このWebサイトの全ての機能を利用するためにはJavaScriptを有効にする必要があります。
>HOME >「常設」に会いに行く >「本郷新記念札幌彫刻美術館」(2021/12/20)

VOL9:本郷新記念札幌彫刻美術館

本郷新《わだつみの声》(部分) 1950年
本郷新《わだつみの声》(部分) 1950年

札幌を代表する彫刻家、本郷の旧居に展示された作品群

 宮の森の本郷新記念彫刻美術館への道を登っていくと、途中の松の木の下でブロンズ製の乙女がギターを奏でていた。ここはすでに本郷の世界なのだった。もう少し上がると見えてくる美術館の建物は本郷新の旧居である。札幌の建築家・上遠野徹の設計による立派な邸宅で、新築時には日本の野外彫刻を牽引し功成り名を遂げていた本郷にふさわしく、展示用のギャラリーを併設したアトリエ兼住居であった。竣工から3年目には74才で亡くなってしまった本郷の作品を収めて、住居部分も改装して記念美術館分館とし、隣にもう一つの展示本館を新設した。

 本郷の活躍したのは戦後の日本が豊かになり、各地に本郷自身の作品を含めて膨大なモニュメントが建てられた時期だった。北海道から九州まで主な野外彫刻だけでも40カ所近く、北海道内だけでも野外には60点を超え、それらのブロンズ像の元になった石膏など400点の彫刻作品を含む1800点のデッサン、資料等を持つ。冒頭に述べたような小さなブロンズ像まで含めれば、どれほどあるのだろう。

 それらを親しく見られ作者の息吹が感じられる記念館分館に、ところ狭しとひしめくように並ぶ石膏の大彫刻を見ると、西洋由来の日本近代彫刻の本道を進んだ本郷が迫ってくるようだ。

 一転、広い窓から札幌の町を眺め降ろす2階のギャラリーに並ぶ40センチほどの小像の一群を見ると、さまざまなポーズを楽しむように、老人や乙女や子供を次々と作り上げた作者の自信が垣間見られる。

 他に、本館では3年に一度、本郷新記念札幌彫刻賞を若手彫刻家に贈っている。今年の作家は高橋喜代史のコンセプチュアルな作品群であった。立命館大学にも収蔵されている本郷の「わだつみの声」で受けた日本平和文化賞の系譜でもあろうか。

 高級住宅地の緑の芝生が似合うだけではなく、時代と共に歩く賞なのであろう。

本郷新《奏でる乙女》1954年
本郷新記念札幌彫刻美術館
料金:一般 200(150)円 、65歳以上150(120)円、高大生 100(50)円※( )内は、10名以上の団体料金。
開館時間: 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日: 月曜日(祝日等の場合は開館、翌日休館)、年末年始(12月29日~1月3日)、展示替え期間
札幌市中央区宮の森4条12丁目
地下鉄東西線「西28丁目」駅よりタクシーで約5分
無料駐車場10台有。011-642-5709 詳細はお問い合わせを。

全文を読むにはログインしてください。

メールアドレス
パスワード
自動ログイン

「常設」に会いに行く バックナンバー

「常設」に会いに行く vol.23 2023年2月20日

荒井工芸館

白老で創作木彫り作家・荒井修二の作品に出会う読む

「常設」に会いに行く vol.22 2023年1月16日

有島記念館

美術館の個性は常設コレクションにあり!北海道内の美術館の「常設展」を訪ねます。読む

「常設」に会いに行く vol.21 2022年12月19日

北海道立釧路芸術館

釧路芸術館は写真のコレクションが充実している。読む

「常設」に会いに行く vol.20 2022年11月21日

モエレ沼公園

大地に刻んだイサム・ノグチの夢読む

「常設」に会いに行く vol.19 2022年10月17日

北一ヴェネツィア美術館

北一ヴェネツィア美術館は、株式会社北一硝子が建てたヴェネツィア風の建物に本場ヴェネツィアのガラスを招いて作った美術館である。読む

「常設」に会いに行く vol.18 2022年9月20日

木田金次郎美術館

中学の国語の教科書に載っていた『生れ出づる悩み』が、有島武郎を読んだ初めだった。読む

「常設」に会いに行く vol.17 2022年8月15日

ニトリの小樽芸術村に4月に加わったアールヌーヴォーの館

この春に小樽で開館したばかりの西洋美術館にはステンドグラス、アールヌーヴォーのガラス、近代のブロンズ彫刻などの他に家具がある。読む

「常設」に会いに行く vol.16 2022年7月19日

苫小牧市美術博物館

苫小牧市美術博物館はその名の通り、博物館と美術館の両方の機能を持つ。もっとも英語では同じくミュージアムであるが。読む

「常設」に会いに行く vol.15 2022年6月20日

相原求一朗美術館(中札内)

