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>HOME >よみもの >「パイロットが語る地方路線の魅力」(2023/3/20)

VOL29:パイロットが語る地方路線の魅力

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『パイロットが語る地方路線の魅力』

末岡幸明(こうめい)さん
 JAL、J-AIR、FDA 元機長

 大学生のときに、JAL(日本航空)が自社養成でパイロットを募集することを新聞で知り、へぇこういうのもあるんだ、と思い応募したのがきっかけです。試験は6次まであったのですが、最初は3次試験で不合格になりました。そしたらがぜんパイロットになりたくなり、2度目の挑戦で1974年にJALに採用となりました。小樽生まれで、中学生か高校生のころ丘珠でグライダーに15分くらい体験搭乗するというイベントがあったのですが、思えばその記憶がどこかにあったのかもしれません。

 当時は座学は日本で、実機訓練はアメリカでやっていました。昔は操縦室は3名体制で、JALではまず航空機関士として5年間の乗務からスタートする決まりでした。当時の主力機であったボーイング747(ジャンボ)です。操縦士の資格を取ったあとに、航空機関士の資格を取るんですね。今は3名で飛ぶことはないので最初が副操縦士となりますが、昔は違ったんです。その後、34歳で副操縦士となりジャンボの操縦桿を握りました。45歳のとき、ボーイング767の機長になり、それからマクダネルダグラスのMD-11、そしてボーイング777と続きます。飛行機のライセンスは機種ごとに取るんですよ。いずれも国際線を担当することが多かったです。

 2009年、JALグループのジェイエア(J-AIR)に移り、そこで初めて小型のリージョナルジェットのエンブラエル機に乗りました。これまで経験したことがない地方路線だったのですが、いやぁ、これが面白かったんですよね。国際線だと飛ぶ距離が長いですから、ずっとレーダーの誘導に従って飛んで、空港が近くなったら「はい、じゃあ降りて下さい」っていう指示で着陸します。パイロットも複数名乗っているので、担当する離着陸はけっこう少ないんです。でも地方路線では一日に4回くらいフライトがあるときもあります。当然離着陸の回数も増えますし、自分で考えて飛ぶ余地が大きいというか、それがとても楽しいんですよね。パイロットとしての達成感があります。

 その後、フジドリームエアラインズ(FDA)に移り、同じエンブラエルに乗りました。ジャンボのような巨大旅客機からエンブラエルのような小型機まで体験したのですが、飛行機の挙動や操縦感覚はそれほど変わるものではないですね。操縦桿のフィーリングはやっぱり飛行機によって違うんですが、小さいエンブラエルの方がジャンボよりも操縦桿は重かったです。ラストフライトは2014年2月、高知から名古屋小牧のフライトでした。約40年間のパイロット生活の最後、なかなか感慨深いものがありましたよ。

 操縦桿を握らなくなってからは、FDAのシミュレーター教官として、若いパイロットの育成、指導に当たりました。コックピットに同乗してモニターしているときに、初めて丘珠空港へのアプローチで見た風景は忘れられません。西側の石狩湾からアプローチのときは、ちょうど小樽の上空から降りて行くのです。生まれ故郷の小樽の町を初めて空から見ました。もう空港が近いですから高度も低くなっています。小樽湾の堤防が本当によく見えて、ああ、こう見えるのか、と感激した記憶があります。

 2023年の1月で完全に引退しました。もう飛ぶ事はないかと思いますが、やっぱりわくわくする世界なんですよ。ときどき恋しくなりますね。

機長席に座る末岡さん
ラストフライトでエンブラエルの機長席に座る末岡さん。M字型の操縦桿はエンブラエル機の特徴。(写真は本人提供)



小林啓良(けいすけ)さん
 HAC (北海道エアシステム)機長

 大阪出身です。子どものころに「白い滑走路」(注:1974年 TBS系)というテレビドラマがありましてね。パイロット役の田宮二郎がかっこよくて、かっこよくて。「絶対にパイロットになりたい!」と思いましたね。JALが全面的に協力して作ったドラマで実機を飛ばして撮影したりしてるんですよ。胸がときめきました。

 パイロットを目指し、その関係の大学に行こうと思って受験したのですが、目の問題で身体検査で不合格になりました。普通の大学を出て、地元で消防士をやったりしていましたが、パイロットの夢は諦めきれず、目を手術して直しました。アメリカに渡り、自費で飛行機の操縦士資格を取りました。日本に戻ってから事業操縦士の資格も取り、そこからの就職活動です。

 31歳のとき、ジャパンエアコミューター(JAC)に採用されエアラインパイロットとなりました。そこでは9年間、サーブ(SAAB340)に乗りました。スウェーデン製のプロペラ機で、HACでも使っていたんですよ。(注:HACでは2021年12月まで運航)

 それから、北九州のスターフライヤー、ピーチ、その後エアアジア(注:現在は日本から撤退)と移り、この3社ではエアバスA320というジェット機でした。HACに入ったのは2018年2月です。サーブから、同じプロペラ機のATR42-600となり、現在はATRで道内を飛んでいます。プロペラ機と言ってもATRはコンピュータ化が進んでいて、ずいぶん進化した感じがします。

 いろいろな飛行機に乗りましたが、どれが楽しいかというと、どれもそれぞれ楽しいんですよ。ジェット機とプロペラ機では飛ぶ高度が違います。ジェット機の方は高高度ですから、下の景色がよく見えません。プロペラ機は高度が低いですから窓からの景色は面白いですね。エアバスの飛行機は操縦桿がジョイスティックなんですよ。ゲーム機みたいでしょ。最初はふにゃふにゃして戸惑いましたけど、まあ慣れですね。特に問題ないです。

 北海道の地方路線を飛んでいて思うのは、待たされることがまず無いのがいいですね。羽田や福岡のような超混雑空港では待たされる事が多くて大変でしたよ。

 私の趣味の模型を展示するなんてのも、丘珠空港だからできたことですね。大きな空港では無理でしょう。地元の航空ファンの人たちともつながれて、コミュニティー感覚があります。

丘珠空港に飾られている飛行機模型は小林さんの作
丘珠空港に飾られている飛行機模型は小林さんの作。手に持っているのは最近完成したジャンボ機の模型。原型はプラモデルだが、2階席の窓の数が実際のものとは違って3つしかなかったので、自分で窓を増設した。小林さんが乗るのは、写真左下に写っているATR42-600。

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