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>HOME >特集一覧 >VOL.195「北国のシュトレンは、待つ心を知っている。」(2020年11月16日)
特集「北国のシュトレンは、待つ心を知っている。」の表紙の写真です

特集Vol.195
『北国のシュトレンは、待つ心を知っている。』

公開:2020年11月16日 ※記事の内容は取材当時のものです。
シュトーレンショコラ
左から、「シュトーレンショコラ」(ボン・ヴィバン)、「バイナハッテンシュトレン」(ビーネ・マヤ)、「シュトーレン」(スイートハーツナンポ)

クリスマスのパン菓子と北海道

 シュトレンは、リッチな配合の発酵生地にドライフルーツなどを入れて焼き、外側をバターと砂糖で覆った甘いパン菓子だ。主材料はバター、砂糖、小麦粉、牛乳、ドライフルーツ、アーモンドと砂糖をすり合わせたマジパンなど。そこにモーン(ケシの実)を入れるとモーンシュトレンなどと、その他の材料で名前が変わる。
 発祥はドイツのザクセン州と言われ、オランダ、オーストリア、フランス北部などで食べる。この贅沢なパン菓子が宗教上の暦と結びつき、クリストシュトレンと呼ばれるものはキリスト誕生を待つアドベント(12月24日までのひと月弱の期間)に食されるようになった。日曜日ごとにクランツ(リースを寝かせたような輪飾り)のろうそくに一本ずつ火を灯し、4本灯ると嬉しいクリスマス。そんな食卓にあるのがクリストシュトレンだ。スライスして少しずつ味の変化を楽しむ食べ方も、日持ちのする冬のお菓子らしさがある。
 ドイツと似た気候風土の北海道にも、シュトレンを大切に作る人がいる。北海道の人は、冬の厳しさを体感で知っている。いくら便利な時代になっても様々な冬支度をし、夏の恵みを蓄えて冬を豊かに過ごすことが無意識の中にあるように思う。筆者の記憶では1977年創業の札幌「ブルクベーカリー」、1987年創業の七飯町「こなひき小屋」(現在は二代目)などが早く、2000年前後には道内のフランス菓子店で買うことができた。今では北海道でシュトレンを作るパン店、菓子店は数え切れないほどだが、その中にドイツ人マイスターに学んだスイス・ドイツ菓子店「ビーネ・マヤ」(札幌市白石区)がある。

「シュトレンは、配合表だけ貰っても同じには作れないと思います。気温や湿度で微妙に変わる分量を調整して生地をつくると、まとまりがあって軽さもある食感が生まれます」
「シュトレンは、配合表だけ貰っても同じには作れないと思います。気温や湿度で微妙に変わる分量を調整して生地をつくると、まとまりがあって軽さもある食感が生まれます」
あらかじめバターを熱してアクを取り除き、焼き上がりの表面に塗ったら、右ページのようにグラニュー糖をまぶすのが岩川さんの方法。酸化しにくく最後までおいしく食べられる。
あらかじめバターを熱してアクを取り除き、焼き上がりの表面に塗ったら、右ページのようにグラニュー糖をまぶすのが岩川さんの方法。酸化しにくく最後までおいしく食べられる。

マイスターから受け継ぐシュトレン

 10月下旬、ビーネ・マヤの店先にスパイスの香りが漂い始める。スイスやドイツのお菓子は生地のおいしさが特徴で、生地にほんのり香るスパイスが、また欲しくなると言われる所以だ。店主の岩川芳久さんは札幌の洋菓子店で働いた後、1981年に上京。紹介された先が、かつて吉祥寺にあったスイス・ドイツ菓子の店「ゴッツェ」だった。渡欧から戻った職人たちの開業ラッシュで、フランス菓子の勢いが目立った時期だ。
 「並んだケーキを見て、うわぁ、地味だなと…(笑)。でも隣のショーケースに30種類のチョコレートがきれいに並んでいて、これはすごい!と思いました」。
 岩川さんはそれから3年間、ベルリン出身のマイスター、ウォルフガング・ポール・ゴッツェ氏(故人)の下で修業した。店は伸び盛りで忙しく、仕事は厳しかった。特にいけないのは食材やお菓子を無駄にすることで、見つかろうものなら雷が落ちる。実際、お店は売り切れ閉店が多く、商品を捨てることはほとんどなかったという。

9月から漬け込んだレーズンにオレンジピール、レモンピールなどを合わせて生地に入れる。
9月から漬け込んだレーズンにオレンジピール、レモンピールなどを合わせて生地に入れる。
菓子型は職人の財産。師匠譲りのレシピと型で、 店にはスイスやドイツの焼菓子が増えた。
菓子型は職人の財産。師匠譲りのレシピと型で、 店にはスイスやドイツの焼菓子が増えた。

