昔、ジンギスカンといえばこれだった。そう、あのまん丸の、薄い、あれである。
「ロール肉」と呼ばれる成形された肉だ。昨今の技術の進歩で、低温のまま凍らせずに流通できるチルド冷蔵の「生ラム」が人気となり、ロール肉は見ることが少なくなった。でも、やっぱりジンギスカンは丸いあれじゃなくちゃ、という熱い思いも聞こえてくる。
ラム(子羊)よりもマトン(成羊)がいい、という人もいる。タレに漬け込んでから焼くのがいいという人もいれば、そのまま焼いてタレはあとからつけるに限る、という人もいる。タレはこっちのメーカーがいい、いやあっちがいい、いや自分で作るのがいい、と、ことジンギスカンに関しては北海道民の思いは深い。(その思いの数々は、「投稿塾」をご覧ください)
ジンギスカンの名前の由来は諸説があるが、なぜ北海道民が羊肉を好んで食べるようになったのかははっきりした歴史的背景がある。
昭和初期、北海道では多くの羊が飼育されてきた。羊毛を取って防寒用の衣服に使うためだ。主に冬の軍服の需要に備えるためだったと言われ、国策として羊が飼われてきた。戦後、輸入品や化学繊維の普及でその需要がなくなり、北海道では多量の羊が余った。その羊は食用に回り、安価に大量に市場に出回った。これまであまり食べたことがなかった羊肉のおいしさに開眼した北海道民は、道内の羊をあっという間に食べ尽くす。クセのある羊肉の臭みを緩和するため、さまざまなタレが考案されたであろうことは想像に難くない。
羊はすっかりいなくなってしまったが、羊肉のおいしさは忘れられず、最初は主にニュージーランドからのマトン、その後はラムと、羊肉の輸入は続き、オーストラリアが最大の輸入元となった。かくしてジンギスカンは北海道のソウルフードとなり、今日に至っている。
さて、ロール肉の話に戻る。なぜ丸いのか?
羊は体が小さく、豚や牛に比べてひとつの部位の量が少ない。いろいろな種類の肉が少量ずつ出る。だったらひとまとめにして巻いてしまえ、となったのがどうやら始まりのようだ。
最近はショルダーと呼ばれる部分のみを使うロール肉がほとんどだが、かつては「半頭巻き」と呼ばれる、すべての部位を全部使って巻くものが多かった。屠殺した羊を「枝肉」という骨がついたままの肉の塊にするときに、ちょうど背中の真ん中から左右半分にするので「半頭」と呼ばれる。肩から脚まですべての部位が取れる。
今回ご紹介するのはその「半頭巻き」だ。一般消費者向けに販売されることはほとんどなく、ジンギスカン料理専門店でのみ使われることが多い。
販売元の大金畜産の増原薫さんに話を聞いた。約半世紀、羊肉を専門に扱ってきたベテランだ。
「どうしたら無駄を出さずに肉をまんべんなく使えるか、というのがロール肉の始まりでした」と増原さんはいう。大金畜産はこのロール肉の製法を普及させたパイオニアでもある。
「こんな大きなロール、最近はすっかり少なくなりましたよ」と手にしたのはマトンのロール肉。直径は15〜17センチほど。重さ9キロ。一般的なラムロールが約5キロなので倍近い。
「1枚のせたらジンギスカン鍋がいっぱいになっちゃうね」と笑う。
どうやって作っているのか。このロール肉を製造している旭川市の食肉加工、卸会社の斉藤フーズを訪ねた。
ひんやりとした加工場の中、ステンレスの机の上に広げられたラップの上に、さまざまなマトンの部位を並べる。ロース、バラ、モモ、ショルダー、レッグ、などなど。なるべく均等の厚さになるように配置して、えいやっと巻き上げる。
機械で巻いているのかと思ったら、手巻きなのである。ラップを何枚か重ねてさらに巻き上げ、ぎゅっと締める。2〜3分で巻き上がる。手早い。両端を中に押し込んで最後に端をピンで留める。空気を抜くためにプツプツとラップの上から穴を空けて、完成。あとはマイナス30度くらいの冷凍庫に2日くらい入れ、冷凍保存したものをスライスし、おなじみの丸い形の肉になる。
「手で巻いているのは日本だけじゃないでしょうかね。海外だと筒に入れて成形したものはあるんですが、なかなか均等に部位が入らない。手巻きは、どこを切ってもいろいろな部位が入るので楽しめますよ」と、斉藤フーズの板橋守社長は話す。
今回の商品は、この「半頭巻き」をマトンとラムのセットで。タレに漬け込んでもよし、焼いてからタレをつけて食べるもよし。スーパーや肉屋さんでも手に入りにくい、昔ながらのロール肉の食べ比べをぜひお楽しみください。
ジンギスカン鍋を温め、ラードをのせて油をなじませる。モヤシ、タマネギ、キャベツなどの野菜を鍋にのせ、火が通ってきたら肉をのせ、焼けたら好みのタレにつけて食べる。ロール肉は焼くとバラバラになるので網焼きには向かない。鍋がなければフライパンやホットプレートでもももちろん可。これを外でやると「ジンパ(ジンギスカンパーティー)」となる。
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