このWebサイトの全ての機能を利用するためにはJavaScriptを有効にする必要があります。
>HOME >「常設」に会いに行く >「北海道立帯広美術館 自然との対話」(2021/9/21)

VOL6:北海道立帯広美術館 自然との対話

ジャン=フェルディナン・シェニョー 《草原の羊飼いの少女と羊の群れ》 1863年  油彩、キャンバス     北海道立帯広美術館蔵
ジャン=フェルディナン・シェニョー 《草原の羊飼いの少女と羊の群れ》 1863年 油彩、キャンバス 北海道立帯広美術館蔵

 広い広いどこまでも続く土地。私たちが帯広と聞いてイメージするのはそういう風景である。そこは今の季節なら緑の絨毯で、様々な農作物が実る風景である。それはまた帯広のみならず、北海道という農業大国のイメージである。つまり帯広・十勝地方はある意味で、最も北海道らしい土地なのである。

 その帯広の森の中にある道立帯広美術館のコレクションにはフランスのバルビゾン派の作品が収蔵されている。明るい光の中で大地に生き農業に向き合う素朴な人々や風景を描いたバルビゾン派の絵画は、この美術館の中でとてもリラックスしているに違いない。

 ジャン=フェルディナン・シェニョー《草原の羊飼いの少女と羊の群れ》は、まさにそういう一点である。光の中を羊たちと共に、家路をめざす。そこは刈り取られた麦畑であり、おそらく羊たちは落ち穂を食べているので、歩みが遅くなっている。画面の右端には一匹の牧羊犬が立ち止まっている。麦も羊も帯広であっても何ら不思議ではない。少女の服装だけがこれは日本ではない、と感じさせるのである。

 地元の作家・岡沼淳一の《雨のち晴れ》は埋もれ木による抽象彫刻である。岡沼は長く道内の彫刻界の重鎮として活躍し、一昨年に亡くなった。写真ではなかなか伝わらないが、作者は埋もれ木の質感に魅されたのだろう。多くの関連作品がある。自然界で変化を受けた材料というと思い起こされるのは砂澤ビッキの《四つの風》である。すでに風化して掘り起こされた木と、これから風化していくに任せる木との違いはあるが、自然の力に身を任せての造形という共通点がある。

 農民美術の先達は、長野県における実践運動、山梨県におけるミレー作品の収集などがある。これらの伝統の中に今後、道立帯広美術館はどう位置づけられて行くのだろうか。

INFO&ACCESS

帯広市緑ヶ丘2番地 tel:0155-22-6963
9:00〜17:00(入館は16:30まで)。休館:月曜日(会期中月曜日が祝日・休日に重なった場合は開館し翌平日が休館)、年末年始、展示替え等による臨時休館日。
一般 260(210)円、高大生 150(110)円
※中学生以下及び65歳以上の方、障害者手帳をお持ちの方等は無料
※( )内は10名以上の団体料金

詳細はお問い合わせ下さい。

岡沼淳一《雨のち晴れ》 2017年  埋もれ木(ニレ)北海道立美術館蔵
岡沼淳一《雨のち晴れ》 2017年 埋もれ木(ニレ)北海道立美術館蔵

全文を読むにはログインしてください。

メールアドレス
パスワード
自動ログイン

「常設」に会いに行く バックナンバー

「常設」に会いに行く vol.23 2023年2月20日

荒井工芸館

白老で創作木彫り作家・荒井修二の作品に出会う読む

「常設」に会いに行く vol.22 2023年1月16日

有島記念館

美術館の個性は常設コレクションにあり!北海道内の美術館の「常設展」を訪ねます。読む

「常設」に会いに行く vol.21 2022年12月19日

北海道立釧路芸術館

釧路芸術館は写真のコレクションが充実している。読む

「常設」に会いに行く vol.20 2022年11月21日

モエレ沼公園

大地に刻んだイサム・ノグチの夢読む

「常設」に会いに行く vol.19 2022年10月17日

北一ヴェネツィア美術館

北一ヴェネツィア美術館は、株式会社北一硝子が建てたヴェネツィア風の建物に本場ヴェネツィアのガラスを招いて作った美術館である。読む

「常設」に会いに行く vol.18 2022年9月20日

木田金次郎美術館

中学の国語の教科書に載っていた『生れ出づる悩み』が、有島武郎を読んだ初めだった。読む

「常設」に会いに行く vol.17 2022年8月15日

ニトリの小樽芸術村に4月に加わったアールヌーヴォーの館

この春に小樽で開館したばかりの西洋美術館にはステンドグラス、アールヌーヴォーのガラス、近代のブロンズ彫刻などの他に家具がある。読む

「常設」に会いに行く vol.16 2022年7月19日

苫小牧市美術博物館

苫小牧市美術博物館はその名の通り、博物館と美術館の両方の機能を持つ。もっとも英語では同じくミュージアムであるが。読む

「常設」に会いに行く vol.15 2022年6月20日

相原求一朗美術館(中札内)