 そして厨房には、材料作りという地味な仕事が膨大にあった。粉砕機でアーモンドやヘーゼルナッツを挽き、飴掛けしたナッツと砂糖をなめらかになるまで機械で練り続けるといった作業だ。「買える材料を、なぜわざわざ作るんだ!と憤っていたけど、後でこれが宝物なんだなってわかりました」と岩川さんは笑う。厳しいばかりではない。師匠は自分が若い頃の失敗談を語り、ドイツパンを焼いて賄いに出して現地の味を教えてくれた。
 そして10月のある日、「シュトレンを作ります、私が教えますから一緒にやりなさい」と言われる。最初の年は叱られるばかり。2年目は段取りを覚えた。毎日70本製造し、1500本を売り切っていた。当時まだなじみのないシュトレンの食べ方やおいしさを知ってもらうため、店では試食を出していた。ゴッツェさんは「大きいものほどおいしいから」と、大小あるうちの大きいほうをスライスしていた。

おいしい食べ方は、「実は味の変化は楽しみの一つですが、長く寝かせるほどいいというのは誤解。よくできたシュトレンは、2、3日後に食べてもおいしいもの」と岩川さん。
おいしい食べ方は、「実は味の変化は楽しみの一つですが、長く寝かせるほどいいというのは誤解。よくできたシュトレンは、2、3日後に食べてもおいしいもの」と岩川さん。
左写真のようにグラニュー糖をまぶして十分冷めたシュトレンに、最後に粉糖をかける。外から中まで一体感のある、岩川さんのシュトレンの完成だ。今年は2種類、計600本ほど焼く。
左写真のようにグラニュー糖をまぶして十分冷めたシュトレンに、最後に粉糖をかける。外から中まで一体感のある、岩川さんのシュトレンの完成だ。今年は2種類、計600本ほど焼く。


 その後、岩川さんは家族の事情で帰郷。88年にはスイスとドイツに念願の研修にも行き、2001年に今の店を開いた。ゴッツェさんは「シュトレンはおいしいのを作ってね」と言い、岩川さんは毎年師匠にシュトレンを送っていた。「食べた感想を頂いて、ゴッツェさんのお店のシュトレンも送ってくれました。それを食べて、やっぱり美味しいなと気持ちを新たにしていましたね」(岩川さん)。砂糖とバターが多いシュトレン生地はイーストが働きにくくデリケートだ。例えば、ラム酒で戻したレーズンは、生地の食感が変わらない程度に水分を調整する。それをオーブンの上で温めておくのは発酵生地を冷やさないためだ。岩川さんはドライイーストを使うが、本来なら他の材料と一緒に直接ミキサーに入れて使うところを、いったん水と小麦粉を少量混ぜてイーストを目覚めさせ、それから生地に加えるのが習慣だ。高価な材料を惜しみなく使う緊張感もあるのだろう。丁寧さが味の一体感と、しっとり、ほろりとした食感を生む。
 「ゴッツェさんは2016年に亡くなりましたが、今でも毎年、奥さんにシュトレンをお送りしています」。ビーネ・マヤには、ゴッツェさんから贈られた菓子型を使ったお菓子が今も並んでいる。
 クリスマスが古代宗教の冬至に由来すると言われるのは、人間が原始から「太陽の復活を待つ」ことをしていたからではないだろうか。ならばクリスマスのシュトレンは「待つ心」を含んだ食べ物に思える。ほの暗い朝にも小さな楽しみを見つけ、長い冬に春を待つ。北海道のシュトレンを食べてみれば、その心持ちが少し、伝わるかもしれない。
(文:深江園子、写真:吉村卓也)

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ここからは特集に関連して会員の皆さんからよせられたコメントをご紹介します。

投稿テーマ
『もういくつ寝ると、クリスマス!』
え、もうそんな時期?!
ちょっと気が早いけど、あっという間にクリスマスがやってきますよ〜。
もう雪虫も飛んでるし。ケーキの予約も始まったし。
宗教的な行事から、すっかり日本の年中行事化してしまたクリスマスですねぇ。
街にあかりが灯り出し、クリスマスソングが流れ、店頭のディスプレーも一赤と緑で、一気にクリスマスの気分に。
クリスマスイベントはコロナの影響でなくなってしまったものも多いですが、寒くなり、日も短くなるこの頃、楽しいクリスマス気分をゆったりと味わいたいものです。雪も降り始めますが、ホワイトクリスマスを楽しめるのは北海道の特権ですよ!
クリスマス、どんな思い出がありますか?
今年はどんなクリスマスを楽しみますか?おいしいものを食べますか?
クリスマスにまつわるお話、どうぞお聞かせください!



