朝日IDをお持ちの方はこちらから
AFCのログインIDをお持ちの方(2024年7月31日までにAFCに入会された方)はこちらから
新規入会はこちらから(朝日IDの登録ページが開きます)
ジンギスカンのジンくん
札幌市の中心部、商業施設の地下に通じる階段に、30人ほどが列を作って並んでいた。辛抱強く待っているのは「ジンギスカンのジンくん」。札幌の工房アルティスタが世に出した、いわゆる「ゆるキャラ」である。
白い毛に覆われた体、黄色い顔に赤いほっぺ、真ん丸の黒い目。頭にはジンギスカン鍋をかぶっていて、鍋の上には野菜がのっている。そのキャラクターと一緒に写真を撮れるのだ。
店の奥から「アテンド」と呼ばれる付き添いの人に伴われてジンくんが登場した。突然の登場に周りの買い物客がざわめく。「あ、ジンくん!」と、知名度は高いようだ。自然にジンくんの周りには人だかりができ、体に触れたり、スマホをかざして写真を撮ったり、ただいっしょについて歩いたり。
ジン君が所定の位置についた。撮影が始まる。
「は〜い、いいですか〜、撮りま〜す!はい、生ラム!」とアナウンスが入る。
掛け声は「チーズ」ではなくて「生ラム」なのだ。
ジンくんと並んでポーズを決める人たちは、みんな本当に満足そうだ。
ちょっと離れた壁際、ジンくんグッズが並ぶ特設売り場の陰から、じっとその様子を見ている男性がいる。工房アルティスタの代表、永谷久也さんだ。たまに会場に顔を出して、ジンくんの様子を見る。
写真撮影に忙しいジンくんを遠くから見守る永谷さん
「ほらね、こんな風にね、みんな笑顔になるんですよね」
と永谷さんもにこにこしながら言う。
ジンくんが誕生して、2018年3月でまる7年が経った。
ジンくんの「産みの親」は北海道出身のイラストレーター、はしあさこさんだ。
「こんなのどうでしょう?」という、本人からの売り込みが最初の出会いだった。
「おもしろそう」と、はしさんとは初対面だった永谷さんが商品化を引き受けた。
ジンくんの年齢は1歳未満、好きな食べ物はふりかけごはんや塩おにぎり、基本的にベジタリアンで、毛は防火耐熱性、工房アルティスタに住み込み中、という設定は作者が考える。永谷さんが、あれこれと要望することはない。作者の考えるまま、自由にやってもらっている。 「キャラクターを産むのも育てるのもクリエーターである作家さん。会社はグッズ製作のパートナー」というのが永谷さんの考えだ。
撮った写真はSNSにアップされることが多い。全国のファン達が瞬時に見て、楽しみを共有する。
永谷さんは大学を卒業し、チェーン店の本屋で働いていた。全国的にはベストセラーでない本でも、売り場やポップを工夫することでとたんに売り上げが伸びる。それがとても面白く、物を売ることにやりがいを感じたきっかけだった。
ある日、「ポストカードに」出会う。店にデザイナーが作ったポストカードを並べてみると、これが実によく売れる。本という完成された商品を売ることに力を使っていたが、「自分たちで作ったものを自分たちで売れるんだ」と、新しい世界が開けた。世の中には面白いものを作る人がいっぱいいる、と感じた。
10年ほど勤めた後独立し、工房アルティスタを設立。いろいろなキャラクターを世に出した。
その中でも「テレビ父さん」はジンくんと並んで人気がある。
札幌の大通公園にあるテレビ塔が赤と緑に塗り替えられ、その原色に近い色合いが世間では決して高い評価を得なかったころ、それを逆手に取るように、緑の展望台部分を腹巻きにした、真っ赤な顔でいかにもさえないこのお父さんキャラクターが登場し、話題を呼んだ。今もテレビ塔の「非公式キャラクター」として根強い人気を誇る。これも永谷さんが「おもしろそう」と思ったキャラクター。テレビ塔のおみやげ売り場に売り込みに行って採用されたのがきっかけだった。
工房アルティスタのオフィス。多くのキャラクターグッズがここで作られている。この横に「購買部」があり、グッズを購入できる。
2006年からクリスマスカードのコンテストを主催している。さまざまな人たちが応募し、クリエーターと出会い、発掘する場所となっている。
札幌の二条市場近く、観光客でにぎわうエリアからはちょっと外れたところにある本社オフィス内、「購買部」と呼ぶ売店には、アルティスタのキャラクターのファンたちが訪れる。店の奥が事務所兼作業スペース。手作業で商品を作っているのがよく見える。
「パン工場のはしっこで、できたパンを売っているイメージ。だから購買部」、と永谷さんは言う。
と、突然、事務所の奥からキャラクターが店に出てきたりしてお客さんと触れ合う。
実は登場は突然ではない。
ツイッターなどのSNSを利用し、キャラクターの出没場所はあらかじめ案内されている。いちばんの人気者、ジンくんのフォロワーは約34,000人だ。
SNSを見て、ジンくんに会いに行く。撮った写真はツイートされ、ジンくんを取り巻くコミュニティーはさらに盛り上がる。東京でのイベントは札幌の約10倍の人が集まり、ジンくんと会って、ジンギスカンも食べられるパーティーも人気だ。
