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VOL1:北海道立三岸好太郎美術館

三岸好太郎《のんびり貝》1934年 北海道立三岸好太郎美術館蔵
三岸好太郎《のんびり貝》1934年 北海道立三岸好太郎美術館蔵

 三岸好太郎の代表作は?と副館長・五十嵐聡美氏に問うと「のんびり貝」と「飛ぶ蝶」だという返事が返ってきた。これは館全体に共有されている認識だという。砂浜に大きな手をどっしり開いているシャコガイ。標本箱にピンで止められた蝶。貝はのんびりと見えないこともないが、蝶は(右上の一頭を除いて)どう見ても飛んではいない。砂の上に広がる貝の灰色の影と、蝶が標本箱に落とす影。この2枚は、好太郎の死の3ヶ月前に描かれたシュールレアリズムの影響を濃く受けた連作である。空と砂浜に白い貝、白い台紙に止まったパステルカラーの蝶々たち。どちらも色調は明るいが、どこか暗さが感じられる。

 特段の技巧がある訳でもなく、たった10年の画業しかない。それにもかかわらず名を冠した美術館を持った三岸好太郎はとても運の良い男だと五十嵐氏は語る。

 好太郎は1903年生。札幌第一中学校(現在の札幌南高校)を卒業し、專門の美術教育を受けることなく、18歳で上京後たった2年で「檸檬持てる少女」で春陽展に入選し、翌年には春陽賞を受賞する。東京では異父兄・子母沢寛に面倒を見てもらっている。確かに運がよいとしか言いようがない。

 31歳で早逝したが、妻・節子が保存しておいた遺作を道に寄贈したことで1967年に北海道立近代美術館三岸好太郎記念室が開室し、10年後には三岸好太郎美術館と改称する。1970年代から80年代にかけて、日本中の都道府県ではそれぞれの県庁所在地に公立美術館を建てた。その動きの中でも北海道立近代美術館は非常に早い方であり、その準備段階で個人美術館が設立されたことは僥倖である。ひとえに妻の功績であろう。

 その妻に対して、好太郎は決してよい夫ではなかった。裕福に育った節子の実家の援助があってやっと維持した結婚生活であり、アトリエも建ててもらう。おしゃれで旅行と女の好きな好太郎の収入はほぼ自分だけのために消費され、重ねる浮気に節子は怒り狂った。それでも節子は残された3人の子を育て、彼の遺作を捨てなかった。

 三岸好太郎とはどういう男だったのか。愛嬌のある明るい色調の中に、暗い情熱を潜めた貝と蝶は、好太郎その人であるのだろう。

INFO & ACCESS

札幌市中央区北2条西15丁目
tel. 011-644-8901月曜、年末年始休館。館内にカフェ「きねずみ」あり。グッズ販売も。地下鉄東西線西18丁目駅4番出口徒歩7分

三岸好太郎《飛ぶ蝶》1934年 北海道立三岸好太郎美術館蔵
三岸好太郎《飛ぶ蝶》1934年 北海道立三岸好太郎美術館蔵

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