このWebサイトの全ての機能を利用するためにはJavaScriptを有効にする必要があります。
>HOME >「常設」に会いに行く >「市立小樽美術館」(2022/2/21)

VOL11:市立小樽美術館

一原有徳《LLC(a)》1961年
一原有徳《LLC(a)》1961年

文学館と隣り合った美術館で出会う小樽の作家たち

 市立小樽美術館は小樽文学館と同じ建物・市役所分館の中にある。旧手宮線の線路にも面してなかなか趣のある場所である。私が訪れた時は雪に埋まっていたが、熱心な撮りテツだろうか、雪中の線路を角度を変え距離を変え、何度も何度も撮っていた。
 市立美術館の役割として郷土の作家の作品を収蔵するのは当然であるが、幸運なことに一原有徳がここに住んだことから、その作品を多く所蔵し、郷土の作家でなおかつ同時代にエポックメイキングな作品群を所蔵することになった。
 版画家である一原のアトリエも館内に再現されている。奥には大きなプレス機がドドーンと鎮座し、かわいい簡易薪ストーブが手前にある。このストーブも時々は版画の道具で、鉄の鋳型をストーブで焼いてはジュウッと画面に押しつけていたという。一原に言わせれば焼き印も版画らしい。
 何と言っても一原の魅力は無機質なようで不思議な生命感のあるモノトーンの画面だろう。見たことのあるような無いようなブツブツとうねるモノが画面を覆う。その突起は丸くまた四角く波打ち、時には長く突き出す。その画面を見ると私は真っ先に小学生の頃の謄写版を思い出す。もちろん謄写版はずっとおとなしくてお行儀の良い文字が並んでいたのだが。巨大な画面を覆う単色は禁欲的でもあり、しつこく粘着質でもある。これを作った人の精神の有り様もまたそのようであったのだろうか。
 他にも洋画家の中村善策の記念ホールもあり、すでに少し収蔵されている羽山雅愉の小樽風景などの展覧会も開かれている。ここの強みは先にも述べた通り文学館と隣り合っていることである。コラボ企画が沢山できそうな立地でもある。例えば手宮のフゴッペ洞窟と三岸光太郎と児童画に共通する線画の人物像。鉄道文学と鉄道絵画。羽山雅愉とベネチアを描いたカナレットに見る現実とファンタジーの運河風景。一原有徳は版画における具体美術的でもあり、遊興的な石原裕次郎の時代の人でもあるのだ。絵画や文学に新しい切り口を見つけるという意味では素晴らしくポテンシャルの高い美術館である。

市立小樽美術館
9:30〜17:00(入館は16:30まで)休館:月曜・祝日の翌日(ただし土・日・祝の場合は休まず翌平日に振替)、年末年始(12月29日〜1月3日)
JR小樽駅から徒歩約10分。一般300円。文学館との共通券
(一般500円もあり)詳しくはお問い合わせください。
小樽市色内1丁目9番5号 TEL: 0134-34-0035
館内に再現されている一原のアトリエ
館内に再現されている一原のアトリエ

全文を読むにはログインしてください。

メールアドレス
パスワード
自動ログイン

「常設」に会いに行く バックナンバー

「常設」に会いに行く vol.23 2023年2月20日

荒井工芸館

白老で創作木彫り作家・荒井修二の作品に出会う読む

「常設」に会いに行く vol.22 2023年1月16日

有島記念館

美術館の個性は常設コレクションにあり!北海道内の美術館の「常設展」を訪ねます。読む

「常設」に会いに行く vol.21 2022年12月19日

北海道立釧路芸術館

釧路芸術館は写真のコレクションが充実している。読む

「常設」に会いに行く vol.20 2022年11月21日

モエレ沼公園

大地に刻んだイサム・ノグチの夢読む

「常設」に会いに行く vol.19 2022年10月17日

北一ヴェネツィア美術館

北一ヴェネツィア美術館は、株式会社北一硝子が建てたヴェネツィア風の建物に本場ヴェネツィアのガラスを招いて作った美術館である。読む

「常設」に会いに行く vol.18 2022年9月20日

木田金次郎美術館

中学の国語の教科書に載っていた『生れ出づる悩み』が、有島武郎を読んだ初めだった。読む

「常設」に会いに行く vol.17 2022年8月15日

ニトリの小樽芸術村に4月に加わったアールヌーヴォーの館

この春に小樽で開館したばかりの西洋美術館にはステンドグラス、アールヌーヴォーのガラス、近代のブロンズ彫刻などの他に家具がある。読む

「常設」に会いに行く vol.16 2022年7月19日

苫小牧市美術博物館

苫小牧市美術博物館はその名の通り、博物館と美術館の両方の機能を持つ。もっとも英語では同じくミュージアムであるが。読む

「常設」に会いに行く vol.15 2022年6月20日

相原求一朗美術館(中札内)

