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VOL23:荒井工芸館

《異次元への扉》 1977年
《異次元への扉》 1977年

白老で創作木彫り作家・荒井修二の作品に出会う

 畳より一回りか二回り大きな2枚扉を左右に引いて荒井工芸館に入る。中は暗くて、いろいろなものが一杯に蠢いている。しかし振り返って見れば、扉もそれほど大きくなく、何も動いてはいない。そんなおかしな印象を持ったのは、フクロウを抽象化したらしい扉の印象が強烈だからだろうか。

 作者は荒井修二。彫刻の専門教育を受けたことはなく、ある日マーロン・ブランドの映画で船の背景に映っていた彫刻を見て、魅入られたそうだ。状況からして、その彫刻はニューギニアのものだっただろうと思うが、詳細はわからない。

 荒井は札幌市円山地区の荒井山の持ち主の親戚で、父親も近隣に山を持っていたので、直径2メートル近い木材なども自由に切り出して彫刻の材料とすることが可能だった。また周囲には熊彫をするアイヌの人も沢山いて、同じ木彫をする上で見様見真似がしやすい環境でもあったに違いない。

 今、そのアトリエ兼店舗を見ると、たくさんの熊彫があるが彼自身の彫った熊は皆無だという。弟子たちが熊を彫るのを指導はしたが、自分ではリアルなものを彫ったことはないという。彼の関心は南太平洋の彫刻のようなうねる曲線などの抽象に向かっていた。フクロウの造形を目指したのではなく、彼の感じた生命なのだろう。しかし最近の作品を見ると円空や木喰にも似た枯れた味わいにたどり着いたらしい。木が自然と望んで現れてくるという。

 それはどこか砂澤ビッキの晩年をも思わせた。ビッキと比べられるのは本人は不本意だろうけれど、ビッキが望んだのも同じようなことだったと思う。最後は具象も抽象もないのだろう。

創作木彫 荒井工芸館
白老郡白老町大町 3-3-26 tel. 0144-82-2823
10〜16時
食事もできる。予約等は問合せを。
JR白老駅から徒歩約5分
白老ICから車で約6分

工芸館入口付近
工芸館入口付近

※「常設に会いに行くは」今回が最終回となります。
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