代、港や運河の荷役の人々が買い求めたのが始まりと言われ、どれもおいしくて人気がある。一方、昭和20年代までさかのぼると、小樽は和菓子職人の名人、菓聖と呼ばれた高山良介氏がいたことから全道、いや東日本各地まで、本格的な和菓子職人を輩出するまちだった。その高山名人の下で修業したのが、牧田稔さん(故人)だ。昭和40年、入船町に「江戸風半生菓子 菓子処つくし牧田」として干菓子の卸業で創業。昭和63年に花園町の現在地に移転して、小売と注文菓子の店となった。

菓子型


菓子型は400個以上。壊れた型を修理する専門家は札幌にいる。先代の父が集めた型や、札幌でオーダーした手彫りの型など、今も使われている菓子型たち。

ねりきり


ねりきりには色をつけ、さまざまな形の上生菓子となっていく。分業体制で、いろいろな作業が同時に進んでいく。

父の味を受け継ぐ

 現在の店主は2代目の牧田浩司さん。牧田さんのお母さんと奥さん、パートの女性も加わって6〜7人で製造販売を行う、分業制の工房だ。牧田さんが最も大切にするのは、上生菓子の材料になるあんの味。つぶあん、いもあんなどは原料から自家製。こしあんの甘さの調整も父の配合を守っている。

 分業制ならではの強みもある。ひとつは寒天でつくる錦玉などの干菓子で、細かな手間仕事は女性たちが担当するからたくさんの種類が揃う。もう一つは小樽のゆるキャラ「運がっぱ」や動物のカワイイ系ねりきりで、女性のパートさんたちが作ってマルシェイベントなどで完売する人気商品に育っている。

 松田さんと同様、牧田さんも「小樽職人の会」の体験プログラムに参加しているが、「実は修学旅行以外にも札幌市内の学校や外国人観光客からも問い合わせが多く、年間1000人ほどが体験されます」と、もはや仕事の一部門に育っている。

つくし牧田の上生菓子


つくし牧田の上生菓子。左上から時計周りに、かのこ、小菊(ねりきり)、柿(ようかん巻き)、秋菊(ねりきり)

和菓子職人を目指す


「地元の高校の体験授業を引き受けたところ、生徒の一人が和菓子職人になりたいと。それが彼なんです。造形のセンスが抜群です」と牧田さん。その高校生は専門学校に進み、和菓子職人を目指す。週に一回、札幌から修業に訪れる。「向こうが真剣なんだもの、そりゃ本気で教えますよ」と言って、師弟の笑顔が弾けた。

地道な手仕事の価値
ふたたび

 面白いことに、2店の職人の見方はよく似通っている。「印判専門店が少なくなっています。それだけにやめられませんし、むしろきちんと商売がやっていけるのではないかと思っています」(有未さん)。「上生菓子をできる職人が減っているのも、うちの忙しさの一因。だから、今は上生菓子専門店をやれば成立すると思いますよ」(牧田さん)。かつての小樽の繁栄を背景に花開いた職人たちの手仕事。町の景色が変わっても、根強く静かに、これからも生き続けるだろう。

◆ 和菓子処 つくし牧田

小樽市花園5丁目7−2
TEL0134-27-0813
営業時間 9:00〜17:00
休業日:毎週日曜日 および 1月1日

(文・深江園子/写真・吉村卓也)

小樽職人の会の体験プログラム

 1992(平成4)年、小樽で大漁旗やのぼりを作っていた「旗イトウ」の当時の社長、伊藤一郎さんの呼びかけによって「小樽職人の会」が作られ、「職人の町」だった小樽を受け継いでいこうという動きが始まった。設立当時から、佐々木徹さん(花火職人)が組頭(会長)を務める。全国の職人たちと交流するなど当初の活動は多岐に渡ったが、活動の柱として東奔西走していた伊藤さんが2015年に亡くなったこと、職人達の数が減っていることから、「かつての勢いはない」と佐々木さん。しかし、数年前に始めた「職人と作る」体験学習プログラムが修学旅行生や観光客に人気だ。職人の会の会員が以下12のプログラムを行っている。

