今回は道東・根室の支局長であり、科学ジャーナリストとして海の生き物や環境問題についても精力的に執筆活動を行っている記者さんを紹介します。そんな方がなぜ根室に? 聞いてみました。
朝日新聞の記者であり、科学ジャーナリストという肩書きでも活躍していらっしゃいます。珍しいと思うのですが、どういう経緯なのでしょう。
山本智之(以下、山:)まず、最初の勤務地の新潟で、新潟水俣病の取材に深く関わったのが環境問題に関心を持つきっかけでした。この取材を通じて、企業は利潤を追求するあまり、人の健康や環境を顧みなくなることがあるのだと感じました。その後、前から好きだった海の生き物を中心に科学ジャーナリストとしても仕事をするようになり、今に到ります。
なるほど。海の生き物との関わりは?
山:こちらは私の趣味で、大学院の1年生のときにスキューバダイビングの資格を取りました。そして水中写真も始めました。子どものころから地元の多摩川で魚を獲ったりもしていましたから、水生生物には親しんでいましたね。
魚に関しては、ブルーバックスで本を書くほどの専門家と聞いています。もともとそのような勉強や研究をしていたのですか?
山:いえ、全く。大学院では社会心理学をやってましたから。
そうなんですか! なぜこんなに専門的な知識をお持ちなのでしょう?
山:新潟水俣病や環境問題のことを取材していた関係で、科学部(当時)に配属になりました。自分の関心もあったので、記者という立場で、これまで数え切れないくらいの科学者にインタビューしました。これはもう、その道の権威から個人授業を受けているようなもので、おのずと自分の知識も蓄積されていきます。かれこれ30年間もやっていて、相当詳しくなり、自分で判断できるようにもなりました。これは役得でした。
書かれた記事を拝見すると、ストレートに環境問題を取り扱うというよりも、身近な話題に引き寄せて語るようなものが多くて興味を引かれます。例えば北海道のブリの水揚げが20倍になったとか、サンマが小型化しているとか、「え!」と思いますね。
山:やはり食卓につながっている環境問題は関心を持って読んでもらえると思い、なるべく身近な例を提示するようにしています。
確かに、サケが獲れないとか、サンマが高いとか、北海道らしくない状況が続いていますね。
山:何年か前のことですが、海の温暖化が漁業に影響を与えていて、このままだと北海道のサケの水揚げは激減するだろうという記事を書いたことがあります。その予想通りの事態になってしまいました。
深刻な事態ですね……。昔、例えば縄文時代も地球は暖かかったというような話も聞きますが、やはり今の時代は異常なのでしょうか?
山:確かに暖かい時代もあったのですが、問題は温暖化のスピードなのです。緩やかに気温が変化していけば、それについていけるように生物も適応ができます。ですが、今の変化は余りにも急で生き物が対応できません。例えばシシャモは非常に生息域が限定されている魚で、逃げ場がありません。激減しているのはそんな理由によります。過去100年で日本近海の海面水温は 1.24度上がっています。これは海の中で生きている生物にとっては相当インパクトが大きいです。
サケが食べられなくなる日が来るのでしょうか…。
山:サケは低い水温を好みますから、どんどん北の海に分布がシフトしていくでしょうね。その代わり、これまで獲れなかったような魚が獲れるようになる。ブリの漁獲高で北海道が全国1位になったのも、そういう変化の現れです。
データだけではなく、自分で海に潜って観察し、取材もしてらっしゃいますね。
山:はい、自分で潜って実際に現場を見る、そこで起きていることを伝える海中レポートを何度も行っています。これまでに南極海やガラパゴス諸島でも潜りました。羅臼では最近、ホッケの繁殖の様子を海中取材しました。オスの「ホッケの父さん」が一所懸命卵を守っている様子を海中レポートしました。
ところで、なぜ根室支局なんですか?希望して根室へ?
山:いえ、自分では希望していません。根室なら水産や海洋生物の取材もやりやすいだろうということで、配慮してくれたのかもしれません。
根室と言えば、北方領土の問題もありますね。
山:そうなんです。根室ではとても大切な取材テーマですね。前任の根室支局長は元モスクワ支局長でしたが、私はこちらに来てから初めて取材するテーマです。これからはそちらの方面もしっかり取材していく予定です。
東京都日野市生まれ。1992年朝日新聞社入社。新潟支局、浦和支局、東京科学部、つくば支局、大阪科学医療部デスク、朝日学生新聞社編集委員を経て、2022年9月根室支局長。科学ジャーナリスト。
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