このWebサイトの全ての機能を利用するためにはJavaScriptを有効にする必要があります。
>HOME >「常設」に会いに行く >「小樽芸術村 ステンドグラス美術館」(2022/1/17)

VOL10:小樽芸術村 ステンドグラス美術館

《善きサマリア人》19世紀末〜20世紀初頭頃
《善きサマリア人》19世紀末〜20世紀初頭頃

小樽芸術村 ステンドグラス美術館
~北海道の美術館散歩~ 乾淑子(美術史家)

 「ステンドグラス美術館」はニトリが運営する小樽芸術村の中にある。旧高橋倉庫と旧荒田商会の歴史的建造物を再生して、小樽の古い町並みを保存する一助ともなっている。大豆倉庫がこんなに頑丈に作られているとは、我々の命を支える穀物はなんと重いのだろう。

 内部には19世紀後半からのイギリスのステンドグラスが35組、98点展示されている。これは古い教会の取り壊しなどに際して取り外されたものを保存、購入し、2016年に開館した。

 19世紀の後半といえばイギリスはビクトリア女王の時代で、インドを初めとする世界中に所有した植民地からの収奪で経済的には盛期を極め、内国的には蒸気機関をはじめとする近代科学、化学の応用としての工学が華開いた時だった。

 国の隅々にまで物流網を整備し、石炭の煙は暖房からも工場や汽船・鉄道の蒸気機関からも排出された。

木綿などの原材料を輸入して工業製品として輸出し、珍しい国々の産物を愛でた。万国博覧会が開かれ人々の目は世界に向かった。だから単純に古いキリスト教の教えをステンドグラス化するだけではなく、中世の世界観で形成された宗教画としての規則と、近代人としての目が捉えた中東の故事であるキリストの物語を、フランドルやルネサンスのイタリアともやや違う様式で表現した。

 アクロバティックなまでのガラス工芸を生んだベネチアを擁しながら、芸術の母であるイタリアではなぜステンドグラスが発達しなかったか。ベネチアの太陽の元ではキラキラしさは不要だったのだろう。昏いイギリスでステンドグラスが好まれた所以でもある。それは小樽にも通ずる。

 建物の重みを支える役割から解放されて自由に画面を作る結果として、色面は広がり明るくなった。食事の場面、農耕の場面がキリストや聖人の物語を語りながら、再現される。時にキリストは貴族のように装い、農民は中世のヨーロッパ人で、矛盾をはらんだ表現ながら、世俗の現代人である我々からは想像しがたいほどの痛苦をも受容する。聖人たちは時に法悦に歓喜し、痛苦もさりげないものに変容する。それはまさに光の幻術という他にない。

INFO&ACCESS
小樽芸術村 ステンドグラス美術館(旧高橋倉庫)
[11~4月] 10:00~16:00  休館は毎週水曜(祝日の場合はその翌日)、年末年始   
[5~10月] 9:30〜17:00(無休)
ステンドグラス美術館入館料は一般700円。共通券もあり。詳しくはお問い合わせください。
小樽市色内1丁目3-1   TEL:0134-31-1033


「常設」に会いに行く バックナンバー

Vol.20NEW!

モエレ沼公園

大地に刻んだイサム・ノグチの夢…

Vol.19

北一ヴェネツィア美術館

北一ヴェネツィア美術館は、株式会社北一硝子が建てたヴェネツィア風の建物に本場ヴェネツィアのガラスを招いて作った美術館であ…

Vol.18

木田金次郎美術館

中学の国語の教科書に載っていた『生れ出づる悩み』が、有島武郎を読んだ初めだった。…

Vol.17

ニトリの小樽芸術村に4月に加わったアールヌーヴォーの館

この春に小樽で開館したばかりの西洋美術館にはステンドグラス、アールヌーヴォーのガラス、近代のブロンズ彫刻などの他に家具が…

Vol.16

苫小牧市美術博物館

苫小牧市美術博物館はその名の通り、博物館と美術館の両方の機能を持つ。もっとも英語では同じくミュージアムであるが。…

Vol.15

相原求一朗美術館(中札内)

中札内村にある六花亭アートヴィレッジで、もっともよくそのコンセプトを表すのは相原求一朗美術館ではないかと私は思う。…

Vol.14

第一洋食店(苫小牧)

 2019年に苫小牧市美術博物館で『特別展 第一洋食店の100年と苫小牧』が開催された。…

Vol.13

国立アイヌ民族博物館(ウポポイ内)

5月15日までウポポイで開催されているテーマ展「白老の衣服文化」はウポポイの収蔵品を中心に各地の館からも貸借しての意欲的…

Vol.12

芸術の森美術館

 札幌芸術の森美術館ではこの3月13日まで『きみのみかた みんなのみかた』と題した展覧会を開催していた。これは収蔵品の「…

Vol.11

市立小樽美術館

文学館と隣り合った美術館で出会う小樽の作家たち…

Vol.10

小樽芸術村 ステンドグラス美術館

 「ステンドグラス美術館」はニトリが運営する小樽芸術村の中にある。旧高橋倉庫と旧荒田商会の歴史的建造物を再生して、小樽の…

Vol.9

本郷新記念札幌彫刻美術館

宮の森の本郷新記念彫刻美術館への道を登っていくと、途中の松の木の下でブロンズ製の乙女がギターを奏でていた。…

Vol.8

北海道立近代美術館

 道立近代美術館は、大きな企画を持ってくる所と一般的には思われている。ゴッホ展などにはたった2、3ヶ月の会期中に何十万人…

Vol.7

札幌芸術の森野外美術館 気持ちよい屋外空間で出会う作品群

 札幌芸術の森野外美術館はとても気持ちの良い美術館だ。野外美術館はどこもそうかもしれない。…

Vol.6

北海道立帯広美術館 自然との対話

 広い広いどこまでも続く土地。私たちが帯広と聞いてイメージするのはそういう風景である。…

Vol.5

中原悌二郎記念旭川市彫刻美術館 ブロンズと友情の作家

中原悌二郎(1888〜1921)といえば、東京新宿中村屋を連想せざるを得ないだろう。…

Vol.4

北海道立函館美術館 西洋文化の窓口、東洋美術の精華

 北海道立函館美術館は、道内では最も早く開けた土地柄からして古くからの文化があり、特に書に関するコレクションが充実してい…

Vol.3

小川原脩記念美術館 失意と回復の狭間で

小川原脩(おがわらしゅう)(1911〜2002)は北海道以外の地域で意外に知られる画家である。…

Vol.2

北海道立旭川美術館 北の木工を支える人々

美術館の存立理由は世界中から借りてくる名品を展示する企画展にではなく、その館が所有する所蔵品にある。…

Vol.1

北海道立三岸好太郎美術館

三岸好太郎の代表作は?と副館長・五十嵐聡美氏に問うと「のんびり貝」と「飛ぶ蝶」だという返事が返ってきた。…

先頭へ戻る