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特集「北海道は恐竜・化石のワンダーランド!」の表紙の写真です

特集Vol.201
『北海道は恐竜・化石のワンダーランド!』

公開:2021年5月17日 ※記事の内容は取材当時のものです。

北海道、実は「恐竜・化石」の宝庫

カムイサウルスの全身骨格化石
今年2〜3月、北海道博物館の特別企画展「北海道の恐竜」で公開されたカムイサウルスの全身骨格化石(実物)。道内で見つかった様々な恐竜化石も合わせて展示された。コロナ感染対策のため定員制での入場だったが、予約が取りづらい程の人気だった。

2003年、穂別で見つかった化石

 さて、現代。2003年、日高山脈の西側にある穂別町(現むかわ町穂別)の山の中で、1人の男性がある化石の入った石を見つける。元郵便局員で化石の採集を趣味としていた堀田良幸さんだ。堀田さんはこれまでも、多くの化石を見つけて穂別博物館に持ち込んでいた。この地域では、海に住む大きな首長竜、アンモナイト、カメなどの化石が多数発掘されていた。

 堀田さんからの連絡を受けて現場に向かったのは、現館長で当時学芸員だった櫻井和彦さんら博物館のスタッフ。化石はだいたいが「ノジュール」といわれる硬い石に覆われている。その中に黒っぽいものが入っていたら、化石の可能性が高い。よほどの愛好家か専門家でない限り、素人にはその区別は難しい。堀田さんの見つけた、化石が含まれるであろう石を全て掘り出して博物館に運んだ。7200万年の眠りから、人の手によって化石が動いた瞬間だ。

 そんな石が博物館にはたくさん持ち込まれ、学術的重要度が高いと思われるものから優先的に化石の削り出し作業が行われる。これを「クリーニング」といい、小さな削岩機のような機械で、石を削って化石を出して行く。一日に進めるのは数ミリということもある地道な作業だ。クリーニング作業を待つ化石を含んだ石は、今も収蔵庫に山のようにある。


穂別博物館の収蔵庫と櫻井館長
多くの標本が保管されている穂別博物館の収蔵庫と櫻井館長。 この中にも大発見につながるものが眠っている、かもしれない。
巨大アンモナイトのクリーニング作業
巨大アンモナイトのクリーニング作業。気の遠くなるような作業だ。穂別博物館で。
化石が露出しはじめると、作業はさらに気をつかう。
化石が露出しはじめると、作業はさらに気をつかう。

収蔵庫で保管され7年間

櫻井さんはこの石の中に、後に日本を揺るがす大発見となる「カムイサウルス」(通称むかわ竜)の化石が入っているとは露程も思わなかった。よく出る首長竜ではないかと思い、そのまま収蔵庫で保管されることになる。この標本はここでさらに7年間眠る。

「恐竜」はスーパースター

 カムイサウルスが発見されるまで、同博物館に恐竜化石はなかった。町のシンボルとしてよく描かれているのは「ホベツアラキリュウ(通称ホッピー)」と呼ばれる首長竜。これは海にいる大型爬虫類で恐竜ではない。

 実はそれまでにも一度、「恐竜ではないか」と思われる化石が発見されたことがあったが、調査の結果「ハズレ」だった経緯があった。「直立歩行する爬虫類」「脚が胴体から地面に垂直に降りている」「陸上で生活する」といいった要素を満たさないと「恐竜」とはいえず、日本では部分的に骨の一部が見つかるのがせいぜいだった。中生代の生物を扱う博物館にとって「恐竜」というのはスーパースター級の扱いなのだ。博物館には「ホベツアラキリュウ」全身実物大骨格標本がドンと鎮座している。その大きさでも十分迫力がある。「あ、恐竜だ!」と喜ぶ人に、「実はこれは恐竜じゃないんですと説明するたびに、悔しい思いをしたもんです」と、櫻井さんは振り返る。 

ひょっとして恐竜かも?

