夕張は山深いところだ。石勝線の新夕張駅からの支線が北に延び、夕張駅に至る。この支線に沿うように町や農地が広がる。少し開けた場所には、ずらりと並んだビニールハウスが見える。この中で、北海道のメロンのトップブランド、夕張メロンが育っている。
初夏の日差しの感じられるよく晴れた日、夕張のメロン農家を訪ねた。
お祭りのようなにぎやかさだった札幌での初競り会場とは打って変わって、喧騒とは無縁の夕張の初夏はここちよい風が吹き、若い緑が眩しい。
山際に作られたビニールハウスの中、約50メートルに渡って地面は大きな葉っぱとツルに覆われている。ウリ科キュウリ属というだけあって、黄色い花もツルもキュウリのものによく似ている。ざらざらした葉の陰、鮮やかな緑色のきれいなネット模様がついたメロンが、保護用の白いプラスチック製のマットの上に鎮座している。座布団に座って、じっと出番を待っているようだ。
「あと二日くらいですかね」と、メロンの様子を見極めながら、このハウスのオーナーの武岡宏樹さんが教えてくれた。メロン作り25年のベテランだ。
訪ねたのは5月の下旬、武岡さんのハウスではこれから今年の出荷が始まるところだった。9月上旬まで、朝4時からのハウスの見回りと管理、出荷のタイミングを調整する作業が続く。
武岡さんは夕張メロン組合の副組合長であり、夕張メロンの名で出すメロンの品質を厳しく検査する検査員でもあり、副検査長も務める。
「外見を見ると、どういう成長をしてきたメロンなのかだいたいわかります。秀優良の等級は中身重視でつけます」と説明してくれた。
見ただけで、中身がわかるのか?
「だいたいわかりますね。手に持ってみたり、指で弾いて音を聞いたり、頭のツヤを見たり。なかなか説明するのが難しいんですけどね」と笑う。
夕張メロンは夕張で作られていたスパイシーカンタロープという赤肉メロンに、マスクメロンの代表種、アールズフェボリットという青肉メロンを交配したものだ。マスクは仮面のマスクではなく、独特の香りを放つ麝香(ジャコウ)のことだ。ムスク(musk)とも言う。夕張メロンの特徴の一つである高い香りはここに由来する。
カンタロープ種は固く、甘味が少ない。ヨーロッパや北米では一般的なメロンだ。夕張ではかつては砂糖をかけて食べていたという。平地が少なく耕地面積の狭い夕張の土地で、狭い土地から高収益の作物を生み出そうと、農家の人たちが生き残りをかけて試行錯誤した結果、1961(昭和36)年に生まれたのが品種名「夕張キング」であり、これが夕張メロンと言われるものだ。
多くの作物が種苗会社から買う種を使うのに対し、夕張メロンは今も自分たちで種を作る。選ばれた農家が手作業で受粉させ、種作りを担当している。母であるアールズフェボリットの雌花に、父であるスパイシーカンタロープの花粉をつける。実った果実から、一代限りの種を取る。一代交配、F1と呼ばれる方法だ。だから、夕張メロンを食べたあとの種を植えても夕張メロンはできない。念のため。
種は雪解けのあとに苗床にまかれ、その後ハウスの中に植えられて、ミツバチを使って受粉し、75日かかって実をつける。
夕張メロンの種は金庫に入って保管されている、という噂を聞く。本当なのか?夕張市農業協同組合に聞いてみた。
「関係者以外入れないところに、耐火ロッカーに入れて、鍵をかけているのは事実です。たまに種を欲しいというお問い合わせをいただきますが、すべてお断りしております」とのことだった。
夕張メロンは作り方がとても難しいメロンだという。デリケートなのである。
「もっと強く改良することもできるんだろうけど、そうなるとあの味と食感は無くなるでしょうね」と武岡さんは言う。土作りや温度と水の管理、安定出荷のための植え付けの調整と、「長く家を空けることはほとんどできませんね」と話しながらも笑顔である。
独特の軟らかい食感と香り、スプーンですくって食べる、ジューシーなメロン。
贈り物や特別な時の一品かもしれないが、北海道にいるからこそ、自分でも味わいたい夏の味だ。
(文・写真:吉村卓也)
メロンが届いたら、まず箱から出して色をチェック!
出荷時は1のような緑色です。食べ頃の1〜2日前に届くように配送されますが、外気温が高いときなど、輸送中に食べ頃に近づくことがあります。3のようになるまでは、箱から出して、常温で日の当たらない場所で、保管します。
冷蔵庫に入れちゃダメ!皮が緑のまま中だけ熟してしまい、食べ頃を見誤ります。
だんだんと2のように、黄色みを帯びてきます。
3のように全体的に黄色っぽくなると、メロンからよい香りが感じられるようになります。食べ頃です。
縦に半分に切って中綿と種を取り、ラップをかけて冷蔵庫で2〜3時間冷やし、ほどよく冷えたところをお召し上がりください。
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