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VOL21:北海道立釧路芸術館

長倉洋海<山の学校:学校に向かう子どもたち>
長倉洋海<山の学校:学校に向かう子どもたち>2012(平成24)年インクジェットプリント、99.7×149.6cm 北海道立釧路芸術館蔵

充実した写真コレクション

 釧路芸術館は写真のコレクションが充実している。地方美術館の存立基盤の一つは当該地域の芸術の発展に寄与することであるからそこの出身または在住の芸術家の作品を収蔵することに熱心なのだが、釧路出身の写真家は結構多い。その一人が長倉洋海(ひろみ)である。

 ドキュメンタリー写真家である長倉は南アフリカ、中東、東南アジア、南米などをフィールドに選ぶ。戦場カメラマンという呼称すらあるが、彼は戦場のみならず、人々の普通の暮らしを撮る。ちょうど、金田卓也の絵本「アブドルのぼうけん」のように。

 多くの日本人が知っているアフガニスタンは、ソ連侵攻後の戦場になったアフガニスタンである。しかし「アブドルのぼうけん」は侵攻の前、豊かな野菜や果物の実りで知られたイスラムの平和な時代に、子供だけで街へ行くという冒険をしてみた村の少年たちを描く。

 長倉の「山の学校:学校に向かう子供たち」は、戦場となった後も学校に向かう子供たちの日常を撮る。その笑顔はどうだろう。子供にとって学校は欠かすことができない暮らしである。大規模な伝統工法による灌漑をして農地を取り戻した中村哲医師が守ろうとしたのも普通の暮らしである。軍事指導者として英雄と称えられたマスードも「未来を創るのは子ども達。戦争が終わってからでは遅い。今から子どもたちの教育が必要」と語ったという。

 いつでもどこでも子ども達は希望である。アフガニスタンでもウクライナでも日本でも、子ども達は安心して落ち着いて学校へ通う権利を持っている。しかし、私がここに名前をあげたマスード氏も中村氏もテロで殺された。生きて帰った者のできるのは死を賭して守ったことを伝えることであり、行かなかった者はそれを知る義務があるのではないだろうか。例えば、このような写真を見ることによって。そのようにして、私たちは普通の日常を守るのである。
乾淑子(美術史家)

北海道立釧路芸術館

釧路市幸町4丁目1-5 tel. 0154-23-2381
開館時間9:30~17:00
休館日:月曜休館(祝日等の場合は翌日)、年末年始(12月29日から1月3日)
釧路駅より徒歩約15分、釧路空港より市内行き連絡バス約50分(フィッシャーマンズワーフMOO下車徒歩2分)

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