中札内村にある六花亭アートヴィレッジで、もっともよくそのコンセプトを表すのは相原求一朗美術館ではないかと私は思う。読む

「常設」に会いに行く vol.14 2022年5月16日

第一洋食店(苫小牧)

 2019年に苫小牧市美術博物館で『特別展 第一洋食店の100年と苫小牧』が開催された。読む

「常設」に会いに行く vol.13 2022年4月18日

国立アイヌ民族博物館(ウポポイ内)

5月15日までウポポイで開催されているテーマ展「白老の衣服文化」はウポポイの収蔵品を中心に各地の館からも貸借しての意欲的な展示である。読む

「常設」に会いに行く vol.12 2022年3月22日

芸術の森美術館

 札幌芸術の森美術館ではこの3月13日まで『きみのみかた みんなのみかた』と題した展覧会を開催していた。これは収蔵品の「みかた」について一つの視点を提示し、鑑賞の幅を広げようという企画である。読む

「常設」に会いに行く vol.11 2022年2月21日

市立小樽美術館

文学館と隣り合った美術館で出会う小樽の作家たち読む

「常設」に会いに行く vol.10 2022年1月17日

小樽芸術村 ステンドグラス美術館

 「ステンドグラス美術館」はニトリが運営する小樽芸術村の中にある。旧高橋倉庫と旧荒田商会の歴史的建造物を再生して、小樽の古い町並みを保存する一助ともなっている。読む

「常設」に会いに行く vol.9 2021年12月20日

本郷新記念札幌彫刻美術館

宮の森の本郷新記念彫刻美術館への道を登っていくと、途中の松の木の下でブロンズ製の乙女がギターを奏でていた。読む

「常設」に会いに行く vol.8 2021年11月16日

北海道立近代美術館

 道立近代美術館は、大きな企画を持ってくる所と一般的には思われている。ゴッホ展などにはたった2、3ヶ月の会期中に何十万人も入る。しかし実は5000点以上の収蔵品を持つ大きな美術館でもある。読む

「常設」に会いに行く vol.7 2021年10月18日

札幌芸術の森野外美術館 気持ちよい屋外空間で出会う作品群

 札幌芸術の森野外美術館はとても気持ちの良い美術館だ。野外美術館はどこもそうかもしれない。読む

「常設」に会いに行く vol.6 2021年9月21日

北海道立帯広美術館 自然との対話

 広い広いどこまでも続く土地。私たちが帯広と聞いてイメージするのはそういう風景である。読む

「常設」に会いに行く vol.5 2021年8月16日

中原悌二郎記念旭川市彫刻美術館 ブロンズと友情の作家

中原悌二郎(1888〜1921)といえば、東京新宿中村屋を連想せざるを得ないだろう。読む

「常設」に会いに行く vol.4 2021年7月19日

北海道立函館美術館 西洋文化の窓口、東洋美術の精華

 北海道立函館美術館は、道内では最も早く開けた土地柄からして古くからの文化があり、特に書に関するコレクションが充実している。読む

「常設」に会いに行く vol.3 2021年6月21日

小川原脩記念美術館 失意と回復の狭間で

小川原脩(おがわらしゅう)(1911〜2002)は北海道以外の地域で意外に知られる画家である。読む

「常設」に会いに行く vol.2 2021年5月17日

北海道立旭川美術館 北の木工を支える人々

美術館の存立理由は世界中から借りてくる名品を展示する企画展にではなく、その館が所有する所蔵品にある。読む

「常設」に会いに行く vol.1 2021年4月19日

北海道立三岸好太郎美術館

三岸好太郎の代表作は?と副館長・五十嵐聡美氏に問うと「のんびり貝」と「飛ぶ蝶」だという返事が返ってきた。読む

先頭へ戻る