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特集「北海道、小さな映画館の物語」の表紙の写真です

特集Vol.200
『北海道、小さな映画館の物語』

公開:2021年4月19日 ※記事の内容は取材当時のものです。

この町で、小さな銀幕を守りたい

シアターキノ
「少しでも多くの映画を紹介したいけれど、扱う本数が増えるとひろみの仕事も増えてしまう」と話すシアターキノの中島洋さん(左)に対し、「映画の魅力を形にするのは楽しい」とひろみさん(右)。 写真右:尾道三部作などで知られる故・大林宣彦監督とは親交が厚く、サインも随所にあるシアターキノ。4月16、17日には一周忌記念特別上映を行った。

シアターキノ(札幌)
文化の“場”を守り続ける

 映画ポスターがずらりと並ぶ廊下の先、ドアを開けると、壁一面の直筆サインやにぎやかなチラシが目に飛び込む。札幌・狸小路商店街のビル2階。1992年にわずか29席で始まった「シアターキノ」は、北海道で最初に市民出資で誕生したミニシアターだ。98年に現在地に移転し、来年30周年を迎える。

 代表の中島洋さんと支配人のひろみさんはご夫婦。映画好きからみれば何ともうらやましいが、「映画館のオーナーが夢だったわけではありません」と洋さんは話す。1980年代、北海道初のフリースペースや映像ギャラリーなどを主宰してきた洋さんの原動力は「文化表現の“場”を作りたい」という想い。シアターキノ立ち上げもその延長線で、札幌の個性派映画館が幾つも閉館するのを受けての決断だった。

デジタル映写機
シアターキノのB館にある2台のフィルム映写機はいつでも動かせるよう毎朝メンテナンスしているという。右端はすっかり主流となったデジタル映写機。

 市民から広く資金を集める手法は、今ではクラウドファンディングとして定着したが、もちろん開館当時はない。洋さんは「金がない私たちが友人とアイデアを出し合って生まれた苦肉の策(笑)。地域のネットワークがあったから出来た」と振り返る。1人10万円という呼び掛けに応じたのは103人。移転時には410人の市民株主を得て、2スクリーン体制となって現在に至る。

  監督らゲストを招いたトークや映画講座などさまざまな企画に取り組んできた2人だが、「最も大切なのは毎日上映する一本一本の映画。世界の多様な作品を上映する方針は変わりません」と語る。プログラム選びのため、夫婦で手分けして観る作品数はなんと年間約400本。「休日は必死に5本くらい観ます」と洋さんは笑うものの、シアターキノで上映する年間約220本のうち、7割はシネコンが選ばない=儲からない作品とか。「やせ我慢をしてでもミニシアターの役割を果たしたい」と力強い。一方、現場の実務を担うひろみさんは「スタッフと相談して映画を膨らませる作業は楽しい。特に作品に興味を持つ糸口となる展示は大事にしたい」と話す。30周年に向け、これからを生きる若者へのお薦め作品を映画人に聞く記念本の出版を計画中。「でも一番のミッションは、あり続けること」という洋さんの言葉に、ひろみさんは大きく頷いた。

シアターキノ
札幌市中央区南3条西6丁目 南3条グランドビル  2F tel. 011-231-9355

シネマアイリス(函館) 
佐藤泰志文学を市民と映画化

左)「明るい物語ではないけれど、心に傷を負ったり、今に満足できない人には救いになる」と佐藤文学の魅力を語るシネマアイリスの菅原和博さん。地域に根差した映画活動が評価され、2020年度北海道地域文化選奨に選ばれた。(右)「撮影すべきかギリギリまで悩んだが、函館の街の様子や脚本の仕上がりを受けて決断した」と菅原さんが話す最新作『草の響き』の募金箱。注目のキャスティングはまもなく発表される予定だ。

 シアターキノ開館の4年後、同じ手法で函館に誕生したのが市民映画館「シネマアイリス」だ。五稜郭の繁華街に佇むマンション1階の外観はこじんまりしているが、実は全国に名の知られたミニシアター。なぜなら館主の菅原和博さんは、函館出身の作家・佐藤泰志の小説を地元・函館で映画化したシリーズ『海炭市叙景』『そこのみにて光輝く』『オーバー・フェンス』『きみの鳥はうたえる』のプロデューサーでもあるからだ。

 20代から自主上映を続けてきた菅原さん。アカデミー賞などを獲得し、大きな話題となったラブ・ストーリー『ピアノ・レッスン』などで驚くほど動員する一方、市内の老舗劇場が閉館してしまい、「それなら自分たちで映画館を」と挑戦したのが始まりだ。問題は資金。「シアターキノの中島さんから『家一軒くらいの予算でできる』と聞いて盛り上がったんですが、実際は予想より掛かった。札幌と函館では相場が違いました」と笑う。

