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>HOME >新聞の片隅に >「新聞のチカラ」(2024/1/15)

VOL22:新聞のチカラ

※写真は記事内容と直接関連していません

 政治とカネの問題の追及は、社会部記者に課せられた至上命令だった。

 東京社会部にいた2007年、当時の第1次安倍内閣は足元が揺らいでいた。農水相だった松岡利勝氏が事務所費問題発覚後に自殺。その後任の赤城徳彦氏も事務所費問題で辞任に追い込まれた。

 国民に見えないカネで政治が左右されることは許されない。東京社会部では調査報道班を結成し、大量の収支報告書と格闘しながら安倍内閣の政治とカネの問題を追った。私はその担当デスクだった。

 赤城氏の後任として農水相に就いたのは、山形選出の遠藤武彦氏。その遠藤氏の地元での評判を聞こうと山形総局に電話をした。このとき、電話に出た記者から、遠藤氏が組合長をつとめる農業共済組合に関する匿名の手紙が総局に届いていることを知らされた。ファクスで送ってもらった文面には、組合が国から補助金を不正に受給している疑いが記されていた。

 社会部と山形総局の総力を挙げた取材が始まった。関係者の聞き取りなどで事実確認はできた。だが、遠藤氏本人と連絡が取れない。記事にするには当事者の弁明が不可欠だ。そんな中、遠藤氏が山形から新幹線で東京に向かっているという情報をつかむ。8月31日夜、東京駅から迎えの車に乗り込もうとしている遠藤氏を取材班の記者がつかまえた。

 「正式の場で。歩きながらでは答えられない」

 そんなコメントとともに、9月1日付けの朝刊1面トップに記事が載った。
 2日後、遠藤氏は辞任。その9日後、安倍首相が辞意を表明した。
 新聞のチカラを、いまこそ信じたい。

朝日新聞 前北海道支社長 山崎靖

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新聞の片隅に バックナンバー

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新聞の片隅に vol.23 2024年2月19日

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新聞の片隅に vol.22 2024年1月15日

新聞のチカラ

政治とカネの問題の追及は、社会部記者に課せられた至上命令だった。読む

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上沼恵美子さんを取材したのは、いまから29年前になる。39歳だった上沼さんはこの年、紅白歌合戦の司会に抜擢された。読む

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被害状況は目下調査中なるも極めて軽微の見込みなり  1945(昭和20)年7月15日の朝日新聞東京本社版の1面にこう記されている。読む

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ベイブルース

大谷翔平選手が新記録を打ち立てる度に比較されるベーブ・ルース。その名前を聞くと、ある漫才コンビを思い出す。読む

新聞の片隅に vol.14 2023年5月16日

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新聞の片隅に vol.13 2023年4月18日

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新聞の片隅に vol.12 2023年3月20日

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新聞の片隅に vol.11 2023年2月20日

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新聞の片隅に vol.10 2023年1月16日

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新聞の片隅に vol.9 2022年12月19日

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手もとに一枚の名刺がある。名前は「高橋治則」、肩書は「EIEインターナショナル取締役社長」。読む

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新聞の片隅に vol.4 2022年7月19日

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髙橋さんのこと

 災害級の大雪に見舞われた札幌にもようやく春が訪れた。その厳しかった冬のまっただ中に、私たち新聞製作に携わる者にとって忘れることのできない出来事があった。読む

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