このWebサイトの全ての機能を利用するためにはJavaScriptを有効にする必要があります。
>HOME >新聞の片隅に >「髙橋さんのこと」(2022/4/18)

VOL1:髙橋さんのこと

災害級の大雪に見舞われた札幌にもようやく春が訪れた。その厳しかった冬のまっただ中に、私たち新聞製作に携わる者にとって忘れることのできない出来事があった。

 2月10日未明、札幌市北区の石狩街道で、原付バイクに乗って朝日新聞を配達していた髙橋章二さん(46)が車にはねられて亡くなった。運転していた20歳の男は事故車を放置して逃げたが、間もなくひき逃げや酒気帯び運転などの容疑で逮捕された。

 事故を伝えるニュースに映し出された現場は、路面が雪で押し固められ、そこに破れた朝刊がタイヤの跡とともに張り付いていた。何もなければ、髙橋さんの手で読者に届けられていたはずだった。

 髙橋さんは20年間、札幌市内で朝日新聞の配達を続けていた。20年前、私は社会部記者として事件や事故、災害の現場を走り回っていた。髙橋さんが配っていた新聞の片隅に、私の拙い記事が載っていたかもしれない。

 通夜の席で受け取った会葬礼状に、高校生と中学生の兄弟の父親に向けた感謝の言葉が綴られていた。

 「『この仕事に誇りを持っているよ』と話してくれたのは、つい最近のこと。その表情はとても輝いていて、改めて父のことを格好良いと感じました」

 新聞では連日、ウクライナの状況が報じられている。一方、ロシア国内では全く違う内容で伝えられている。正しい情報を発信し、一人ひとりに届けることがどれほど大切なことか。これこそが、髙橋さんが誇りに感じていた仕事ではないだろうか。その仕事に恥じない仕事を、私たちはしているだろうか。

 2人の文章を何度も読み返しながら、自問を繰り返している。

全文を読むにはログインしてください。

ログインID
パスワード

新聞の片隅に バックナンバー

Vol.14NEW!

MINAMATA

ジョニー・ディップ主演の映画「MINAMATA」で、真田広之演じる男が自らの体をチッソ水俣工場の鉄門扉に鎖で結びつけるシ…

Vol.13

空色の栞(しおり)

大惨事は澄み渡った青空の下で起きた。2005年4月25日、神戸総局のデスクだった私は、ひっきりなしにかかってくる電話を受…

Vol.12

AIと羽生さん

52歳の羽生善治と20歳の藤井聡太の新旧レジェンド対決となった王将戦。第2局では羽生の金打ちが流れを変えたと評されている…

Vol.11

3月11日

「被災者」という言葉は使いたくなかった。 東日本大震災の直後に仙台総局のデスクとして赴任し、現場から送られる同僚記者の…

Vol.10

はるかのひまわり

ダンプか何かが突っ込んだのかと思った。1月17日午前5時46分、ドンと突き上げられるような衝撃で起こされた。…

Vol.9

乳児誘拐事件

年末になると必ず思い出す事件がある。1989(平成元)年、入社2年目の私は兵庫県たつの市の駐在記者だった。…

Vol.8

ミサイルの現場

北緯40度11分、東経147度50分。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)から発射されたミサイルが日本の頭上を越えて着弾した…

Vol.7

29年前の名刺

手もとに一枚の名刺がある。名前は「高橋治則」、肩書は「EIEインターナショナル取締役社長」。…

Vol.6

百年記念塔とウポポイ

北海道百年記念塔の解体がこの秋にも始まると報じられている。…

Vol.5

削り取られる戦争の記憶

朝日新聞の「声」欄では、偶数月の第3土曜日に「語りつぐ戦争」の特集を組んでいる。…

Vol.4

亡命者から旭川の英雄になったスタルヒン

高校野球の季節がやってきた。北北海道大会が開催されている旭川市のスタルヒン球場は、球場の名前にもなった大投手スタルヒンの…

Vol.3

国に帰れない日本人たちがいた時代

ウクライナから隣国のハンガリーに避難した人たちの支援活動をした日本人医師の記事が地域面に載っていた。…

Vol.2

いちばん大切なこと

入社した1988年、赴任した姫路支局の玄関前には兵庫県警のパトカーが24時間待機していた。…

Vol.1

髙橋さんのこと

 災害級の大雪に見舞われた札幌にもようやく春が訪れた。その厳しかった冬のまっただ中に、私たち新聞製作に携わる者にとって忘…

先頭へ戻る