 ともあれ、半年で約470人から寄せられた700万円を元手に開館。ところが、「イベント上映と違って映画館は日常」。集客が振るわず、一年も経たないうちに経営は苦しくなる。転機は『タイタニック』。連日満席となり、「映画ファンに救われた。ミニシアター系以外を上映することに当時は葛藤もあったが、函館の事情に合わせ、大勢が楽しめる施設にしたいと思うようになった」という。以降はアイドル映画やアニメも取り入れ、客の要望で応援上映を開催したこともある。

 佐藤小説の映画化も、シネマアイリスのスタッフから作品集をプレゼントされたのがきっかけだ。「『海炭市叙景』の冒頭でガーンと衝撃を受け、映画になると直感した」。シネマアイリス開館時のように市民を巻き込んだ募金活動やロケ支援に奔走、見事完成させた1作目は国内外で高い評価を受けた。去年は佐藤の没後30年、今年はシネマアイリス25周年という節目の年で、特別な映画を企画していたが、コロナで中止に。ところが、疲弊する町を見るうち、「何かを生み出し、発信することに意味があるのでは」と悩んだ末、第5弾として『草の響き』のロケを敢行。シネマアイリスの自主制作として今秋公開予定で、「はからずもコロナ時代の心の在り方が反映されている。普遍的な夫婦愛を描く側面もあり、観客の感想が楽しみ」と期待を寄せる。

シネマアイリス
函館市本町22-11 グリーンエステートマンション 1F  tel. 0138-31-6761

シネマ・トーラス(苫小牧)
観た人のハートに残る作品を

シネマ・トーラス
「大変な時もあったけど、楽しい思いができれば十分だから後悔はしていない」と語るシネマ・トーラスの堀岡勇さん。自身の星座・おうし座を意味する英語「トーラス」は、思い入れのある故・高林陽一監督のシアター名にも由来するそう。 写真右:ロビーには観たい作品を投票できる掲示版がある。「上映決定!」のお知らせがリピーターの心をくすぐる。

 工業都市・苫小牧にも市民出資のミニシアターがある。「シネマ・トーラス」だ。ボウリング場1階、もとは郵便局のスペースを改装したロビーには、座り心地の良いソファー。「上映中」の手作り案内板といい、手書きの料金表といい、レトロな匂いが漂う。と言っても、オープンしたのは札幌、函館に次ぐ1998年である。

 ボランティアに助けられながら、映画館をほぼ一人で切り盛りするのは代表の堀岡勇さん。茨城出身で、10代の時、自作の8ミリ映画を持って北海道内を巡り自主上映し、小樽に住み着いたというユニークな経歴の持ち主である。結婚を機に白老に引っ越し、車で30分の苫小牧で自主上映グループを発足させたのは1984年のこと。翌年始めた映画祭が人気を集める中、シアターキノやシネマアイリスに刺激を受け、自前の映画館を構想。堀岡さんは「別に夢見ていたわけではないけど、やっぱりそういう世界に身を置いてみたかったんだろうな」と振り返る。けれど、当時のメンバーは反対。「仕方ないから一人で手を挙げたら新しい仲間ができ、結局一年で500万以上集まった」。

 2016年の『この世界の片隅に』まで、大入り記録のトップだったのが2000年の『エクソシスト ディレクターズ・カット版』と聞くと、「映画は水物。何が当たるか分からない」という言葉も納得だ。室蘭と伊達で出張上映もするが経営は厳しく、配給会社の都合でフィルムからデジタルへの転換を迫られた2013年には、再び市民から約700万円を集めて乗り切った。「面識のない方から、事故で亡くなった子どもの保険金を使ってほしいという申し出もあった。恩義を忘れずやっていきたい」と語る。

 地元ゆかりの映画人とも交流し、地域文化を盛り立て23年。「ハートに残る作品を上映し続けていれば、必ずリピーターができる」という言葉に実感がこもる。

シネマ・トーラス
苫小牧市本町2丁目1-11 苫小牧中央ボウル 1F tel. 0144-37-8182

大黒座(浦河)
道内最古のスクリーンを受け継ぐ

大黒座
芝居小屋を想起させる館内に立つ大黒座の三上雅弘さん。全国でも珍しい旭川家具の劇場用椅子を使用し、創業100周年の時には道北に住む夫婦の寄付で座面を張り替えた。 写真右:ポスターが足りない時は何枚も手描きするという妻・佳寿子さん。手にするのは『深夜食堂』の手製ポスターで、ネットで知った原作漫画家からお礼の色紙が届いたそうだ。

