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中標津町の養老牛温泉は名湯で知られる。
札幌赴任中の一昨年10月、釧路市の友人と訪れた。運が良ければシマフクロウが姿を現すという(残念ながらこのときは見られなかったが)湯宿を出ると、友人が自慢げに言った。
「この近くにもう一つの名湯があるよ」
宿からひと山越えた川沿いに、その温泉はあった。温泉と言っても、丸い湯船の形に石が組まれているだけの、いわゆる野湯である。
木造の小屋で脱衣し、ちょっと熱めの湯にゆっくりと浸かる。あ~と思わず声が出た。色づいた木々の葉擦れと川のせせらぎしか聞こえない。
手書きの看板には「からまつの湯」とある。30年以上前から地元や近隣の人たちが湯船の清掃や温度の調節などを続けているという。養老牛温泉の「裏温泉」とも言われ、知る人ぞ知る秘湯なのだそう。
忘れがたい体験から1年半後の今年3月、北海道新聞のデジタル版で偶然見つけた記事のタイトルに目が止まった。
「中標津の露天風呂『からまつの湯』撤去 21年にやけど死亡事故」
私たちが訪れた直後に利用者が湯船に落ちてやけどを負い、亡くなる事故が発生した。その後、立ち入りが禁じられ、結局、「安全管理の計画を立てて整備・運営をする適切な管理者が現れなかった」との理由で撤去されることになったという。
温泉や登山、キャンプで大自然を楽しむことができるのは、それをしっかりと管理をする人たちがいるからである。そんな当たり前なことに改めて気付かされた。
朝日新聞 前北海道支社長 山崎靖
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