中札内村にある六花亭アートヴィレッジで、もっともよくそのコンセプトを表すのは相原求一朗美術館ではないかと私は思う。読む

「常設」に会いに行く vol.14 2022年5月16日

第一洋食店(苫小牧)

 2019年に苫小牧市美術博物館で『特別展 第一洋食店の100年と苫小牧』が開催された。読む

「常設」に会いに行く vol.13 2022年4月18日

国立アイヌ民族博物館(ウポポイ内)

5月15日までウポポイで開催されているテーマ展「白老の衣服文化」はウポポイの収蔵品を中心に各地の館からも貸借しての意欲的な展示である。読む

「常設」に会いに行く vol.12 2022年3月22日

芸術の森美術館

 札幌芸術の森美術館ではこの3月13日まで『きみのみかた みんなのみかた』と題した展覧会を開催していた。これは収蔵品の「みかた」について一つの視点を提示し、鑑賞の幅を広げようという企画である。読む

「常設」に会いに行く vol.11 2022年2月21日

市立小樽美術館

文学館と隣り合った美術館で出会う小樽の作家たち読む

「常設」に会いに行く vol.10 2022年1月17日

小樽芸術村 ステンドグラス美術館

 「ステンドグラス美術館」はニトリが運営する小樽芸術村の中にある。旧高橋倉庫と旧荒田商会の歴史的建造物を再生して、小樽の古い町並みを保存する一助ともなっている。読む

「常設」に会いに行く vol.9 2021年12月20日

本郷新記念札幌彫刻美術館

宮の森の本郷新記念彫刻美術館への道を登っていくと、途中の松の木の下でブロンズ製の乙女がギターを奏でていた。読む

「常設」に会いに行く vol.8 2021年11月16日

北海道立近代美術館

 道立近代美術館は、大きな企画を持ってくる所と一般的には思われている。ゴッホ展などにはたった2、3ヶ月の会期中に何十万人も入る。しかし実は5000点以上の収蔵品を持つ大きな美術館でもある。読む

「常設」に会いに行く vol.7 2021年10月18日

札幌芸術の森野外美術館 気持ちよい屋外空間で出会う作品群

 札幌芸術の森野外美術館はとても気持ちの良い美術館だ。野外美術館はどこもそうかもしれない。読む

「常設」に会いに行く vol.6 2021年9月21日

北海道立帯広美術館 自然との対話

 広い広いどこまでも続く土地。私たちが帯広と聞いてイメージするのはそういう風景である。読む

「常設」に会いに行く vol.5 2021年8月16日

中原悌二郎記念旭川市彫刻美術館 ブロンズと友情の作家

中原悌二郎(1888〜1921)といえば、東京新宿中村屋を連想せざるを得ないだろう。読む

「常設」に会いに行く vol.4 2021年7月19日

北海道立函館美術館 西洋文化の窓口、東洋美術の精華

 北海道立函館美術館は、道内では最も早く開けた土地柄からして古くからの文化があり、特に書に関するコレクションが充実している。読む

「常設」に会いに行く vol.3 2021年6月21日

小川原脩記念美術館 失意と回復の狭間で

小川原脩(おがわらしゅう)(1911〜2002)は北海道以外の地域で意外に知られる画家である。読む

「常設」に会いに行く vol.2 2021年5月17日

北海道立旭川美術館 北の木工を支える人々

美術館の存立理由は世界中から借りてくる名品を展示する企画展にではなく、その館が所有する所蔵品にある。読む

「常設」に会いに行く vol.1 2021年4月19日

北海道立三岸好太郎美術館

三岸好太郎の代表作は?と副館長・五十嵐聡美氏に問うと「のんびり貝」と「飛ぶ蝶」だという返事が返ってきた。読む

先頭へ戻る