今回はちょっと記者らしくない記者さんの登場。選挙の「ロジ担」という仕事です。ロジスティックス、つまり後方支援や庶務担当、みたいなイメージでしょうか。さて、どんな仕事内容なのでしょう。
経歴を拝見すると「株式欄の統括」という仕事もありますが、これはどんなことをやるのですか?
松田:(以下、松)東京証券取引所から送られてくるデータを新聞の株式欄に流し込むのですが、それがちゃんと動くようにプログラムをメンテナンスしたり、他には株式欄に寄稿する外部筆者とのやりとりとか、地味な仕事ですね。
あんまり記者っぽくないですね。
松:はい。取材して記事を書く、ということはないのでそうなりますね。
あの細かい株式欄、間違いがあったら大変だと思いますが、そのチェックもするのですか。
松:毎日、何カ所かをランダムで抜き出して、間違いがないかチェックしていました。そこで間違いがなければ大丈夫だろうということですね。
チェックしていました、と過去形ですね。
松:実は株式欄自体を自社で作らなくなったんです。あの面全体が今は外注で、私の仕事は無くなってしまいました。
そうなんですか!時代は変わるものですね。現在担当している選挙のロジ担というのも、同じくたいへん細かい仕事に思えます。
松:そうなんですよ。北海道は市町村の数が179。2位の長野県が77ですから、ダントツ多いわけで、今年春の統一地方選挙では、このデータを間違いなく集めるのはなかなか骨が折れました。
こちらも記者の仕事のイメージとはちょっと違うような気もしますが。
松:株式欄の時と同じで取材して記事を書くということではないので、そうですよね。
ストレスたまったりしませんか?
松:私の場合はあまりこだわりがないんですよね。記者はどうしても書いた原稿によって評価されるところがありますから、自分が原稿を書かないことで仕事をやっている納得感がなくなって苦労する人もいますよね。まぁ、喜んでこれをやる人はあまりいないかもしれません。
具体的にどんなデータを扱うんですか?
松:まず、すべての市町村長、議員の任期満了日を把握します。選挙に向けて候補者のデータ、顔写真集めが始まります。
膨大な数ですが、これを1人でやるのですか?
松:いえ、さすがに私の他にサブが1人いましたが、それでもとても回らないので、一部の同業他社と協力してデータ集めは分担しているんです。各社の担当者と話をすることも多いです。
へえ!なんかライバル社と手を組んでいる気もしますが。
松:いつも言っているのですが、ロジの仕事は力を合わせてやり、ライバル関係の取材や報道の部分とは分けて考えるということです。このデータを元に分析したり報道するのは各社がしのぎを削ってやるところですね。
候補者からのデータも分担して集めるのですね。
松:そうです。共通の調査表というのを作って、立候補する人の事務所に送ります。どことどこの市町村はA社、というふうに割り振ります。候補者によっては出し渋る場合もあるのですが、そういうときは交渉が得意そうな人が当たったりしますね。私がやることも多かったのですが……。
候補者の顔写真もずらりと並びますよね。
松:あの写真も分担して自分たちで撮るんです。提供写真は使いません。マニュアルを作っていて、歯が見えていたり、メガネが光っているものはダメなどとルールを決めて、公平になるようにしています。
膨大な数、よく間違えなくできますね。
松:入念に何段階もチェックしていますが、それでも訂正を出してしまうことはあります。統一地方選ではある町議選で候補者の名前を一字間違えて訂正となりました。3段階のチェックがあったのですが、どれもスルーしてしまったんですね。チェック態勢を強化します。
選挙が無いときはどうしているのですか?
松:今は教育担当もしていて、久しぶりに取材して記事を書いています。
選挙があるとなかなか気が休まらないのではないですか?
松:ほとんどの選挙はやる時期が決まってますからね。それに向けて淡々と準備していくのでいいんです。怖いのは衆議院の解散総選挙ですね。いつあるかわかりませんから。休暇を取るにも、衆議院解散がなさそうな時期を狙って休みます。
なるほど ! 次の選挙も頑張ってください。
1966年岐阜県生まれ。共同通信社を経て、1999年朝日新聞社へ入社。名古屋、豊田、岐阜で記者として勤務。2011年から名古屋と東京で広報部門のほか、東京・経済部で株式欄の統括業務に従事した。2022年4月に北海道報道センターへ異動。ほぼ10年ぶりに取材現場に復帰。
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