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クリスマスは毎年チキンとケーキを食べています!
ケーキは家族が毎年違うお店で買ってきてくれるので今年はどんなケーキなのか楽しみです!(このあーさん)

会社で、家族のある方などはどんどん帰宅する中、独り身の私は終電間際まで残業ということが結構ありました。(のるんさん)

クリスマスケーキを作ります。
今年も作りたいです。(ひーたんゆうゆうさん)

うちの近くにこの時期、イルミネーションがとてもきれいな図書館が有ります。今年は第一子が生まれ感慨深いクリスマスになりそうです(まるさん)

今年のクリスマスはペットの猫たちを仮装させてクリスマスパーティーします(みちさん)

今年は家族だけで家でクリスマスを過ごそうと思います。(kさん)

独身には関係有りません(ronさん)

クリスマスと誕生日が重なって何の祝いをしているかわからない頃があった。今は別々に祝ってもらっている。(Fe04さん)

家族とケーキを囲んで楽しく過ごしたいです!(パンナさん)

家族で三密対策(さっちゃん117さん)

子供のころ、友人たちはクリスマスイブの24日にサンタさんが来ていましたが、私の家は25日に来ていたので、なんで時差があるのかなぁと思っていました。でも一年で一番ワクワクする時期でした。(まもるさん)

クリスマスの思い出は特に無し。(キャットさん)

家族で過ごします(忍者さん)

子供も孫も家にいないので40年ほど祝ったこともケーキを当日食べません。(やまとん883さん)

クリスマスには毎年ローストチキン、ローストビーフ等を作っていましたが、今年は私が膵炎になってしまい、作ってもほとんど食べれないのでどうしようか迷っています。子供たちはクリスマスディナーを楽しみにしているようなので、結局は作ることになるんでしょうが、食べたくても食べれない辛さと戦うことになりそうです。(りこさん)

自宅で夫婦だけで過ごす(しげT3さん)

昭和30年生まれなので片田舎育ちなのでチキンもケーキもありませんでした。バタークリームのケーキから生クリームのケーキやアイスクリームのケーキを初めて食べたときの驚きは感動的でした。(不良中年さん)

子供の頃、サンタさんの存在が気になり…
朝まで起きて確かめようと頑張っていました。結局、途中で寝てしまい翌朝プレゼントを見て
来年こそ!サンタさんに会うぞ!と思ったものです。(*´∀`*)(ガムボールさん)

子供のころ毎年、クリスマスは父が買って帰るケーキを家族で食べていました。父は仕事が終わって21時ごろに帰ってくるのですが、それまで家族で待っていました。いい思い出です。(タクマさん)

今年のクリスマスは家族だけで自宅で楽しみたいと思っています。(かえるさんさん)

 毎年この時期、塀にサンタクロースやキラキラ星のイルミネーションを飾り、孫たちが歓声を上げてくれます。近所の子供たちも楽しんでくれ、夕方が待ち遠しくなりますね。これからしばらくは華やかな気分で冬を乗り切れること間違いなし…。少々早いのですが、Merry Christmas !
(Isshunさん)

クリスマスは何もしませんがケーキだけは食べます。(暇なサラリーマンさん)

今年のクリスマスは外食は避けようと思っていますので、豪華なデリバリーをしたいと思っています。(オレンジロードさん)

今年は、1歳の子供とクリスマス!
楽しみです。(リューザカンパニーさん)

今年は本格的なサンタになって、家族を驚かせたいです!なんだかんだとあった今年ですが、最後は大笑いして楽しみたい。(ささなこさん)

娘達が小学生ぐらいまでは、ワイワイとしたイベントでしたが、今では、ホント小さなツリー点滅させながら、皆で鍋突っついて、チキン、ケーキを味わうというプチ普通の日になっています。(kouichiさん)

あと、1ヶ月ちょいじゃね??(ゆうやんさん)

クリスマスは家族で毎年過ごしますが今年は両親夫婦2人で水入らずの時間を過ごさせようと気をつかう事にしました笑(亜梨さん)

小学4年生の息子がいます。
もうそろそろサンタさんの存在の有無に気づく年齢だろうと、「今年のクリスマスプレゼント、サンタさんに何をお願いするの?」と冗談のつもりで聞いたら「今年はコロナだから、サンタさんに手紙じゃ不衛生だからメールにする。ママ、サンタさんのメールアドレスググっておいてよ」と真顔で言われました・・・・・サンタ用のメールアカウントを取得すべきか悩んでます。(けりんりんさん)

子どもの頃は、欲しい物のプレゼントに大喜びをしていました。(しろねぎさん)

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