 そして2010年、博物館に首長竜の専門家である佐藤たまき先生(東京学芸大准教授)が訪れる。珍しい種類の首長竜かもと、いくつか「気になる」石を見つけ、博物館にクリーニングを依頼した。その中にカムイサウルスの化石が、実はあった。

 1年後、佐藤先生が再び同館を訪れる。依頼していたクリーニングはだいぶ進んでいた。そのうちの一つがどうも首長竜のものには見えず、たまたまクリーニング技師が不在で、気になった佐藤先生は自分でクリーニングを始めた。その結果わかったのは、「これは首長竜ではない」ということ。そして「どうやら恐竜らしい」ということだった。佐藤先生にとっては「ハズレ」、だが博物館にとっては「大当たり」だ。

三笠市立博物館
大小さまざま、日本一のアンモナイトコレクションを誇る三笠市立博物館。

 「聞いたときは頭が真っ白になりました」と櫻井さん。同時に「これは大変なことになる」と直感したという。

 櫻井さんは、恐竜の研究者として世界的にも知られる小林快次(よしつぐ)先生(現北海道大学総合博物館教授)にメールで連絡。小林先生はすぐに穂別博物館を訪れ、実物を見て「間違いなく恐竜、尾の部分の椎骨」だと断定した。

 尾の椎骨が連続した状態で発見されたことから、、どうやらこれに続く化石がさらに見つかりそうであること、それも全身が埋まっている可能性が高いことが示唆される。そのころ、穂別町は南隣の鵡川町と合併して「むかわ町」となっており、櫻井さんは町や発掘現場の土地所有者である道と根強く交渉し、大規模発掘計画を作りあげることに奔走する。

 2012年から発掘計画を策定し、現場の道有地の発掘許可、立木の伐採、現場までの林道整備の準備が進められていった。冬の季節は作業を休み、1年毎に少しずつ掘り起こし、持ち帰ってはクリーニングを進める、という気の長い作業。

 詳細は省くが、骨の一部が見つかった早い段階から、全身が埋まっている可能性を指摘し、大規模発掘に導いた小林先生の眼力はさすが恐竜研究の第一人者とうならざるを得ない。

巨大モニュメント
三笠市立博物館屋上には、海にいた大きなトカゲ「モササウルス」がアンモナイトを「お食事中」の巨大モニュメントがある。
同館の相場学芸員
異常巻きアンモナイトを研究する同館の相場学芸員。手にしているのは、自ら発見して命名した「エゾセラス・エレガンス」。

全身骨格、歴史的大発見に

 2013年、第一次発掘に先立つ記者会見には小林先生と発見者の堀田さんが並んで登場。壇上には、最初に発見された尾の部分の化石がずらりと並べられた。

 むかわ町も発掘作業を全面的にバックアップ、2016年、町は「むかわ町恐竜ワールド戦略室」を立ち上げた。小林先生の見立て通り、最終的に全身の化石約8割が見つかり、体長約8メートル、体重約4〜5.3トンと思われる日本初の全身骨格化石が穂別の体育館に並べられたのは2017年のことだった。恐竜はハドロサウルス科に属し、さらに新種であることがわかり2019年には「カムイサウルス・ジャポニクス」という学名も確定した。

 地元の化石愛好家の手で見つけられてから16年の年月が経っていた。カムイサウルスが眠っていた7200万年間に比べれば、あっという間に有名になったと言っていいだろう。 

 恐竜は特に脚光をあびがちだが、日高山脈付近の地層は多くの化石を産する地域が多い。

 三笠市立博物館は日本一のアンモナイトのコレクションを誇り、世界中から研究者が訪れる場所でもある。館に入ると、直径1メートル以上の大きなものから、指先にのるような小さなものまで、さまざまなアンモナイトが整然と並べられている。

 生息当時は、巻き貝のような体からタコやイカのような体を出して海を泳いでいたとみられ、恐竜と同時代を生きていた。

 アンモナイトは丸い、と思われがちだが、一角に不思議なコーナーがある。チョココロネのパンを引っ張って伸ばしたようなもの、複雑に絡まったようなもの、長い棒のようなもの。どれも丸くないが、これらは「異常巻きアンモナイト」と呼ばれる。同館学芸員の相場大佑さんは、この「異常巻きアンモナイト」を専門としている研究者だ。「異常」という言葉は誤解を生みやすいが、これは奇形ではなく、アンモナイトの種類なのだそうだ。北海道では特にこの種のアンモナイトが発見される度合いが高く、その理由は「謎」である。その造形の不思議さに魅せられる。その中の一つ、相場さんの発見した新種は2021年1月、「エゾセラス・エレガンス」という優美な名前を付けられ展示されている。

