このWebサイトの全ての機能を利用するためにはJavaScriptを有効にする必要があります。

画像:AFC アサヒファミリークラブのロゴマーク

>HOME >「常設」に会いに行く >「国立アイヌ民族博物館(ウポポイ内)」(2022/4/18)

VOL13:国立アイヌ民族博物館(ウポポイ内)

《ルウンペ》 江戸時代末期のもの
《ルウンペ》 江戸時代末期のもの


 5月15日までウポポイで開催されているテーマ展「白老の衣服文化」はウポポイの収蔵品を中心に各地の館からも貸借しての意欲的な展示である。白老地域の衣服はルウンペと言って紐状の細長い布と刺繍との模様が背や裾などにあるもので、例えば日高地方のカパラミプ(切り抜いた白布と刺繍による背一面の模様のあるもの)とは異なる。

 地域によってこのように様々な衣服があるのだが、それは家族に伝わる文様であった。しかし結婚すると実家と婚家の意匠を組み合わせて新しい模様を作ったりするので、必ずしも固定的なものではない。結婚に限らず女性たちは個人の新しい意匠の創出を楽しみ、頭をひねる。下地布にも工夫がこらされる。

 古い衣服を見ると高価な日本の生地が下地として用いられていることもある。明治期に木村フジヱ氏が着用した写真が残る例は彼女の祖母が江戸時代末に製作したとされる。そこに用いられているのは九州から山陰にかけて生産された精緻な絵絣2種で、この衣服に使われた分だけでも現在なら100万円くらいである。男性が着用した蝦夷錦と同様にこれほどのものは富の蓄積を表し、だから何代にも渡って丁寧に着つないできたのだろう。

 アイヌの社会は平等だとも言われるが、知力にすぐれた家系、特殊技能を持つ者などはある訳で、秀でた財力を有する家もある。和人社会から輸入される古手にも優れた意匠や品質のものが混じっていたのは秋田の西馬音内の踊り衣装に用いられた古手を見ても分かることで、現代の古着をイメージしてはならない。また絣は明治までは高価で、貧農の娘が着るものではなく、最低でも自作農以上の家庭でのみ可能な手間暇のかかる技術なのである。

 町場の庶民が用いるとしてもその場合は中流以上の家庭である。大正期に至っても例えば、新婚の柳宗悦が妻が掃除の時に着ていた紺絣の美しさに惹かれたように、柳家のような上流家庭の娘は着ないが、町医者の娘で東京音楽学校の生徒だった兼子夫人なら持っていたような着物である。

 このルウンペにしても紺絣の美しさをより効果的に見せるためのあっさりとした意匠であったように思う。

国立アイヌ民族博物館 ウポポイ(民族共生象徴空間)内
白老町若草町2丁目3
tel. 0144-82-3914
平日 9:00〜17:00 土日祝日 9:00〜18:00
閉園日 / 月曜日 年末年始(12月29日〜1月3日) ※月が祝日または休日の場合は翌日以降の平日
※コロナの状況により、入館予約や開館時間等が変更になる場合があります。詳しくはお問い合わせください。

全文を読むにはログインしてください。


「常設」に会いに行く バックナンバー

「常設」に会いに行く vol.23 2023年2月20日

荒井工芸館

白老で創作木彫り作家・荒井修二の作品に出会う読む

「常設」に会いに行く vol.22 2023年1月16日

有島記念館

美術館の個性は常設コレクションにあり!北海道内の美術館の「常設展」を訪ねます。読む

「常設」に会いに行く vol.21 2022年12月19日

北海道立釧路芸術館

釧路芸術館は写真のコレクションが充実している。読む

「常設」に会いに行く vol.20 2022年11月21日

モエレ沼公園

大地に刻んだイサム・ノグチの夢読む

「常設」に会いに行く vol.19 2022年10月17日

北一ヴェネツィア美術館

北一ヴェネツィア美術館は、株式会社北一硝子が建てたヴェネツィア風の建物に本場ヴェネツィアのガラスを招いて作った美術館である。読む

「常設」に会いに行く vol.18 2022年9月20日

木田金次郎美術館

中学の国語の教科書に載っていた『生れ出づる悩み』が、有島武郎を読んだ初めだった。読む

「常設」に会いに行く vol.17 2022年8月15日

ニトリの小樽芸術村に4月に加わったアールヌーヴォーの館

この春に小樽で開館したばかりの西洋美術館にはステンドグラス、アールヌーヴォーのガラス、近代のブロンズ彫刻などの他に家具がある。読む

「常設」に会いに行く vol.16 2022年7月19日

苫小牧市美術博物館

苫小牧市美術博物館はその名の通り、博物館と美術館の両方の機能を持つ。もっとも英語では同じくミュージアムであるが。読む

「常設」に会いに行く vol.15 2022年6月20日

相原求一朗美術館(中札内)

