このWebサイトの全ての機能を利用するためにはJavaScriptを有効にする必要があります。
>HOME >「常設」に会いに行く >「小川原脩記念美術館 失意と回復の狭間で」(2021/6/21)

VOL3:小川原脩記念美術館 失意と回復の狭間で

小川原脩《チベット讃歌》1982年/油彩
小川原脩《チベット讃歌》1982年/油彩

 小川原脩(おがわらしゅう)(1911〜2002)は北海道以外の地域で意外に知られる画家である。よく言及されるのは東京国立近代美術館に所蔵される「成都爆撃」(1945)と「アッツ島爆撃」(1942)である。言わずと知れた戦争画であり、これらが彼のその後の人生を方向付けた。当時の戦争画壇では藤田嗣治のような大物ではなかったにもかかわらず、戦後のパージに近い仕打ちを受けて中央画壇を去り、出身地の北海道に戻ったからである。

 その後、1980年代にチベット、中国、インドなどへの旅を経て新しい境地を開くまで、まあ不遇な画家であったと言えようか。犬や牛などの動物を風景の中に配する作品が多いことについて、不本意な日々に無垢な動物と自身を重ねたなどの解釈があるが、実際のことは、当然わからない。

 晩年に至り、本人による寄贈と小川原が戦後に定住した故郷・倶知安町による購入とを合わせて、この美術館ができた時、単に個人の名を関する記念美術館でよいのか、より普遍的な文化振興を目指す倶知安町立美術館と命名するべきかの議論があったそうだ。

 そのような意味で、現在の館長・柴勤氏の試みは当初の議論の両者を織り込んだものとなって、毎週の土曜サロン、隔週金曜日のフランス語講座などを実施している。土曜サロンは柴氏をはじめ、館の内外の人材による美術講座であり、その終了後には画家、近隣に長期滞在する道外の方々、外国人などからなる常連がお茶を飲み、語り合う場を提供している。(ただしコロナ禍にあって現在は、お茶会は休止している)

 またフランス語講座では30代から50代の比較的若い方々が熱心に学ぶ。さらに年に7〜8回ほどのコンサートでは、クラシックを主として、ジャズピアノ、ギターなども聴けるとあって、毎回100〜150人ほどがホールに集まる。とかく常設には集まらない近在の方々をお誘いする手段が倶知安の文化センターになったのである。

 近隣には本館を含めて5つの美術館や文化施設があり、「しりべしミュージアムロード」を形成している。

倶知安町北6条東7丁目1番地tel. 0136-21-4141JR函館本線「倶知安駅」下車、タクシー約7分、徒歩約30分(約2.7km)札幌から車で約2時間。
開館時間:9:00〜17:00
(入館は16:30まで)
休館日:火曜日(火曜が祝日の場合は翌日休館)、年末年始
観覧料:一般500円、高校生300円、小学生100円
小川原脩《群れ》1977年/油彩
小川原脩《群れ》1977年/油彩

全文を読むにはログインしてください。

メールアドレス
パスワード
自動ログイン

「常設」に会いに行く バックナンバー

「常設」に会いに行く vol.23 2023年2月20日

荒井工芸館

白老で創作木彫り作家・荒井修二の作品に出会う読む

「常設」に会いに行く vol.22 2023年1月16日

有島記念館

美術館の個性は常設コレクションにあり!北海道内の美術館の「常設展」を訪ねます。読む

「常設」に会いに行く vol.21 2022年12月19日

北海道立釧路芸術館

釧路芸術館は写真のコレクションが充実している。読む

「常設」に会いに行く vol.20 2022年11月21日

モエレ沼公園

大地に刻んだイサム・ノグチの夢読む

「常設」に会いに行く vol.19 2022年10月17日

北一ヴェネツィア美術館

北一ヴェネツィア美術館は、株式会社北一硝子が建てたヴェネツィア風の建物に本場ヴェネツィアのガラスを招いて作った美術館である。読む

「常設」に会いに行く vol.18 2022年9月20日

木田金次郎美術館

中学の国語の教科書に載っていた『生れ出づる悩み』が、有島武郎を読んだ初めだった。読む

「常設」に会いに行く vol.17 2022年8月15日

ニトリの小樽芸術村に4月に加わったアールヌーヴォーの館

この春に小樽で開館したばかりの西洋美術館にはステンドグラス、アールヌーヴォーのガラス、近代のブロンズ彫刻などの他に家具がある。読む

「常設」に会いに行く vol.16 2022年7月19日

苫小牧市美術博物館

苫小牧市美術博物館はその名の通り、博物館と美術館の両方の機能を持つ。もっとも英語では同じくミュージアムであるが。読む

「常設」に会いに行く vol.15 2022年6月20日

相原求一朗美術館(中札内)