北海道も本腰で恐竜・化石「推し」

 カムイサウルスという日本最大級の発見により、恐竜や化石の見つかる場所として、北海道は一躍脚光を浴びることになった。北海道庁もこれを地域おこしに役立てようと、関係自治体等とともに構成する「北海道恐竜・化石ネットワーク研究会」を設立。「恐竜・化石大陸 北海道」をキャッチフレーズとして、道内5カ所の博物館等を巡ることでコレクションできる「恐竜・化石カード」を配布するなど、その取組は好評を博している。2021年にはクラウドファンディングで「ほっかいどう恐竜・化石マップ」(※写真右下)を制作。このマップには穂別博物館や三笠市立博物館、小平町、中川町、足寄町などの各施設で展示されている恐竜・化石なども紹介されている。今夏にも、北海道の恐竜・化石をテーマとした企画を検討中。カードやマップをゲットできるチャンスもありそうだ。

再び穂別。カムイサウルスよ

 穂別博物館に戻る。カムイサウルスの実物化石は、最初に発見された尾の部分と大腿骨がガラスケースの中に展示されている。体を支えた大腿骨の大きさや、その状態のよさに改めて驚く。

 同博物館は、手狭なこともあって建て替えが予定されていたが、2018年の胆振東部地震によって計画が延期されたままになっている。入口横の部屋にカムイサウルスの全身骨格模型が展示されている。部屋が狭くて尾の部分が収まらず「省略」されているが、標本の前に立ち、体を想像で肉付けしながら、この恐竜が動き回っていた時代に思いを馳せる。

 「よく出てきてくれたな」と声をかけたくなる。隕石が衝突しなかったら、恐竜は今も生きていたのだろうか。人類が生まれ、恐竜と共存できていたのだろうか、それとも文明が栄える前に、恐竜たちに捕食されていただろうか。

 そんなことを考えながら、芽吹きがはじまった野山に人家が点在する穂別の町を後にする。空飛ぶ鳥に「君らの祖先は恐竜らしいぜ」と、車の中からつぶやいてみた。
(文・写真 :吉村卓也)

● むかわ町立穂別博物館
むかわ町穂別80-6  tel. 0145-45-3141 
月曜休館 (学校の夏休み期間は無休)

● 三笠市立博物館
三笠市幾春別錦町1丁目212-1
tel. 01267-6-7545 月曜休館
(祝日の場合は翌日)
※詳しい開館日、時間は各館ホームページで。または事前にお問い合わせ下さい。
ほっかいどう恐竜・化石マップ
北海道が制作した「ほっかいどう恐竜・化石マップ」。この夏、再びゲットできるチャンスがあるかも。

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ここからは特集に関連して会員の皆さんからよせられたコメントをご紹介します。

投稿テーマ
『太古のロマン』
 約46億年前に地球が誕生してから現在までを1年と考えると、人類の祖先が誕生したのは大晦日、そして、産業革命による近代化が始まったのは12月31日午後11時57分くらいなんだそうです。人類が誕生する前からいろいろな生物が地球には生きていたのでしょう。学校で学んだ人間の歴史はそんな最後の数分間にすぎないと考えると、なんとも気の遠くなるような壮大な話ですね〜。さらに宇宙全体のことを考えると……。たまには、そんなスケールの大きな時間の流れに思いを馳せてみるのもいいかも。
 「太古のロマン」と聞いてみなさんは何を想像するでしょう?
 どうぞお聞かせください。

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化石や建築物が1番先に頭に浮かびました。ニュースで化石や建築物が発見されるのを見るたびに年月の深さを思います。
これだけ年月が流れても残っている事がすごいのはもちろん、化石や建築物からいつの時代のものか、背景を知る事が出来ることにロマンを感じます。(かおさん)