 さて、北海道の映画館を語る時に忘れてはならないのが、浦河の「大黒座」だろう。何しろ創業103年! 初代・三上辰蔵さんが1918年に建てた芝居小屋を起源に、辰蔵さんの娘・ヨネさん、彼女の息子・政義さんへと受け継がれ、今は政義さんの息子・雅弘さんが、妻・佳寿子さんと歴史あるスクリーンを守る。畳敷きだった客席を増改築した53年からは、220席のモダンな映画館として親しまれていたが、94年の道路拡幅工事に伴い解体。同年、48席のミニシアターに生まれ変わった。取り壊し直前には、名取裕子主演『結婚 佐藤・名取御両家篇』の舞台に選ばれ、故・政義さん、雅弘さん親子がエキストラ出演している。

 政義さんの時代に副業で始めたクリーニング店の収益で、映画館の赤字を穴埋めする日々。新作公開は大抵遅れ、ポスターがないことも。借金までして再オープンした理由を尋ねると、「やらないのが普通の判断だろうけど…映画館がなくなると困るでしょう」とさらり語る言葉に、4代目館主の矜持がにじむ。

 道内最古の映画館の灯を絶やすまいと、住民で作る応援組織「サポーターズクラブ」が公式サイトを運営し、年一度の「大黒座まつり」を共催。「まだあった!と喜ばれたり、初めてここでドキュメンタリーを見て『監督になりたい』と言う高校生がいたり。一人でもそういう人がいると、続けて良かったと思う」と笑顔を見せる佳寿子さん自身、幼いころから大黒座に通った筋金入りの映画ファンだ。大正から令和へ。時代が変わっても、映画を愛する人を引き付ける魅力が、ここには確かにある。

大黒座
浦河町大通2丁目18  tel. 0146-22-2149


 新型コロナウイルスの影響で、どの映画館も昨年4月中旬から2カ月近い休館を余儀なくされた。誰もが苦しい思いをしたが、映画監督の深田晃司・濱口竜介ら有志によるクラウドファンディング「ミニシアター・エイド基金」を通した全国からの義援金をはじめ、常連客や見知らぬ人の応援に励まされたという。「今まで以上に映画館はどういう場所かを考えさせられた」(菅原さん)、「映画館に人がいて初めて映画が誕生することが分かり、その“場”を共有することがどれだけ人を豊かにしてくれるかに気づかされた」(中島ひろみさん)という館主たちの想いとともに、大黒座・三上さんのこんな言葉を紹介したい。「大黒座の開館した年はスペイン風邪が流通し、その後も戦争や地震で先が見えなかったけれど、劇場はやれることをやるだけ。コロナ後は、昔ながらの身近な映画館の在り方がもっと望まれるのではないでしょうか」。『ニュー・シネマ・パラダイス』も一役買ったミニシアターブームは落ち着き、あらゆることがオンライン可能な時代、町に根付く小さな映画館の存在価値は、決して小さくない。

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ここからは特集に関連して会員の皆さんからよせられたコメントをご紹介します。

投稿テーマ
『私と映画』
ズバリ、あなたに取って「映画」とはどういう存在でしょう?
日常の生活から、しばし別世界に連れていってくれるひととき。現実を忘れて、笑い、感動し、共感し、泣くこともありますね。人生観を変えるような映画、心が打ち震えるような映画には出会えたでしょうか?
映画館でしか見られない時代から、テレビができ、レンタルが始まり、そして今ではオンラインで映画を見られるサイトも目白押しです。どんな方法で見るにせよ、最近は素敵な映画を観ましたか?
映画しばらく観てないな〜、という方も。あなたと映画のお話、思い出、どうぞお聞かせください。

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「怒り」が素晴らしかったです。(このあーさん)

身近な存在で違う自分になれるもの。
映画の世界観が好きだったり、主人公や登場人物に共感したりして別の人生を歩んだような気分になれる。(林檎さん)

静かで暗い映画館で映画を見ると、違う世界が開けるように感じます。
TVで先に見た映画を映画館で見ると、まるで異なるものに思えた時があります。(のるんさん)

映画をたのしめるというのはゆとりがある証拠。とてもいいことだ。(いせたろうさん)

コメディが一番(trungさん)

まだお付き合いする前ですが、映画好きの主人と話を合わせるために、興味のない戦争ものの映画を何本も見てました。あの映画見たよ〜と言うと嬉しそうな顔をするので、あの当時は頑張ってたくさん見ました。今は自分の興味のある映画かこどもと一緒にアニメ映画しか見ません。(ゆずママさん)

インスピレーションをもらうもの。ストーリーも勿論シッカリ追って観ているのだが、キーワードや象徴的なものを受け取りに行くもの。(みっとさん)

たまには見たいです(マサユキさん)

ゲーリー・クーパーの縛り首の木(しろねぎさん)