プログラム名(主催者/職人の技術)

  • 白磁マグネット絵付け(チャイナペイント アトリエ エムローズ/白磁絵付け)
  • モザイクキャンドル作り(フジ本 芳川商店/ろうそく製造)
  • 鋳物で作る錫の飾りのキーホルダー(小樽木型/鋳造)
  • 木工クラフト オリジナルフォトフレーム(匠伽藍/建具・木工)
  • 伝統が見える家紋の刷り込み(千葉忠紋店/家紋)
  • 「創意・工夫」純銀の指輪づくり(小樽純銀細工 東雲工房/銀細工)
  • 伝統の上生菓子づくり(和菓子処 つくし牧田/和菓子製造)
  • 美しい輝きの金箔貼りの箸づくり(藤本仏壇製作所/金箔貼り)
  • 落款彫刻[篆刻](松田印判店/印判製作)
  • 洗い染の技 染め物体験(結城屋和服洗染工場/和服の染め、洗い)
  • ステンドグラスのオーナメント(ステンドグラス ヴィラピエス/ガラス細工)
  • 竹で作るコースター(山根竹藍/別府竹細工)

問い合わせは、体験学習事業部 (松田印判店内)TEL.0134-33-2339 FAX. 0134-64-1003

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『職人の技』

ここからは特集に関連して会員の皆さんからよせられたコメントをご紹介します。
面白かったコメント、私も同じ!と思ったコメントは、ぜひいいね!を押してください。

1ページ

私は徳島県鳴門市の出身です。鳴門市大麻町という所は、【大谷焼】が有名で、先日子供と一緒に体験に行ってきました。5才の息子が電動ろくろに初挑戦したにもかかわらず、職人さんの補佐のおかげで、まるで売り物のような湯のみを作ることが出来ました。柄のデザインは体験でつけさせて頂き、世界にオンリーワンの作品のできあがり。カラークレパスでお皿に絵付けもして大満足。素敵な職人さんの技に見惚れながら良い経験でした。

kokomiさん

ガンプラのペイントを見ると、匠の技だなと思います。単なる色付けではなく、戦闘で汚れ・傷ついた姿にしっかりなっている。

島人の高良さん

結婚式もかねて行った新婚旅行。はじめての海外旅行で不安だらけでしたが、宿泊したホテルが素敵すぎました。毎日出かけて帰ってくると、真っ白なバスタオルとピンクの花びらで作られた動物たち。白鳥、像などを立体的にタオルで作ってあって、思わず魅力されました。おかげで、とてもステキな新婚旅行になりました。

うさびっちさん

先日イベントで似顔絵を書いてもらいました。パッと見ただけでスラスラ書き始め一分ぐらいで下書きが終わりました。その早さにもビックリしましたがだんだんと色が入り影ができ髪の毛のツヤがでて完成した絵は、特徴を捉えてそっくりに仕上がりました。可愛く仕上がってるんですが忠実に再現されていて完成度が高く大満足でとても良い記念になりました。あとから見ても笑っちゃうくらいそっくりで職人技だなぁと思いました。

ひまわりあんちゃんさん

イラストレーターの先生が描いたワンちゃんの絵がとても素晴らしかった。

レイチェルさん

益子焼というのが住んでる栃木県にはあって陶工の技って素晴らしい

よしぼうさん

チカホを歩いている時にガラス越しに見た飴職人さん、飴を伸ばして伸ばして、切って切って、見入ってしまいました。

かつをさん

数年前に閉店されたのですが、円山近くに革製品専門店があり、一人の職人、「親方」がオーダーを受けてから製作されていました。革の匂いがあふれる店内の親方に真剣な眼差し、ミシンの音、などが今でも職人技として忘れることができません。