中札内村にある六花亭アートヴィレッジで、もっともよくそのコンセプトを表すのは相原求一朗美術館ではないかと私は思う。読む

「常設」に会いに行く vol.14 2022年5月16日

第一洋食店(苫小牧)

 2019年に苫小牧市美術博物館で『特別展 第一洋食店の100年と苫小牧』が開催された。読む

「常設」に会いに行く vol.13 2022年4月18日

国立アイヌ民族博物館(ウポポイ内)

5月15日までウポポイで開催されているテーマ展「白老の衣服文化」はウポポイの収蔵品を中心に各地の館からも貸借しての意欲的な展示である。読む

「常設」に会いに行く vol.12 2022年3月22日

芸術の森美術館

 札幌芸術の森美術館ではこの3月13日まで『きみのみかた みんなのみかた』と題した展覧会を開催していた。これは収蔵品の「みかた」について一つの視点を提示し、鑑賞の幅を広げようという企画である。読む

「常設」に会いに行く vol.11 2022年2月21日

市立小樽美術館

文学館と隣り合った美術館で出会う小樽の作家たち読む

「常設」に会いに行く vol.10 2022年1月17日

小樽芸術村 ステンドグラス美術館

 「ステンドグラス美術館」はニトリが運営する小樽芸術村の中にある。旧高橋倉庫と旧荒田商会の歴史的建造物を再生して、小樽の古い町並みを保存する一助ともなっている。読む

「常設」に会いに行く vol.9 2021年12月20日

本郷新記念札幌彫刻美術館

宮の森の本郷新記念彫刻美術館への道を登っていくと、途中の松の木の下でブロンズ製の乙女がギターを奏でていた。読む

「常設」に会いに行く vol.8 2021年11月16日

北海道立近代美術館

 道立近代美術館は、大きな企画を持ってくる所と一般的には思われている。ゴッホ展などにはたった2、3ヶ月の会期中に何十万人も入る。しかし実は5000点以上の収蔵品を持つ大きな美術館でもある。読む

「常設」に会いに行く vol.7 2021年10月18日

札幌芸術の森野外美術館 気持ちよい屋外空間で出会う作品群

 札幌芸術の森野外美術館はとても気持ちの良い美術館だ。野外美術館はどこもそうかもしれない。読む

「常設」に会いに行く vol.6 2021年9月21日

北海道立帯広美術館 自然との対話

 広い広いどこまでも続く土地。私たちが帯広と聞いてイメージするのはそういう風景である。読む

「常設」に会いに行く vol.5 2021年8月16日

中原悌二郎記念旭川市彫刻美術館 ブロンズと友情の作家

中原悌二郎(1888〜1921)といえば、東京新宿中村屋を連想せざるを得ないだろう。読む

「常設」に会いに行く vol.4 2021年7月19日

北海道立函館美術館 西洋文化の窓口、東洋美術の精華

 北海道立函館美術館は、道内では最も早く開けた土地柄からして古くからの文化があり、特に書に関するコレクションが充実している。読む

「常設」に会いに行く vol.3 2021年6月21日

小川原脩記念美術館 失意と回復の狭間で

小川原脩(おがわらしゅう)(1911〜2002)は北海道以外の地域で意外に知られる画家である。読む

「常設」に会いに行く vol.2 2021年5月17日

北海道立旭川美術館 北の木工を支える人々

美術館の存立理由は世界中から借りてくる名品を展示する企画展にではなく、その館が所有する所蔵品にある。読む

「常設」に会いに行く vol.1 2021年4月19日

北海道立三岸好太郎美術館

三岸好太郎の代表作は?と副館長・五十嵐聡美氏に問うと「のんびり貝」と「飛ぶ蝶」だという返事が返ってきた。読む

先頭へ戻る