VOL.49
最近観た日本の青春SF映画に「未来では映画文化が過去のものになる」という設定が出てきて驚いた。と同時に、「タイパ(※1)」「ファスト映画(※2)」なる言葉が生まれる昨今なら、あり得るかも…と悲しくなった。映画館離れが言われる現代だが、悪いことばかりではないと、私は思っている。理由の一つが、旧作のデジタル化。かつて〝幻の映画〟だった「大地の侍」も、その恩恵にあずかった幸運な1本だ。
明治元年。戊辰戦争で敗れた東北・岩出山藩(現・宮城県大崎市)の武士たちは、郷土を奪われ、追われるように北海道へと渡った。刀をくわやすきに持ち替え、伐採や開墾に挑むものの、与えられたのは不毛の地。飢えや寒さ、さまざまな困難と闘う彼らは、肥沃な土地というトウベツに希望を見出す…。そう、今や美しい田園風景が広がる当別町を開拓した岩出山伊達家一門をモデルにした歴史大河である。
私が初めて観たのは2011年秋、札幌プラザ2・5(現・サツゲキ)でのこと。実はそれまで本作は、制作した映画会社にも東京国立近代美術館フィルムセンター(現・国立映画アーカイブ)にもフィルムがなく、ゆかりの地・当別町に16ミリフィルムがあるだけの状況。ところがその年の春、道内で35ミリフィルムが偶然見つかり、貴重な上映会となったのだ。大きな話題となって会場は満席、スクリーンに映し出された〝幻の映画〟に、身震いするような思いだったことを覚えている。
モノクロの開拓映画というと、面白みのないドキュメンタリーのような内容を想像するかもしれないが、時代劇スター・大友柳太朗さん演じる開拓団リーダーの主人公・阿賀妻をはじめ、登場人物それぞれにドラマがあり、私は一気に引き込まれた。そして、この苦闘の物語が、自分の住む北海道のルーツということに深く打たれたのだった。クライマックス、故郷からの開拓団第2陣との再会シーンではもう涙、涙。赤ん坊を抱く高千穂ひづるさんの、笑顔のアップが忘れられない。
本作にまつわるエピソードで興味深かったのが、公開当時に観た方が「カラー映画だと思っていた」と話していたこと。また、「土を食べる場面があると勘違いしていた」という思い出話も新聞の読者コラムにあった。観た方それぞれが映画の印象を反芻し、イメージを膨らませたのだろう。私の脳裏に残る高千穂さんのシーンも、本当にアップだったのか少し自信がない。
北海道ロケの名作として多くの人に見てもらいたいと願っていたら、2021年DVD化が実現! 上映セミナー(※3)を実施するHAL財団理事長の磯田憲一氏は「武士だった人々が絶望から立ち上がり、悪戦苦闘した試みが北海道農業の基礎の一つとなったことを実感できる大切な映画です」と話していた。
さて、本作の原作は当別町出身の作家・本庄陸男の『石狩川』。どう手に入れようか悩んでいたら、インターネット電子図書館・青空文庫に掲載されていたのも、デジタル時代ならではの驚きだった。400ページを超える原作本はすっぽり私のスマホに入っており、ちょっとした時に開いては読み返している。
スマホやパソコンの画面で映画を観ることにだいぶ慣れた私だが、やっぱり映画館のスクリーンは特別だ。この「大地の侍」も、またどこかの劇場で〝再会〟できる日を楽しみにしている。
文&イラスト 新目七恵(あらため・ななえ) ライター、ZINE「映画と握手」発行人。AFC「映画と握手」上映会第1弾が無事終了しました。サツゲキでたくさんのお客様と観る「アイヌモシリ」。うれしく、忘れられないひとときとなりました。ご来場くださった皆さん、ありがとうございました!
※1 「タイムパフォーマンス」の略で、費やした時間に対する成果や満足した度合いを意味する。
※2 映画のあらすじや結末を10分程度にまとめた違法動画のこと。
※3 HAL財団の「大地の侍」上映セミナーについては、公式サイト(https://www.hal.or.jp/daichi-n...)か
同財団(TEL:011-233-0131)に問い合わせを。
「映画と握手」は「北海道マガジンKAI」のサイトでもご覧いただけます。