中札内村にある六花亭アートヴィレッジで、もっともよくそのコンセプトを表すのは相原求一朗美術館ではないかと私は思う。読む

「常設」に会いに行く vol.14 2022年5月16日

第一洋食店(苫小牧)

 2019年に苫小牧市美術博物館で『特別展 第一洋食店の100年と苫小牧』が開催された。読む

「常設」に会いに行く vol.13 2022年4月18日

国立アイヌ民族博物館(ウポポイ内)

5月15日までウポポイで開催されているテーマ展「白老の衣服文化」はウポポイの収蔵品を中心に各地の館からも貸借しての意欲的な展示である。読む

「常設」に会いに行く vol.12 2022年3月22日

芸術の森美術館

 札幌芸術の森美術館ではこの3月13日まで『きみのみかた みんなのみかた』と題した展覧会を開催していた。これは収蔵品の「みかた」について一つの視点を提示し、鑑賞の幅を広げようという企画である。読む

「常設」に会いに行く vol.11 2022年2月21日

市立小樽美術館

文学館と隣り合った美術館で出会う小樽の作家たち読む

「常設」に会いに行く vol.10 2022年1月17日

小樽芸術村 ステンドグラス美術館

 「ステンドグラス美術館」はニトリが運営する小樽芸術村の中にある。旧高橋倉庫と旧荒田商会の歴史的建造物を再生して、小樽の古い町並みを保存する一助ともなっている。読む

「常設」に会いに行く vol.9 2021年12月20日

本郷新記念札幌彫刻美術館

宮の森の本郷新記念彫刻美術館への道を登っていくと、途中の松の木の下でブロンズ製の乙女がギターを奏でていた。読む

「常設」に会いに行く vol.8 2021年11月16日

北海道立近代美術館

 道立近代美術館は、大きな企画を持ってくる所と一般的には思われている。ゴッホ展などにはたった2、3ヶ月の会期中に何十万人も入る。しかし実は5000点以上の収蔵品を持つ大きな美術館でもある。読む

「常設」に会いに行く vol.7 2021年10月18日

札幌芸術の森野外美術館 気持ちよい屋外空間で出会う作品群

 札幌芸術の森野外美術館はとても気持ちの良い美術館だ。野外美術館はどこもそうかもしれない。読む

「常設」に会いに行く vol.6 2021年9月21日

北海道立帯広美術館 自然との対話

 広い広いどこまでも続く土地。私たちが帯広と聞いてイメージするのはそういう風景である。読む

「常設」に会いに行く vol.5 2021年8月16日

中原悌二郎記念旭川市彫刻美術館 ブロンズと友情の作家

中原悌二郎(1888〜1921)といえば、東京新宿中村屋を連想せざるを得ないだろう。読む

「常設」に会いに行く vol.4 2021年7月19日

北海道立函館美術館 西洋文化の窓口、東洋美術の精華

 北海道立函館美術館は、道内では最も早く開けた土地柄からして古くからの文化があり、特に書に関するコレクションが充実している。読む

「常設」に会いに行く vol.3 2021年6月21日

小川原脩記念美術館 失意と回復の狭間で

小川原脩(おがわらしゅう)(1911〜2002)は北海道以外の地域で意外に知られる画家である。読む

「常設」に会いに行く vol.2 2021年5月17日

北海道立旭川美術館 北の木工を支える人々

美術館の存立理由は世界中から借りてくる名品を展示する企画展にではなく、その館が所有する所蔵品にある。読む

「常設」に会いに行く vol.1 2021年4月19日

北海道立三岸好太郎美術館

三岸好太郎の代表作は?と副館長・五十嵐聡美氏に問うと「のんびり貝」と「飛ぶ蝶」だという返事が返ってきた。読む

先頭へ戻る