アルティスタでは、頼まれてキャラクターを作ることはない。
自分たちが面白いと思うものを作る、感性の合うクリエーターたちと仕事をする、それが何より楽しい、と永谷さんは話す。
アルティスタのキャラクターたちは、ブログを書いたり、ツイッターでつぶやいたり、それぞれがのびのびと自由に行動しているように見える。どこかの公式キャラクターになることもなく、気兼ねなく、好きなことを好きなようにやっている。そんな「生き方」を見て人々が笑顔になる。そんな世界がSNSの中で活気を帯びている。
(文・写真:吉村卓也)
大学生のときに、JAL(日本航空)が自社養成でパイロットを募集することを新聞で知り、へぇこういうのもあるんだ、と思い応募したのがきっかけです。読む
幕末の長岡藩は、会津を征伐しようとする新政府軍の進軍路にあった。その藩に忽然と現れ、藩の独立と「武装中立」を頑なに推し進めようとしたのが河井継之助(つぎのすけ)だ。読む
十勝川温泉は十勝平野の中にこつぜんと現れる温泉地だ。「温泉地」という言葉からイメージされるような山や渓谷というものはない。読む
シュトレンの本場、ドイツではクリスマスをどう過ごし、どんなときにシュトレンを食べるのだろう。札幌在住でNPO法人・八剣山エコケータリング代表のビアンカ・フュルストさんに聞いてみた。読む
北海道のパンやお菓子の店にはシュトレンがすっかり定着した。毎年楽しむ人が増えた証といってもいいだろう。そうした中、お客の幅が広がるにつれ、オリジナリティのあるシュトレンも登場している。読む
釧路市の住宅街で偶然、行商する人を見つけた。リヤカーの主は、新木トシ子さん。お天気の日の昼ごろ、和商市場あたりからひと回りするという。住宅や店の前で停めるたびに人が出てきて、おしゃべりしながら買物が始まる。読む
箱に入っているのは、茶色い鉄鉱石、黒い石炭、白い石灰石の三種類、を模したクッキーだった。箱の中にそれらの本物を写した写真が入っているが、クッキーの写真かと思うほどそっくりだ。鉄鉱石はココア、石炭は黒ゴマ、石灰石はきな粉味だ読む
室蘭市にあり、2014年に閉校した室蘭市立絵鞆(えとも)小学校に円形の校舎が2棟並んで建っている。一棟は教室、もう一棟は体育館で、昭和30年代に建てられた体育館棟は老朽化のため、解体の方針が出ていた。読む
昭和20(1945)年3月、第2次大戦のさなか、栃木県から戦火を逃れて、1人の版画家が妻の親類のいる白老に引っ越してきた。その名を、川上澄生という。読む
白老町に、飛生(とびう)という場所がある。今は「字竹浦」という地名になったが、「飛生」は町内会や川の名前に残る。人家も少ないところだが、かつてここには「飛生小学校」があった。読む
昭和の頃、札幌のイチゴは甘酸っぱくて柔らかかった。市内の果樹園は今もイチゴを栽培するが、果肉がしっかりした品種が主流。そんな中、わずか数軒が作る「さとほろ」という品種がある読む
当別町と北欧との関係は、日本とスウェーデンの協力により、日本にスウェーデン村を作る目的で、輸入住宅地・スウェーデンヒルズを同町に民間業者が開発したことに始まる。読む
今回の特集で取り上げたパンやバターができるまでに、大きな役割を果たしたのが「アマムの会」というグループの存在だ。これは、道北、天塩川流域の農家、食品製造者、料理人など、おいしものを作っている人たちが中心となって、地域の食文化の向上と発信を進めるための団体だ。読む
寿都町は積丹半島の西側に位置し、日本海に北に向けてぽっかりと口を開けたようなきれいな弓形の湾に沿って町がある。札幌から約150キロ。読む
森と林業の町、下川。そこが産する木材を利用して木工品を作っている工房が札幌にある。チエモク株式会社。社名は社長の三島千枝さんの名前にちなむ。読む
全国、全世界に愛好者のいる民謡「江差追分」、北海道最古の神社といわれる姥神大神宮の大祭、「姥神大神宮渡御祭(とぎょさい)」。読む
「FMはな」の愛称で親しまれるコミュニティFM局が中標津町にある。正式名称は「FMなかしべつ放送株式会社」。使用周波数の87MHzから「はな」の名前がついた。読む
かつて、定山渓にも多くの定住人口があった時代があった。製材、営林署、豊羽鉱山、鉄道。何よりホテルや旅館の多くの従業員が、家族で会社の寮に住んでいた。読む
「円山球場の名物は何か」と野球好きの知り合いに尋ねたら、「それはカレーだろう」とのことだった。野球に関係することではなくカレーなのか、と思ったが、ひとまず食べに出かけてみることにした。読む
夕張メロンの初競りが行われた札幌中央卸売市場。競りの開始午前7時めがけて、報道陣や関係者が特設の競り会場に続々と集まり始めていた。読む
辻石材工業株式会社の札幌軟石採掘所に行くと、軟石のでき方がよくわかる。熱がこもらなかった上の層は降り積もった火山灰がそのまま残る。読む
ふわふわ、こんにちは。「ふわふわラムキン」作者 大家典子さん
北海道の羊の毛でできたマスコット、「ふわふわラムキン」。すべて大家(おおいえ)典子さんの手から生まれる。読む