中札内村にある六花亭アートヴィレッジで、もっともよくそのコンセプトを表すのは相原求一朗美術館ではないかと私は思う。読む

「常設」に会いに行く vol.14 2022年5月16日

第一洋食店(苫小牧)

 2019年に苫小牧市美術博物館で『特別展 第一洋食店の100年と苫小牧』が開催された。読む

「常設」に会いに行く vol.13 2022年4月18日

国立アイヌ民族博物館(ウポポイ内)

5月15日までウポポイで開催されているテーマ展「白老の衣服文化」はウポポイの収蔵品を中心に各地の館からも貸借しての意欲的な展示である。読む

「常設」に会いに行く vol.12 2022年3月22日

芸術の森美術館

 札幌芸術の森美術館ではこの3月13日まで『きみのみかた みんなのみかた』と題した展覧会を開催していた。これは収蔵品の「みかた」について一つの視点を提示し、鑑賞の幅を広げようという企画である。読む

「常設」に会いに行く vol.11 2022年2月21日

市立小樽美術館

文学館と隣り合った美術館で出会う小樽の作家たち読む

「常設」に会いに行く vol.10 2022年1月17日

小樽芸術村 ステンドグラス美術館

 「ステンドグラス美術館」はニトリが運営する小樽芸術村の中にある。旧高橋倉庫と旧荒田商会の歴史的建造物を再生して、小樽の古い町並みを保存する一助ともなっている。読む

「常設」に会いに行く vol.9 2021年12月20日

本郷新記念札幌彫刻美術館

宮の森の本郷新記念彫刻美術館への道を登っていくと、途中の松の木の下でブロンズ製の乙女がギターを奏でていた。読む

「常設」に会いに行く vol.8 2021年11月16日

北海道立近代美術館

 道立近代美術館は、大きな企画を持ってくる所と一般的には思われている。ゴッホ展などにはたった2、3ヶ月の会期中に何十万人も入る。しかし実は5000点以上の収蔵品を持つ大きな美術館でもある。読む

「常設」に会いに行く vol.7 2021年10月18日

札幌芸術の森野外美術館 気持ちよい屋外空間で出会う作品群

 札幌芸術の森野外美術館はとても気持ちの良い美術館だ。野外美術館はどこもそうかもしれない。読む

「常設」に会いに行く vol.6 2021年9月21日

北海道立帯広美術館 自然との対話

 広い広いどこまでも続く土地。私たちが帯広と聞いてイメージするのはそういう風景である。読む

「常設」に会いに行く vol.5 2021年8月16日

中原悌二郎記念旭川市彫刻美術館 ブロンズと友情の作家

中原悌二郎(1888〜1921)といえば、東京新宿中村屋を連想せざるを得ないだろう。読む

「常設」に会いに行く vol.4 2021年7月19日

北海道立函館美術館 西洋文化の窓口、東洋美術の精華

 北海道立函館美術館は、道内では最も早く開けた土地柄からして古くからの文化があり、特に書に関するコレクションが充実している。読む

「常設」に会いに行く vol.3 2021年6月21日

小川原脩記念美術館 失意と回復の狭間で

小川原脩(おがわらしゅう)(1911〜2002)は北海道以外の地域で意外に知られる画家である。読む

「常設」に会いに行く vol.2 2021年5月17日

北海道立旭川美術館 北の木工を支える人々

美術館の存立理由は世界中から借りてくる名品を展示する企画展にではなく、その館が所有する所蔵品にある。読む

「常設」に会いに行く vol.1 2021年4月19日

北海道立三岸好太郎美術館

三岸好太郎の代表作は?と副館長・五十嵐聡美氏に問うと「のんびり貝」と「飛ぶ蝶」だという返事が返ってきた。読む

先頭へ戻る