北海道で新種の恐竜 「カムイサウルス・ジャポニクス」が認定されましたが誰も見たことがない恐竜世界と恐竜の化石を追い求めている研究者を想像します。まだ戦争もなかったんだと思うとじいさんが戦死しているので人間が文明を持ち宗教があってそして戦争が生まれたのでこの先争いごとがない平和を望みます。(KANTON$さん)

大昔のTV番組は大好きです。(のるんさん)

アダムとイヴ(ちよさん)

万物の起源(ミヤトシさん)

地球の誕生から現代までを1年と考えると、のお話を読んで驚きました。勉強するのは好きですが今まで考えたことがなかったので、じゃあその残り約一年間はなにがあったのか、どのように地球が生存していったのか、幼いときのような、なんで?なんで?が浮かび出すので調べていきたくなりました。何もないところから、人類だけに関わらず、植物や動物などの生命がどうやって生まれたのだろう?というのは一生の疑問になりそうです…(うさこさん)

古代エジプト!!(ぴのこだっくさん)

恐竜(もみじさん)

城跡にロマンを感じます!(タカラさん)

すごい世界ですごい確率で自分に産まれ、主人に出会い、息子が産まれて…益々毎日を大切にしようと思えました。そして、日々感謝したいと思います。(まるさん)

宇宙は、果てしないまさに人知を超える存在、まばゆい、星の光を見る度にロマンを感じます!(タレちゃんさん)

お菓子(ronさん)

日本をでて大陸を目指して貿易のため命の危険も顧みず渡った人々を思い出します。(ころんのパパさん)

自分が生まれる何千年も前から地球には生物が生息していたと思うとワクワクする。タイムマシンで太古の地球を覗いてみたい。(チカリンさん)

皆無の中に一粒の動くモノが現れた。何もなく砂漠のような、荒れ果てた地。しかし、その動くモノは少しづつ何らかのものを吸収しながら、成長していった。旅とも言える移動が始まった。そこに見えたのは海と呼ばれるモノだった。その周りには今までになく生物がまた新たに現れた。海と呼ばれる冷たい世界の中にも動くモノが現れた。お互いの動くモノは融合仕合いまた新たなモノが現れた。これこそが、古代のロマンでは無いかと思う(カズさん)

私は太古のロマンと聞いて「恐竜」を想像しました。氷河期により絶滅してしまったにもかかわらず、出土した化石などから生態や種類、大きさなどが現代にまで伝わっているのはロマンでしか無いです。映画では遺伝子を使って復活させるといった描写がありますが、このまま技術が進歩していけばそれも可能なのではないかと期待してしまいます。博物館でも十分楽しいですが、動物園ならぬ恐竜園ができたら絶対に行きたいですね。(huku777さん)

今の時代ではないレトロな世界(まあやんさん)

恐竜を想像します。(ひーたんゆうゆうさん)

太古でもロマンでもないかもしれませんが、アルプスの氷河で見つかった「アイスマン」が興味深いです。5000年前の人物で死因に諸説あるのですがどの説にしても、人間って昔から大して変わってないのかなぁと思わされます。(青猫さん)

生命の起源には実は特殊な水があったり、生まれた祖先はどんなコミュニケーションを取っていたのか、もしかしたら現代よりも太古のほうが文明は発達していたのでは?恐竜は会話をしていたんじゃないか?今の人間達よりも高度な言語能力を持っていたかもしれない、弱肉強食などなく平和に暮らしていたり、実は発掘された石器などは実はカモフラージュで現代技術よりも優れた道具があったんじゃないか?と想像が膨らみまくります!(空城城太郎さん)

エジプト文明(コーギーラブさん)

歴史的(あこさん)

テルマロマエがよぎりました。。。笑(マスタクさん)

歴史を感じる(あとめさん)

縄文時代とか弥生時代を連想します。大自然の中、どんな生活をしていたのかなぁと思いをはせます。(ごじじさん)

奈良の建造物(パンナさん)

温泉(マネーさん)

恐竜が生きていた時代を想像します!(エリンギさん)

恐竜。(keibubu3さん)

地球の誕生と宇宙
(よしぼうさん)

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