さとり-さん

バスの切り返しです。狭い道路、一歩間違えれば崖から転落という厳しい状況の中、ガイドの誘導があったとはいえ、アッサリと切り返した運転手に、乗客一同から拍手が起きました。これも匠の技でしょう。

三連星さん

沖縄の琉球ガラスのコップ

あんずさん

美濃焼

チイチイ江森さん

ウィスキーですね。ニッカのプレミアムの限定品を呑んでみたいですね。芳醇さを体験したですね

ごろうさん

有松染

キンキン江森さん

たたら製鉄から鉄を作りそれから刃物などにする職人です。
砂鉄が鉄になり道具に変わるのがすごいと思います。

ノブさん

包丁

satoさん

2ページ

実家近くにあるお米屋さんです。
知識が凄くて、お爺ちゃんの代から我が家の好みのブレンド米を作ってくれます。

はたぼさん

子供の頃、コマ作りの職人が、家の近くにいました。子供が、注文する通りに、その場で木材を、機械で回転させ、削って完成させます。当時は、噂を聞きつけた子供や親達で、行列が、店の外まで、出来ていました。

ふじゃれさん

織物の先生の織ったストールが素晴らしい

rieさん

刀鍛冶 堀井さん
人なり、仕事に対する厳しさ、仕事を離れたときに接する暖かさ。
凜とした雰囲気に緊張します。

将のパパさん

楽器製造員の方々。私は学生の頃、吹奏楽部に所属していたので題名のない音楽会を見るのが習慣になっています。最近見た回では、楽器職人特集で楽器の製造状況が映し出されており、トロンボーンという楽器一つを作るのに約50人の職人の手によって作られていることを知りました。
繊細な作業をみて改めて凄いなぁと思いました。

キューさん

農家の皆さんの野菜作りはまさに職人の技

かわプラザ大好きさん

札幌杢幸舎の家具職人さんたち

ナンゴウヨンさん

銘刀。その前に立つと引き込まれそうな迫力と神秘的美しさが有ります。

まあくんさん

近所のレストランのチーフの方の接客に職人技を感じました。手の技だけでなく、素晴らしか人を感動させる接客をされる方というのは、もはや職人技で、素晴らしい技術だと思っております。いつも暖かな笑顔で、実家のように向かい入れてくださり、気遣いも素敵な接客業の鏡のような接客をされます。そのような方に出会うと、一夜が特別な彩りを持ってきます。いつも感動しています。

もちもちさん

浅草の河童橋商店街にある、ロウで作った食品サンプル。ホンモノと間違うほど上手すぎてホレボレします!

ましゃゆきさん

職場に「このくらいの棚が欲しい」「このくらいの箱が欲しい」と言うと、ぴったりのものを作ってくれる人がいます。それも要らなくなったものを再利用して。もちろんそういう職人さんではありません。普通の主婦です。その人のアイデアにいつも感心させられています。

チョッパーさん

私が16年の人生で出会った職人技は沢山ありますが、1番印象深いのは祖母の漬け物です。祖母は毎年冬の時期になると赤かぶの漬け物を作ります。それはとても美味しく、それを食べると冬が来たんだなと実感します。また、祖母の漬け物は母の漬け物とは少し違った味で、母の漬け物も美味しいですが、やっぱり祖母の漬け物が1番だと思います。その味を作れるのは世界のどこを探しても祖母だけです。私が出会った最高の職人技です。

ゆきさん

豊平峡温泉のナン職人さんですね!実際にインドに行ったことはないのですが、見事な手さばきでナンを作っていきます。

Pえにさん

かなり前ですが、和室の障子の張替えを専門の業者にお願いしたところ見事にきれいに仕上げてくれました。仕事も手早く、みていて大変心地よかったです。年齢もかなり上の方でしたが、長年やってつちかわれた技だと感動しました。

たかさん

北海道のジュエリー職人の職人力展が感動した

aunさん

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