非日常を味わえるもの(ちるちるみちるさん)

この前完成披露試写会で「息をひそめて」という作品を見てきました。映画館は感染症対策をしっかりしていたし、やはり映画館で映画を見るって言うのは心がとても動くし、快適で全細胞が喜んでいる感じでした。
映画は心の疲れを取り除いてくれるものなんだなぁと改めて思いました。(マスタクさん)

幼稚園の頃に生まれて初めて観た映画が「魔女の宅急便」で、30代になった今でも思い入れの強い大好きな作品です。
台詞を暗記するほど繰り返し観ていますが、飽きることはありません。
13歳で独り立ちして魔女の修行をする主人公の苦労や挫折など、子供の頃は理解できなかった感情がひしひしと伝わってきて、観ていて気持ちが揺さぶられるようになりました。
物事が上手くいかない日が続く時などに観ると励まされます。(まめ太郎さん)

この忙しい日常の中で、映画は見ている時間そのものが贅沢だと思います。
そのような贅沢な時間の中で、人生に深みを持たせてくれる映画に出会えることができたのなら、「映画鑑賞」の時間は最高なものになると思います。(さくさくさん)

間を勉強出来るもの。(まるさん)

現実逃避させらる。(たこぽんさん)

あまり観れていませんが最近見たのはポケットモンスターココ。ポケモン映画は子供向けというイメージでしたが、親も楽しめました。(t7t7さん)

コロナ禍の中家族でテレビで録画した鬼滅の刃にはまってしまいました。映画館のもコロナが収まったみたいです。(オリジナルリリーさん)

老後のボケ防止に英語字幕でテレビ映画を録画してみていますが、ハリポタシリーズは、原書と比較できるのでとてもおもしろいです。生きがいとなっています。(チバタロウさん)

私にとって「映画」とは、基本的には娯楽の一つですが、「シンドラーのリスト」など、戦争を題材にした映画に代表される、史実に基づいた映画などは、教科書や資料を読み込むだけでは感情移入できないレベルに心を動かされ、戦争や、それに類する非人道的行為や制度・体制に対する嫌悪感を、より正しく持てるようになった、という意味で、教育的な側面も大きいという認識です。(キャットさん)

その時間、色々な世界を体験できる面白い存在(ぴのこだっくさん)

「シンエヴァンゲリオン」を息子と観ていたとき、
中学生からずっと「エヴァ」を観ていたから、
また今回「親子の関係」がテーマだったこともあり、自分が母親になって、息子と「エヴァ」を今観ている時の流れを思い、感慨深くなり、思わず泣いてしまいました。映画は時に、人生の歩みや時の流れを思わせてくれます。(きこはぴさん)

今の夫とのデートはいつも映画館でした。ほとんどの話題作は映画館で並んで見てました?(かずまろさん)

長く映画館に行けていないので、ロードショーで楽しむ程度ですが、日常の疲れを忘れ時に泣き時に笑い感情を豊かにしてくれます。人生の中で1番印象に残っているのはラスト・サムライです。最後まで武士として生きる姿に涙が止まりませんでした。(かおさん)

子供と一緒に鬼滅の刃を見に行きました。感動して子供は泣いてないけど私は号泣でした・・(パンナさん)

異次元の体感をし心の豊かさを得る時間(櫻子さん)

夫と2人で映画館に行くのが好きです!あの雰囲気が好きなので、映画があまりおもしろくなかったとしても満足♪(ふくタローさん)

わが故郷北海道を愛した高倉健さんは8作品を道内で撮影されていますがロケ地を巡りたいです。仕事の関係で今関西におりますがコロナ収束して時間が取れたら子供と健さんの映画のロケ地を幸福の黄色いハンカチのごとく真っ赤なファミリアで巡りたいです。妻にプロポーズをする時も実際のお話とちょっと違うけど「竿の先に黄色いハンカチを揚げておいてくれ」と言ったのを思い出します。
(KANTON$さん)

楽しかった青春を思い出させる楽しい癒しの時間になります(みちさん)

子供の頃は、〇〇ロードショーなどTVで観る映画が大好きで毎週楽しみにしていました。今はネット中心に映画を見る機会が多くなりましたが、学生の頃は時間もあり自分の事に使えるお金も多く、頻繁に映画館に足を運んで臨場感あふれる迫力たっぷりの環境で映画を愉しんでいました。その時々で環境は違えど、映画は自分の心を豊かにしてくれて、希望や勇気、沢山の楽しさを頂いたかけがえのないコンテンツです。(Ksさん)

元気な時はやる気を後押ししたり新しい出会いをくれるもの。元気のない時は泣くために見るもの。映画はいろいろなものを私に与えてくれます。(ぽっちさん)

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