中札内村にある六花亭アートヴィレッジで、もっともよくそのコンセプトを表すのは相原求一朗美術館ではないかと私は思う。
1927年創業で1995年まで現役であった帯広湯という銭湯を移築改装した建物は札幌軟石製のあまり見たことのない洋風建築の湯屋である。これを見て銭湯だと即座に分かる人はどれほどいるだろう。敷地はあまり掘り返されたことがない落ち葉の堆積なのか、または堆肥を入れて非常によく耕されたのかフカフカで、こんな贅沢な土に建つ美術館は初めてだ。
求一朗は埼玉の人であるが、北の荒野をよく描いた。春の雪解けの畑、荒波の寄せる切り立つ海辺、雄渾な山々。それは兵として過酷な若い日を過ごした「赤い夕日の満州」への思いからだと言うから、これも一種の戦争画というべきなのだろうか。不本意に異国に連れていかれ酷い生活を送ることになった日々、場所を忘れられない、似た場所を繰り返し描きたいのはなぜなのか。香月泰男は満州以上に過酷な日々を過ごしたシベリアを生涯描いた。
酷くても喜びに溢れていても、拭い去れない思いという意味では同じことなのかもしれない。具体的な細部は語れないような兵士の日々。その中で斃(たお)れて失われた友。その語りたくても語れない思いをはき出せるのは求一朗の場合はよく似た北の風景だった。
今回の戦争で、ウクライナの女性がロシア兵に近づいて「このヒマワリの種をあげるからポケットに入れておきなさい。ウクライナの土地で死んだあなたの体からヒマワリが咲くように」と言ったユーチューブの画像が忘れられない。同じようなことを求一朗も満州で中国人から言われたのかもしれない。
中札内村栄東5線 tel. 0155-68-3003 JR帯広駅からバス(十勝バス大樹・広尾行き、約60分)で中札内美術村停留所下車、徒歩1分/車では帯広空港から約15分、JR帯広駅から約35分 開館:4月下旬~10月上旬の土日祝日、夏休み期間のみ開館。その他は休館。10:00~15:00 ※コロナの状況により営業時間等が変わる可能性があります。 詳しくはお問い合わせください。