紙の新聞の紙面は面積に限りがあります。週刊誌のような長い記事にはなかなかお目にかかれません。そこへいくと、デジタルの世界にスペースの制限はありません。紙面には収納しきれないような、「新聞らしくない」長い読み物にもデジタルでは出会うことがあります。
朝日新聞デジタル(有料会員)だけでしか読めない記事がいくつかあります。その中で、今回紹介したいのは「今日も傍聴席にいます」という連載です。
これは主に刑事裁判の傍聴記録です。殺人、強盗、詐欺など、よほどの大事件でもない限り、新聞の紙面では数行〜数十行の記事で終わってしまうようなものが大半です。裁判の傍聴は誰もができますが、司法担当の新聞記者ほど頻繁に裁判をしっかりと見る人はいないでしょう。
このシリーズ、裁判を傍聴した記者が、その内容を長文でレポートするスタイルの連載です。一つの裁判で一つのストーリーです。5000字くらいの記事もあり、ひとつの裁判の背後にさまざまな人間が関わり、被告がどうして犯罪を犯すに至ったか、なぜ防げなかったのか、被告はこれから更生できるのだろうか、被害者や家族の感情はいかばかりだろう、といった感情が読み手を揺さぶります。弁護人、検察官、裁判官の裁判での様子も描かれ、裁判といえどもそこには人間が関わっていることを改めて感じさせられます。
このシリーズが生まれる背景が、朝日新聞ポッドキャストで語られていました。(メディアトーク #100-80)。番組に登場していた野村周編集局長がかつて司法担当だったころ、裁判を担当する記者に、「これだけ裁判にへばりついていて、記事になるのは20行ですか?」と言われ、「だったらデジタルで書いてみれば」、というきっかけで始まったのだそうです。2018年から始まったシリーズで、現在70本以上の記事があります。それぞれに深い物語があります。新聞なら紙面の片隅のいわゆる「ベタ記事」で終わってしまったようなものも多いはずです。
まだ若いある被告は、友達にそそのかされるままに殺人を犯しました。法定で被告の育った環境が明らかになります。暴力団関係者の父親は母親に暴力をふるい、被告が1歳のときに離婚。母親に引き取られたあとも母親から暴言や暴力を受け、里親やホームなど住まいを転々とします。弁護人から「今振り返って、もし戻れるならいつに戻りたいか」と問われ、「生まれる前です。暴力を振るわず、寄り添ってくれる家庭に生まれてみたい」と答えた、と記事にありました。
ある男性は久しぶりに会った親友と酒を飲み、その後飲酒運転のあげくに同乗していた親友を交通事故で死なせました。高校からの友人で家族ぐるみの付き合い、久しぶりに会った親友と離れ難い夜だったようです。「かけがえのない唯一の大親友。この先も一緒に人生を歩みたかった」と被告は法定で泣き崩れます。
裁判の被告席に立ち、有罪判決を受ける。自分には無縁のことと思う人がほとんどでしょうが、少し環境が違えば、自分もそうなっていたかもしれない、悪人と善人の簡単な二項対立で語れるほど、世の中は単純ではないと、連載を読むと感じます。読後は重い気持ちになりますが、生きる意味を考えさせてくれるシリーズだと思います。
プレミアムプレス編集担当 吉村 卓也
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