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地域を知る一冊

『海炭市叙景』佐藤泰志

 何度も芥川賞などの候補に挙がりながら受賞することなく、三島由紀夫賞を逃した翌年の1990年に41歳で自殺した佐藤泰志。「海炭市叙景」はその死後に刊行された、函館をモデルとした架空の都市「海炭市」を舞台とする短編小説集です。

 海炭市は、海と炭鉱、それに造船所と国鉄しかないと登場人物に語らせているように、この時点(おそらく80年代前半)で先行きの見えない変化してゆく地方都市として描かれています。佐藤の出身地である函館がモデルであることは小説内の具体的な描写からもわかることですが、しかし同時に、北海道で生まれ暮らす読者であれば、自らの故郷やその近隣の地方都市に容易に読み替えることができます。海炭市は、釧路市であり、稚内市であり、小樽市であり、夕張市や旭川市でさえあります。それまでの繁栄が終わりを迎えて、急激に変化していく典型的な地方都市の姿です。

 そして緩く繋がった18の各章に登場するのは、地方都市に暮らす極めて普通の「わたし」ばかりです。1章で妹を残しておそらく自殺してしまったと思われる兄から、18章で何かをやめ何かをはじめることができるか考える龍一まで、描かれているのは凡庸な人々の凡庸な苦悩であり、佐藤はそれらをカメラで切る撮るように第三者の視点で正確に書き表しています。その意味で、この短編集はタイトルにあるとおり「叙景」そのものではないでしょうか。

 人生の上で生まれ故郷を出る決断をした人間であれば、誰もがこの短編集の登場人物達を、幾分苦々しく、同時に懐かしく思うのではないでしょうか。故郷を出て30年を過ぎた私は、どちらかというと苦い気持ちで読み終えました。

 ところで、18章だけちょっと雰囲気が違いますね。村上春樹っぽい。佐藤と村上は同じ1949年生まれですが、同時代性だけではない共通点がこの章だけあるように思います。

この記事を執筆したのはAFC会員 たろう さんです

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