道立近代美術館は、大きな企画を持ってくる所と一般的には思われている。ゴッホ展などにはたった2、3ヶ月の会期中に何十万人も入る。しかし実は5000点以上の収蔵品を持つ大きな美術館でもある。
1977年に開館して以来、道内作家の作品などさまざまな由来や分野の作品を収蔵してきたが、ガラス工芸は収集の柱の一つである。ここではガラス工芸のコンテストを実施し、その中から優秀な作品を購入してきたが、その他にもアールヌーボ−、アールデコの作品も多数持っている。ルネ・ラリックはフランスの作家で、かつガラス工場経営者である。工芸が美術でもあり、同時に大量の生産と消費のサイクルに入った時代を代表する作家である。
たくさんの名品が知られるが、当館の所有する自動車のラジエーターカバーは、髪を大きくふくらませ、後になびかせて、風を感じさせる造形である。そのスピードの時代の表現は、馬車が自動車に変わった時代のものともいえよう。
デューラーの版画は鹿の角に現れた磔刑されたキリスト像を見て驚く瞬間を捉えたもので、改宗の瞬間のおののきと歓喜とに満ちている。中世の香りを残したヨーロッパの北方ルネサンスらしい作といえようか。
収蔵品の特徴は寄贈されたものが多いことである。国貞の版画は高橋コレクションであり500点以上に及ぶ。西洋版画の一部は友田コレクションであり、これも1800件近い。どちらも個人コレクションだ。篤志家たちによる寄贈がなければ道民はこれらを見ることはできなかったのである。全収蔵品が約5600点であることを考えると、非常に大きな割合であることがわかるだろう。
デューラーもルネ・ラリックも購入品であるが、今後はますます寄贈が増えていくことが予想される。地方財政の悪化により購入資金も減少の一途をたどっている。