災害級の大雪に見舞われた札幌にもようやく春が訪れた。その厳しかった冬のまっただ中に、私たち新聞製作に携わる者にとって忘れることのできない出来事があった。
2月10日未明、札幌市北区の石狩街道で、原付バイクに乗って朝日新聞を配達していた髙橋章二さん(46)が車にはねられて亡くなった。運転していた20歳の男は事故車を放置して逃げたが、間もなくひき逃げや酒気帯び運転などの容疑で逮捕された。
事故を伝えるニュースに映し出された現場は、路面が雪で押し固められ、そこに破れた朝刊がタイヤの跡とともに張り付いていた。何もなければ、髙橋さんの手で読者に届けられていたはずだった。
髙橋さんは20年間、札幌市内で朝日新聞の配達を続けていた。20年前、私は社会部記者として事件や事故、災害の現場を走り回っていた。髙橋さんが配っていた新聞の片隅に、私の拙い記事が載っていたかもしれない。
通夜の席で受け取った会葬礼状に、高校生と中学生の兄弟の父親に向けた感謝の言葉が綴られていた。
「『この仕事に誇りを持っているよ』と話してくれたのは、つい最近のこと。その表情はとても輝いていて、改めて父のことを格好良いと感じました」
新聞では連日、ウクライナの状況が報じられている。一方、ロシア国内では全く違う内容で伝えられている。正しい情報を発信し、一人ひとりに届けることがどれほど大切なことか。これこそが、髙橋さんが誇りに感じていた仕事ではないだろうか。その仕事に恥じない仕事を、私たちはしているだろうか。
2人の文章を何度も読み返しながら、自問を繰り返している。